普天間14年移設断念の方針…固定化不可避に
(写真は普天間飛行場 Wikipediaより Sonata氏撮影)
読売新聞の2011年05月07日(土)の報道によりますと、日米両政府は普天間14年移設を断念する方針を固めました。その理由としましてこの報道は「沖縄県内での移設をめぐって地元の合意形成が難航」している為としています。今回の結末は沖縄県民にとり最悪と言って良いでしょう。そもそも県民の負担軽減を図る目的で移転が決まったのにも関わらず、この普天間基地移設無期限見送りとの結論は本末転倒です。
これはあくまで私の個人の考えですが、そもそも国の外交・防衛に関する政策に関しましては政府が大局的な視点から方針を決める事柄であって、地方自治体の意向に大きく影響を受けることがあってはならないと考えます。公有水面埋立法等で地方自治体の首長の許認可権限が外交・安全保障の問題を左右するのは防衛上の脆弱性とも言えるでしょう。日米同盟は日米両国間だけの問題ではないのです。鳩山政権当時の「最低でも県外」との姿勢に対し、各国より懸念が表明されました。
2010年3月26日(金)日経新聞報道:アジア有力国「普天間問題を早く解決して欲しい。日米同盟が揺らいだら中国軍の影響がさらに強まってしまう」外交ルートを通じ日本政府に懸念を表明
2010年3月27日(土)日経新聞報道:元韓国国防相 金章洙氏「朝鮮半島有事の際は、普天間基地の米海兵隊が後方の増援部隊となる。」「米国から来る増援部隊の待機場所ともなる同基地が日本から海外に移転すれば、対北朝鮮防衛や北東アジアな戦略的抑止力に大きな問題が生じる。」「例えば、米グアムやサイパンから増員戦力を展開すれば普天間からの2倍以上の時間が必要」日経新聞とのインタビューで
2010年4月29日(木)日経新聞報道 フィリピンのシアゾン大使(肩書きは当時)「突然、沖縄から米軍がいなくなったらアジアの安定が揺らいでしまう。日米安保体制は日本のものだけではないのです」(2010年03月30日の日本国外務省での昼食会にて)
その一方で地方自治体の選挙や住民投票で民意が示された場合は、例え住民投票に法的拘束力がなくとも考慮しなくてはならないのも事実です。それでは地元での理解が得られなくなった背景には何があるのでしょうか。それは鳩山前政権が「最低でも県外」と明言したことから歯車が狂い始めたと私は見ています。沖縄県民の立場になって考えますと、在日米軍基地に反対する気持ちは理解出来ないことではありません(尤も基地により恩恵を受けている住民の方々も少なくはありませんが)。そこに2009年09月に民主党政権が発足し、当時の鳩山総理が「最低でも県外」と明言したのですから県民感情からしますと期待するのは当然のことなのです。そしてそれが調整をより困難なものにし、結果として時間も足りなくなりました。
以前の記事「鳩山政権末期に思うこと」でも述べましたが、辺野古移設は日米双方が10年以上の歳月をかけて議論をして至った結論であり(参考資料:「普天間基地移設問題の経過」 琉球新報2009年10月25日 )、2009年09月に政権発足し僅か数ヶ月間でこれよりも良い発案をするのは困難だったのです。そしてこの記事で私は沖縄県民の世論が硬化してしまった今となっては現行案履行すら難しく、だとすれば米側とすればこのまま普天間基地を継続使用する虞がある旨を述べました。沖縄のその位置を考えれば米軍が国外移設や県外移設を受け入れる可能性は皆無であったからです。
参考資料:
週刊オブイェクト「なぜ普天間基地移設先は沖縄県内でなければならないのか」(2009年12月21日)
週刊オブイェクト「海外・県外移設の可能性」(2010年01月24日)
そして普天間固定化の懸念は今回現実の物となってしまいました。Wikileaksで最近明らかとなった米国側の立場は各種報道によりますと下記の様なものでした。
中国脅威論で嘉手納統合封じか<米公電分析> 1/3ページ 2011年05月04日(水) 朝日新聞
『「有事の作戦計画上の必要性を挙げ、「中国の軍事力増強」にふれて日本政府に説明していた。」』
中国脅威論で嘉手納統合封じか<米公電分析> 2/3ページ 2011年05月04日(水) 朝日新聞
『在日米軍のトゥーラン副司令官(当時)「グアム案では、時間と距離や、そのほかの作戦遂行上の課題が生じる。」』
中国脅威論で嘉手納統合封じか<米公電分析> 3/3ページ 2011年05月04日(水)朝日新聞
『「中国の劇的な軍事力増強によって、有事には少なくとも滑走路3本へのアクセスが必要となる。90年代には、朝鮮半島や中国での有事作戦計画を実行するのに、米空軍嘉手納基地と那覇空港、2本の滑走路があれば十分だったが、(普天間移設を最初に決める場となった)95年の日米特別行動委員会(SACO)以降、最も重大な変化は中国の軍事力増強だ」 』
これらはいずれも日本の当時の鳩山政権に対する懸念と中国の軍事的脅威に対する警戒を表明するものばかりです。
しかもその一方で今回の公電流出では09年末に米側に対し当時の鳩山総理が辺野古移設案を容認する姿勢も見せていたことが明らかとなっています(2011年05月05日 共同通信の報道)。さらに小沢氏が有事の際の米側による核持込を容認していたことも明らかになりました(軍事的には技術の発展に伴いその必要性はありませんが)。また民主党の「最低でも県外」の姿勢はあくまで沖縄県や有権者そして社民党向けのリップサービスであると米国側は分析していた模様です(2011年5月4日10時37分 朝日新聞報道)。そうだとしますとこれ以上の国際社会と有権者に対する愚弄はありません。そして小沢氏と鳩山氏はやはり本音と建て前が異なる政治家であることを物語っています。そもそも小沢氏は以前に鳩山氏から売国奴と言われる程の親米派でした。
私は以前の記事「豪首相が日本との安保関係強化を希望」のコメント欄の「みやとん」氏との対談の中で、例え政権交代があっても外交政策を変更するのは非常に困難である旨を述べました。それは「国益が何かという観点から考えなくてはならないことに加え、従来の国際条約の枠組みを容易に変更出来ない現実」があるからなのです。当時の鳩山内閣は「友愛外交」や「対等な日米関係」という理想主義的な外交方針を打ち出しました。しかし独自外交が反米である必要性はあるのでしょうか。日本が主体的に判断し、強固な日米関係こそが国益に適うと判断したからこそ今までの外交があるのではないでしょうか。今回の迷走と最悪の結末は理想主義が招いた結果であると私は考えます。政権交代に伴いまして政策転換があって当然です。しかし政策転換そのものが目的化することはあってはならず、あくまで何がベストかで判断するべきではなかったかでしょうか。
因みに今回の結末の最大のA級戦犯は未だに活発な発言を続けています。
北京で友愛呼び掛け=鳩山前首相、ファッションショーに出席 (5月7日(土)20時14分 時事通信)
「世界の国境がなくなり、平和になることを願っている」
原発新設せず温室ガス25%削減を…鳩山前首相(2011年5月3日20時26分 読売新聞)
(下記写真はWikipediaより 著作権はpublic domain )
2011年05月13日(金)12:40追記
<普天間移設>「嘉手納統合を」…米上院委員長ら声明(2011年5月12日(木)10時37分配信 毎日新聞)
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