菅政権の「武器輸出三原則」緩和問題に関する一考察
武器輸出三原則見直し論議へ=首相と防衛相に温度差
政府は、原則としてすべての武器や関連技術の輸出を禁じる武器輸出三原則について、見直しの是非など本格的な議論を近く開始する。菅直人首相は、年内にまとめる新たな防衛計画大綱の策定過程で、三原則の議論を始める意向を表明。北沢俊美防衛相は三原則を見直し、新たな原則の策定に前向きな考えを示した。ただ、首相は見直しに慎重姿勢を示しており、論議の行方は不透明だ。
武器輸出三原則は、1967年に佐藤栄作首相(当時)が(1)共産圏諸国(2)国連決議による武器輸出禁止国(3)紛争当時国-には武器を輸出しないと表明したもの。76年には三木武夫首相(同)が「平和国家」の立場から、三原則の対象国以外への武器輸出も事実上禁止する見解を示した。米国に限り、武器技術の供与やミサイル防衛(MD)の共同開発などが認められ、三原則の例外となっている。
各国では戦闘機など兵器の共同開発が進んでいるが、日本では次期主力戦闘機(FX)の選定で、三原則が足かせとなって共同開発に参加できず、部品メーカー56社が防衛産業から撤退する動きを見せている。防衛省には「日本の技術が世界に後れを取る」(幹部)と危ぐする声が根強い。
北沢氏は15日の記者会見で「これからは共同開発、共同生産が主流になる。見直しの議論は大いにあっていい」と、武器輸出三原則の見直しに意欲を表明。14日の参院予算委員会では、「新しいもの(原則)をつくるべきではないか」との考えも示した。
一方、首相は同日の参院予算委員会で三原則見直しについて「どういう扱い方があるのか、これからの防衛大綱の議論の中でしっかりやっていきたい」と述べるにとどめた。仙谷由人官房長官は「基本や理念を変えるというわけではない。大きく世の中が変わっているから、変える余地があるのかないのかを議論する」と説明する。
政府は防衛大綱を12月上旬をめどにまとめる方針。北沢氏は仙谷氏や前原誠司外相らとの検討会で三原則について議論する考えだ。ただ、「首相と防衛相の間には三原則見直しの考えに開きがある」(防衛省幹部)と指摘され、大綱でどこまで見直しを打ち出せるかは流動的だ。
(2010/10/16-19:49 *共同通信)
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菅総理は「武器輸出3原則」について、12日夜、記者団に対し「基本的な考え方を変えるつもりはない」と述べています。この「基本的な考え方を変えるつもりはない」とはどの様な根拠に基づくものなのでしょうか。具体的で現実的な論拠であれば良いのですが、ただのイデオロギー的な神学論争であれば合理的とは言えません。国家元首であるのならば国益が何かとの基準で判断をして欲しいものです。
武器輸出三原則の緩和にも様々なレベルがあると思います。まず喫緊の課題となっているC-2輸送機やUS-2の輸出です。菅総理はこれらの輸出にも慎重なのでしょうか。「民間転用は量産効果による装備品の価格低減など、わが国の防衛政策、技術基盤の維持・強化につながる」と3月30日のXC2初号機納入式で北沢防衛相も述べており、メリットは大きいと考えます。
日本の航空産業が世界に大きく羽ばたくこととなり、実現しますとMRJと並び日本の産業界にとり大きなビジネスチャンスとなります。
XC2の最大のセールスポイントとしましては、民間旅客機と同じ巡航速度と高度性能で飛行が可能であり、従いまして民間旅客機と同じルートを飛行可能ということがあります。今後は新興国の経済発展や、ロシアのAn-124などが退役時期を迎えることなどから、20年間で約200機の需要も見込めるとの予測もあります(2006年JADC予測)。
水陸両用飛行艇は、過去にUS-1/US-1Aに関して50ヶ国以上から引き合いがあったとのことで、潜在的な需要は充分あることが予測されます。
経済産業省は航空産業を原子力や次世代医療機器と並ぶ日本産業界の今後の基幹と考えている模様です。かつて日本が世界一であったカラーテレビ、エアコン、冷蔵庫等の家電製品は中国が世界一のシェアを占めています。日本はより高度な安全性と技術力が要求される航空産業等で競争していく必要があるとの戦略のようです。自動車は1000万時間無事故であることが求められますが、航空機はその100倍の10億時間無事故であることが要求されます。航空機開発で培われた高度な技術が、自動車や医学等のその他の分野にフィードバック可能な事も魅力の一つと言えるでしょう。
話を武器輸出三原則の緩和論に戻しますと、緩和論の更に進んだレベルとして、記事でも触れられています戦闘機等の正面装備の共同開発があります。このレベルになりますと、確かに日本の技術が直接的に国際紛争に使われる可能性が出てくるのかもしれません。しかし現実問題としてトヨタのピックアップトラックがアフリカ諸国等の民兵やアルカイダなどにも使われている現状がある以上は、こういった懸念は反対する根拠としては説得力に乏しいと私には感じられるのです。
特に今後の最新鋭兵器は最先端技術の結晶であり、開発及び調達コストが高騰する虞が高いのです。技術的ハードルは勿論のこと、全て国産では予算的に賄いきれない可能性もあります。特にF-2後継として計画中の将来戦闘機は国際的な共同開発もあり得ます。
日本の航空産業は米国製戦闘機をライセンス生産する事により経験を重ねてきました。その延長上にF-2があり、F-2開発で培われた主翼の複合材技術はボーイング787やMRJの開発でも活かされています。ボーイング787では日本の開発・製造シェアは35%にも上ります。共同開発により世界各国の最先端技術に触れる事が出来るのは非常に魅力的なことに思えるのです。今後も日本が圧倒的な技術力で激化する国際競争を勝ち抜いていく上でも、 武器輸出三原則の緩和は必須だと個人的には考えます。
参考文献 「飛翔」 財団法人 経済産業調査会 ISBN978-4-8065-2810-4
10/21(木)追記:新明和、民間転用時の救難飛行艇を70億円に-ボンバルディアに対抗(日刊工業新聞 掲載日 2010年10月20日)
「東南アジアや欧州、地中海沿岸諸国、中東などが関心を示しており、これまで約35カ国から70件以上の引き合いがあるという」
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玩具でさえ高度な技術を使っている時代に半世紀近く前に決められた基準でいることの方がおかしいでしょう。
また現実問題として、戦闘機をはじめとする兵器は日本だけで開発できないのですから、三原則は変えざるを得ないと思います。
私見ですが、僕はボーイングが好きなのでF-4後継機としてF-15(サイレントイーグル)に決まって欲しい方です。
ライセンス生産そして部品の輸出のためにも変えて欲しいですね。
投稿: みやとん | 2010年10月20日 (水) 21時12分
武器輸出三原則は元の原文に解釈を戻していいと思うけどね 日本の利益につながることは積極的に政府が手伝わないと
ビジネスに感情をもちこんじゃ駄目だな
しかし本当に川崎重工はよく頑張ったと思うよ C-Xはヨーロッパの先進国の共同開発であるA400Mに匹敵、もしくは上回っている機体をたった一カ国で作ったんだから
投稿: イーグル | 2010年10月20日 (水) 23時27分
みやとん氏
玩具で使われている技術が軍事に応用出来るかどうかは分かりませんが、それでも様々な分野のかなり高度な技術が世界的に流通している事実は否めませんね。その一方で安全保障上の理由から、一部技術や一部の国に関しては通商上の輸出規制が世界各国にて行われていることも否めない事実です。
日本 http://www.meti.go.jp/policy/anpo/hp/index.html
米国 http://www.pmddtc.state.gov/regulations_laws/aeca.html
より現実的で実効性の高い政策に改めていくことが求められていると考えています。
イーグル氏
XP-1とXC-2は我が国の航空技術が大きく向上しつつある事の証明であると考えます。
A400Mは重量超過、開発スケジュール延滞、開発費高騰が深刻化しつつある様ですね。その意味でも日本のXC-2の成功は快挙であると言えます。
投稿: アシナガバチ | 2010年10月21日 (木) 12時44分