海自飛行艇を民間転用、インド輸出想定 防衛省承認へ
(上の写真はWikipediaよりUS-2 著作権はPublic Domain クリックにて拡大)
日経新聞の2011年07月2日(土)の報道「海自飛行艇を民間転用、インド輸出想定 防衛省承認へ」(注:全文を読む為には会員登録が必要)によりますと、民間転用/海外輸出を念頭に、防衛省が同省に帰属するUS-2の技術情報を開示することを新明和工業に承認するとのことです。新明和は同機をまず国内の自治体に災害対策目的で3~5機を販売し、また海外の輸出先としましてはインド及びブルネイと商談を進めていると報じられています。国内自治体や海外輸出向けの民間転用型は消防飛行艇となる模様です。
(上の画像は後述の防衛省資料より ヘリコプター等と比較し、より速い速度で飛行し、より大容量の水を運ぶことが可能)
インド及びブルネイとしましては日本から民間転用した装備品を購入することにより、対日関係を強化し中国に対抗する目的もあると日経新聞の同報道は分析しています。今回の情報開示により、商談にて詳細なデータを海外顧客に提供可能になるとのことです。またこの報道では、第二段、第三段としまして川崎重工のC-2やP-1が予定されているとしています。US-2やC-2の輸出に関しましてはこのブログでも2010年10月20日(水)に「菅政権の「武器輸出三原則」緩和問題に関する一考察」との記事を書いたことがありました。従いまして今回の話題は以前より関係者の間で検討課題となっていた話ではあるのです。US-2とは水陸両用飛行艇(水上-河川、湖、海面-に離発着が可能な航空機)でUS-1Aの後継機種となっています。この動画はYoutubeよりUS-2の離陸の様子です。
US-1及びUS-1Aの1976年07月~2008年3月31日までの救難実績は出動件数809回、救助人員792人(海上救難136件/救助人員111人、患者輸送612件/救助人員661人、船舶捜索61件/救助人員20人)となっています。新明和には過去US-1及びUS-1Aに関する問い合わせが約50カ国以上あったとのことです。
US-1Aの後継機であるUS-2の開発は1996年から開始され、開発段階に於きましてはUS-1A改と呼称されていましたが、
2007年03月にUS-2と改称されました。US-2がUS-1Aとは別物であると防衛省が認識していることの証左と言えます。US-2の基本スペックは同社HPによりますと下記の通りです。
全長 33.3m
全幅 33.2m
全高 9.8m
エンジン Rolls-Royce AE2100J×4基
プロペラ Dowty R414
最大離陸重量/距離 47.7t / 490m
最大着陸重量/距離 47.7t / 1,500m
最大離水重量/距離 43.0t / 280m
最大着水重量/距離 43.0t / 330m
航続距離 4,500km以上
巡航高度 6,000m以上
巡航速度 480km/h以上
最大速度 560km/h以上
US-2はUS-1Aと比較し、特に次の6点が改善されているとの事です。
(1)コンピュータ制御によるフライ・バイ・ワイヤ・システムの採用:外洋着水時の水衝撃を和らげる為に約100Km/hrの低速で着水することを可能とする為
(2)与圧キャビンの導入:これにより高度20,000ft(約6,000m)以上を飛行することが可能となり、飛行経路を最短ルートとすることが可能となった(US-1では与圧機能が付与されていなかった為に、高度10,000ft(約3,000m)以下の飛行を余儀なくされ、乱気流に巻き込まれ易くなり、飛行ルートも低気圧を避けたものとなりました。
(3)エンジンのパワーアップと6翅プロペラの採用:US-1Aと比較しエンジンが1.3倍のパワーアップ
(4)グラスコクピットの採用:最新旅客並の機器で、夜間の飛行でも画像が見やすくなる
(5)材質変更による軽量化:主翼、浮舟、波消板にチタン合金や炭素系複合素材を採用
(6)引き込み式FLIRターレットの装備
2010年10月20日(水)付の日刊工業新聞の記事「新明和、民間転用時の救難飛行艇を70億円に-ボンバルディアに対抗」によりますと「東南アジアや欧州、地中海沿岸諸国、中東などが関心を示しており、これまで約35カ国から70件以上の引き合いがある」とのことです。以前より新明和はUS-2の海外輸出を積極的に目指しており、同社のHPにはUS-2の英語版HPがあります。また平成22年05月20日付けで新明和が防衛省に提出したと思われる資料「救難飛行艇US-2民間転用事業体制(案)と課題について」(計10頁)が防衛省HPよりPDFファイルにてダウンロードが可能です。海外顧客向けの販売ルートと課題に関しましては同資料の第9頁目に図解されています(下はその解説図 クリックにて拡大)これらの課題の中で特に検討を要するのは輸出先要員の教育訓練と整備補給態勢の構築です。現状我が国はそういった体制を構築出来ているとは思えません。メンテナンス/アフターサービス体制と部品供給ルートの構築が急務と言えるでしょう。その戦略なくしてはYS-11の二の舞となってしまう虞があります。また消防艇への改造となりますと、現状では実機が存在しておらず、若干の納期と開発費用、そして実証試験が必要です。そうなりますとライバル機と価格競争で不利となる局面もありそうです。防衛省への権利料支払いも最小限に留めるべきでしょう。
参考資料:
(1)参考文献 「飛翔」 財団法人 経済産業調査会 ISBN978-4-8065-2810-4
(2)Wikipedia US-2
« F-35のメンテナンスと国内生産可能性について | トップページ | 陸自がM134通称"ミニガン"を評価試験中か »
「軍事」カテゴリの記事
- THALES BUSHMASTERを防衛省が導入へ(2014.04.21)
- 日本国武器輸出三原則の変遷(2014.04.14)
- 米軍サイバー防衛要員が3倍に(2014.03.31)
- 2015年度米国防予算案が日本の防衛政策に与える影響(2014.03.22)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
« F-35のメンテナンスと国内生産可能性について | トップページ | 陸自がM134通称"ミニガン"を評価試験中か »
消防飛行艇への改修はかつてPS-1で実験したノウハウを活かせれば良いですね。
投稿: 天山 | 2011年7月 6日 (水) 23時59分
天山氏
お早うございます^^。今日は日本が武器輸出大国になっており、日本で開催中のエアショー/防衛・警察・消防装備品展示会に行く夢を見ました。
PS-1でのノウハウは活用可能かもしれませんし、そうでないかもしれません(US-1シリーズとUS-2は全く別の機体)。15tもの大容量のタンクを搭載した際に飛行特性が変わらないこと、安全性が変わらないこと、消防艇としての性能はどの程度か、そういった点は一から検証/実証をしなくてはなりません。
投稿: アシナガバチ | 2011年7月 7日 (木) 08時01分
これ使い物になるんでしょうかね?
現在試作のみ、しかも試作した装置だけで実際に航空機に搭載した物はない事。製造国でも使用実績がない事。更にエアフレーム自体は40年以上く前の機体であり、この機が元から抱えていた欠点は改善される事なく踏襲されている事等を考えれば疑問を感じます。
更にデリケートな機体整備を外国人の手によって維持できるかどうか。もし海外で売れれば日本人の整備スタッフが現地に常駐する事になると思いますが、YS-11で鶴田国昭氏が苦労された様に様々な問題が予想されます。
しかしUS-2...私は日本の海外への武器販売はこれからもっと推し進めるべきだと思っております。しかし現在の防衛産業のあり方については否定的であり、その象徴と言えるのがこの新明和製の飛行艇だと思います。血税投入して一体いつまで作り続けるんでしょうか?また30年後にほとんどマイナーチェンジ(※US-2ですらマイナーチェンジ)のUS-3を作るんでしょうかね?
投稿: Ytokichi | 2011年7月16日 (土) 20時55分
Ytokichi氏
諸事情により返信が遅れ大変申し訳ありません。
確かにUS-2の消防飛行艇型はその物/実績がなく、上の天山氏へのコメントでも述べましたが、安全性と性能を検証し直す必要性があると私は考えます。
また仰せの通りでパイロットの教育や機体のメンテナンスをどの様に行うかは、記事内の防衛省資料でも触れられている通り大きな課題です。
その一方で日経新聞記事の分析にもありましたが、インドとブルネイとしましては日本の機体導入により、日本と連携を深める政治的な思惑がある模様です。
そしてUS-1とUS-2は記事にも書きましたが改善点が多くあり、そこは前進であると評価しても構わないと思います。
投稿: アシナガバチ | 2011年7月18日 (月) 18時01分