菅政権の社民党との連携強化と武器輸出三原則緩和見送りに思うこと
菅総理が社民党との連携を強化する方針を打ち出しました。読売新聞社が今月の3~5日に実施した全国世論調査では菅内閣の支持率が25%にまで下落し、政権末期となりつつあります。
民主党の議席は衆議院で2/3に届かず、参議院では過半数を有しない極めて厳しい状況にあります。菅総理が社民党に連携を呼び掛けたのはこういった事情があるものと思われます。しかし今回の連携強化でも、上記の厳しい国会運営状況を打開出来る訳ではありません。2010年12月7日06時56分の読売新聞の報道によりますと、12/17日現在の衆参両院の会派構成は下記の通りとなっています。
衆議院 (定数480・議長を除く「再可決」ラインは319)
民主党・無所属クラブ307
国民新党・新党日本4
社民党・市民連合6
(3会派計317)
自民党・無所属の会117
公明党21
共産党9
みんなの党5
たちあがれ日本3
国益と国民の生活を守る会2
無所属5
欠員1
参議院 (定数242・議長を除く過半数は121)
民主党・新緑風会106
国民新党3
社民党・護憲連合4
(3会派計113)
自民党83
公明党19
みんなの党11
共産党6
たちあがれ日本・新党改革5
無所属5
従いまして衆参両議院での状況打開には繋がらないばかりか、私は今回の社民党との連携強化がむしろ政権の弱体化に繋がるのではないかと見ています。民主党と社民党では外交安全保障政策に大きな溝があります。鳩山政権末期で噴出した政策不一致による政権迷走が再現されることになってしまうのではないでしょうか。以前の記事「鳩山政権末期に思うこと」でも書きましたが、政策や国家観が異なる政党が数合わせで連立政権を樹立しても、やがて矛盾が遅かれ早かれ出てきます。私個人は国家の根幹は安全保障政策にあると考えています。そこが根本的に一致しない政党が連立政権等を樹立したとしても、やがて瓦解すると思われるのです。今回の社民党との連携強化は連立政権ではありませんが、それでもやはり社民党の主張に相応の配慮を示さなくてはならなくなります。
菅総理は社民党が日本の武器輸出三原則緩和に対して反対している事を踏まえて「基本的な理念はしっかり守っていかなければならない」と述べています。その結果として今回の防衛大綱改定には武器輸出三原則の緩和は盛り込まれないこととなりました。そもそも過去に菅総理は武器輸出解禁には慎重な姿勢を示していたこともあり、その意味では菅総理と社民党では政策の一致があると言えるかもしれません。しかも社民党側は武器輸出なら日本は「死の商人」と主張を先鋭化させつつあります。
しかし事はそう単純ではないのです。今回の武器輸出緩和の方向性によっては欧州の安全保障をも左右する虞があるのです。
武器輸出三原則緩和の動きが活発化した理由の一つに欧州のMD整備計画があるのです。欧州のMDではSM-3の地上配備型が計画されています。
日本は米国とSM-3の共同開発を行っており、日本側が緩和をしないと欧州のMD整備は困難に直面することとなります。軍事評論家の岡部いさく氏は昨年9月のFNNの取材に対して「SM-3ブロック2Aの開発における日本政府の責任というのは、これはもう技術的にも、政治的にも非常に重いものになりますね。もし、このミサイルの開発が遅れれば、オバマ大統領のミサイル防衛構想にまで波紋が広がっていくわけです」と解説しています。
また他の識者も日本が緩和に消極的になった場合は国際問題となる可能性を指摘しています。因みにSM3輸出解禁の件はウィキリークス流出以前から複数の軍事評論家から指摘されており、またそもそも日本政府は共同開発同意時点でSM3に関しては第三国へ輸出される事を容認していたのであり、その意味でもこの件に関する公電は何ら驚愕に値しません。
武器輸出三原則が菅政権に引導を渡す-12月解散?: 数多久遠氏
また社民党と連携強化をするとなると、鳩山政権が終焉を迎えるきっかけとなった米軍普天間基地問題が再び迷走する可能性があります。社民党はこれが原因で鳩山連立政権から脱退しました。この件でも社民党が主張をするのは避けられません。その一方で菅総理は来年春に予定される訪米までの決着にはこだわらない考えを示していますが、6日昼(日本時間7日未明)に行われました日米外相会談では米側より督促を受けています。日本側が米側を納得させられる代替案を提示しない限りは、米側は普天間基地を継続利用することとなり、沖縄の負担軽減というそもそもの目的が達成出来ないという本末転倒の結果となります。世論は菅政権に対して更に厳しい評価を下すでしょう。日米関係も一気に冷却化します。日米関係が悪化しますと中国が更なる挑発的行動に出る可能性もあります。こうなれば菅政権の支持率は退陣水域にまで更に低下する虞もあるのです。現在の菅政権の状況はあらゆる意味で鳩山政権末期のそれに酷似しつつあります。この意味でも今回の社民党との連携は極めてリスクの大きな賭と言わざるを得ません。
自民・谷垣総裁と読売・渡辺会長の会談や鳩山兄弟、小沢・舛添氏会談するなど政界でも様々な動きが出始めました。菅政権の寿命も最早そう長くはないのかもしれません。
2010年12月16日追記:政府、武器輸出解禁視野に検討 新防衛大綱最終案に明記(10年12月16日02時02分 共同通信)
2011年1月11日追記:日米共同開発ミサイル、第三国移転へ基準策定(2011年1月9日03時03分 読売新聞)
参考資料
SM-3
http://www004.upp.so-net.ne.jp/weapon/sm-3.htm
欧州MD配備計画
http://www004.upp.so-net.ne.jp/weapon/paa.htm
陸上配備型SM-3
http://www004.upp.so-net.ne.jp/weapon/aegisashore.htm
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