ビン・ラーディン殺害作戦にステルス型ブラックホーク投入か
前回の記事「米国特殊部隊が米国同時多発テロ首謀者ビン・ラーディン容疑者を射殺」で米軍ヘリコプターが一機不具合を起こした旨を述べました。そしてその記事のCNN報道の動画を見て頂ければ、英語が聞き取れる方であれば分かるのですが、撤退する際に米軍はその不具合を起こしたヘリコプターを機密保持の為に爆破しています。この前回の動画で言えば2分50秒の部分で"The team made the call to destroy it there on the ground"(チームは地上のそこでヘリを破壊する決断をした)とリポーターが述べています。
しかしそのヘリコプターの尾翼部分が破壊されずに残り(実際にこのCNNの動画の2分45秒頃に尾翼が映し出されています)、その尾翼部分の残骸が非常に特異な形状であった為に物議を醸しています。襲撃に使用されたのはMH-60ブラックホーク(UH-60ブラックホークの特殊部隊仕様) であろうとされています。此方の下がブラックホークの通常型の写真です。テールローター部分にご注目下さい。
(写真はWikipediaより 著作権はPublic Domain)
そしてこの写真が今回現場に残されたネット上で出回っているヘリコプターの尾翼部分残骸です。尾翼そのものはブラックホーク系統であるのは間違いなさそうなのですが、テールローター部分にご注目下さい。円盤状の部品が装着されています。これが今までに少なくとも部外者はマニアも含めて見たことがない部品であった為に各方面で議論を呼んでいます。某カリスマブロガーも今まで見たことがない部品である旨述べています。
この事から、今回のビン・ラーディン殺害作戦で投入されたのはMH-60ブラックホークに改造を加えてステルス化したものではないかと言われています。下はネット上の各方面に転載されている想像図です。
(著作権に関しては不明です。米国のブロガーが作成した想像図の模様です。著作権上の問題がある場合はこの想像図の作成者の方はメールにてご連絡ください。対応させて頂きます。To the original author of the drawing above: Should there be a problem with the copyright, please send me an E-mail. I will take corrective actions. )
Aviation Weekにもこの件に関し2011年05月04日付けで"Bin Laden Raid May Have Exposed Stealth Helo"(ビン・ラーディン襲撃でステルスヘリが流出か)との記事が出ています。
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A previously undisclosed, classified stealth helicopter apparently was part of the U.S. task force that killed Osama bin Laden in Pakistan on May 1.
以前には公開されていなかった、機密のステルスヘリコプターが5月1日にパキスタンでビン・ラーディン容疑者を殺害した米特務部隊の明らかに一部であった。
The exact type of helicopter is unknown but it appears to be a highly modified version of an H-60 Blackhawk.
ヘリコプターの正確な種類は知られていないがH-60ブラックホークの高度に改造されたモデルであった模様である。
the helicopter’s tail features stealth-configured shapes on the boom and the tail rotor hub fairings, swept stabilizers and a “dishpan” cover over a five-or-six-blade tail rotor. It has a silver-loaded infrared suppression finish similar to that seen on V-22s.
ヘリコプターの尾翼はブームとテールローターハブフェアリングがステルス形状であり、スタビライザーと5枚または6枚のテールローターブレードに皿状のカバーがあった。V-22で見受けられるのに類似した銀含有の赤外線抑制仕上げがあった。
Stealth helicopter technology is not new and was applied extensively to the Boeing/Sikorsky RAH-66 Comanche, cancelled in 2004. Compared with fixed-wing stealth, more emphasis is usually placed on noise and infrared signatures.
ステルスヘリコプター技術は新しいものではなく2004年にキャンセルされたBoeing/Sikorsky RAH-66 コマンチのみに適用された。固定翼ステルス機に比較すると、通常は爆音と赤外線対策に重点を置かれる。
Noise can be reduced and made less conspicuous by adding blades to the main and tail rotors. It can also be reduced by aerodynamic modifications and flight control changes that make it possible to reduce rotor rpm, particularly in forward flight below maximum speed. Infrared reduction measures are crucial - the Comanche had an elaborate system of exhaust ducts and fresh-air ejectors in its tailboom.
メインローターとテールローターにブレードを追加することにより騒音を減らし気づきにくくすることが可能である。特に最大速度以下の前進飛行で、空気力学上の改造とフライトコントロール変更によりローターのrpm(一分間あたりの回転数)、を減らすことでも騒音を減らすことが出来る。赤外線削減は欠かせないものである-コマンチは排気ダクトと空気排出機をテールブームに有していた。
Radar cross-section (RCS) reduction measures include flattened and canted body sides, making landing gear and other features retractable, and adding fairings over the rotor hubs. It usually is not possible to achieve the same - you can’t make a helo as radar-stealthy as a fixed-wing airplane, but helicopters generally operate at low altitude in ground clutter.
レーダー反射面積(RCS)削減方法は平面化と傾斜化された表面、着陸ギアやその他の機能を内装化し、ローターハブにフェアリングを付けることが含まれる。通常は固定翼機と同じ程度のステルス性を達成するのは不能であるが、しかしヘリコプターは通常低い高度でグランドクラッターに紛れて飛行する。
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実際にステルスヘリコプターを製造するとなりますと、こういった機体の開発は通常それ相応の納期と予算を要することから、また実際に配備されている機体は少数に留まるであろうこと(ロット数の問題)から、恐らくMH-60に限定的な改造を実施し、その範囲で可能な限りのステルス性を付与したものではないかと私は推測します。ネット上の一部ではSilent EagleやSilent Hornetに因んで、今回の謎の機体に米国ではSilent Hawkとの愛称を付与する動きがあるとのことです(某カリスマブロガー談)。現存する機体に最低限の改造を施しステルス性を付与しているのであれば確かに類似性があり、言い得て妙だと私は感じます。
恐らく米軍関係者はこの機体に関して公式に発表することはないと思われます。実際にDefense Newsにも"Mission Helo Was Secret Stealth Black Hawk"(2011年05月04日)との見出しでこの謎のヘリコプターに関する記事が掲載されましたが、その記事によりますと"USSOCOM spokesman Army Col. Tim Nye said his command had no comment for this story."(USSOCOM報道官のTim Nye陸軍大佐は彼の司令部はこの件に関しコメントはないと述べた)とのことです。
マニアにとっては夢のある話である事だけは間違いなさそうです。
(下の写真は開発中止となったステルスヘリコプターRAH-66 Wikipediaより 著作権はPublic Domain)
2011年05月05日(木)16:50追記: 米軍新型ステルスヘリ使用か=中国へ機密流出懸念も-パキスタン(2011年05月05日(木)13:37 時事通信)
2011年05月12日(木)12:30追記: 中国、秘密の米軍ヘリに関心=国防総省は返還要求―パキスタン(5月11日(水)14時33分 時事通信)
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失礼します。
しかし、よく分からない話ですが・・・世間が知らない実用航空機が存在しているなんて・・・久しぶりに「夢」がある話ですねf^_^; そして通常の予算審議を経ないで(公開)、そんな高価な買い物ができるなんて羨ましい・・・我が国じゃ有り得ない話ですね。
以下余談ですが・・
今回の震災は、我が国の防衛力整備に多大なる影響を与えるでしょうが、予算面に関して震災復興がありますので総額は期待できないでしょうが・・・回転翼等には重点的に予算が配分される可能性が高いのではと・・・愚考しております。
特に今回の震災対応で大きな役割を演じた救難輸送機に関しては・・・
高性能な救難輸送ヘリコプターは過酷な状況下での「特殊戦支援」にも使えますので、その質量を高めることは非常に意味があります。
国民の生命のみならず我が国の国益をも守ることができる救難機の整備計画の動向が注目です。
投稿: エンリステッド | 2011年5月 7日 (土) 22時11分
エンリステッド氏
大変お久しぶりです。復興需要の波に乗れるか否かが今回の震災の勝ち組負け組を分けると思います(既にそれは現れています)。
「ひみつへいき」等の噂には私も信憑性に「?」を付けることが多かったのですが、今回の件は大変驚きました。一体どの様に予算を捻出したのか(監査をすり抜けたのか)、非常に興味深い所です。開発費を可能な限り最小限とする為に既存のMH-60を改造したものと私は推測します。そもそも特殊部隊の急襲作戦用ですので、低脅威度紛争/ある程度は航空優勢を確保したケースでの投入になると考えられます。だとしますと大幅な改造ではなく、限定的なステルス性でも十分と考えることも出来ます。その一方で爆破したということであれば、やはり余り公にしたくない機体であった可能性も高いと思われます(残ったテールブーム自体がまるで別物)。尤も電子機器類を秘匿する目的であったのかもしれませんが。
>予算を非公開
我が国でも特戦群の装備に関しましては「小銃」等としか公開されていませんし、バレットを「狙撃銃」としか記載していませんのでそういった方法での調達も可能だと思います。
>震災の影響
>回転翼機
松島基地の壊滅は非常に大きな損害ですね。F-2の大半は修理困難でしょう。それをFX(F/A-18F)で補うのか、それとも純減となるのか、FX選定にも影響があるかもしれません。
回転翼機に関しましては現在陸自がUH-Xを選定中ですので、国産となるのかベル412ベースとなるのか注目したいところです。
予算が足りない分に関しましては日米安保の一層の強化で補うしかないでしょう。今回の震災でどの国が日本のトモダチか、日本が未曽有の国難にあるのにも関わらず挑発行為を続ける国がどこか明白になりました。
政府は公務員の給与を削減する方針ですが、現場で苦労している自衛官の方々の給与はむしろ上げて欲しいものです。自衛隊には是非とも今回の震災で勝ち組となって欲しいと私は願っています。
投稿: アシナガバチ | 2011年5月 8日 (日) 00時49分