防衛省、無人機とロボット購入へ 震災教訓、有事投入も
(上の写真は英語版WikipediaよりScanEagle 著作権はPublic Domain クリックで拡大)
当ブログの2011年8月23日 (火)執筆の記事「防衛省が無人機、ロボット、ATD-X機体の開発を本格化へ」にて朝日新聞の2011年8月17日5時2分の記事「防衛省、無人機開発を本格化 調査費増額要求へ」を紹介しましたが、その朝日新聞の記事には「第3次補正予算か来年度予算の概算要求で今年度予算を大幅に上回る無人機の調査費を盛り込む」こと、そして「菅直人首相が指示した」との記述がありました。この朝日新聞の報道に関しまして私は「菅総理の指示があった旨の記述がありますので、それが誤報ではない限りこれは確定事項と言えるでしょう」と述べました。この数日間でこれに関する続報が複数のマスコミにより報じられています。
「原子力災害対策、無人偵察機・軍事用ロボ配備へ」(2011年9月14日(水)3時8分 読売新聞)
「防衛省、無人機とロボット購入へ 震災教訓、有事投入も」(2011年9月14日15時0分 朝日新聞)
これらの3つの報道はその内容がそれぞれ微妙に異なります。まず朝日新聞の2011年8月17日5時2分の記事では「グローバルホークで原発の状況を把握した経緯を踏まえ」、「日本独自の無人機開発を本格化する」としていました。私の読解力不足もあったかもしれませんが、これを読んだ際にグローバルホークと同等以上の機体の開発を目指していると解釈しました。
ところが2011年9月14日(水)3時8分の読売新聞の記事では「無人偵察機は米ボーイング社などが開発した「スキャンイーグル」2機と国産の2機を購入する予定」となっています。
そして最も詳細に報じている2011年9月14日15時0分 朝日新聞の報道では「日米のメーカーから無人航空機とロボット計3機種を購入する方針」、「陸上自衛隊で試験機として運用」、「自前の無人機などの研究も本格化させる」、「無人機は、横浜市の開発会社フジ・インバックのB2と米ボーイング社と子会社のスキャンイーグル」、「ロボットは米国製パックボット」と報じています。
ただこれらの一連の報道は相互に矛盾するものではありません。もしこれらの報道が正しいとするならば取り急ぎ日米のメーカーから第3次補正予算で無人機とロボットを導入し、それらを試験評価しつつ課題を纏め、将来の無人機開発に繋げたいとの思惑だと思われます。これら一連の報道の真偽は海自がC-130の中古機を導入する方針を固めたことに関する当ブログの2011年9月12日 (月)執筆の記事でも述べましたが、各省庁の第3次補正予算の要求項目は公開されるはずですので、その時に明らかとなるでしょう。 それでは今回のこの記事ではフジ・インバック製の「B2」と米国製「スキャンイーグル」に関して調べてみたいと思います。
フジ・インバック株式会社は会社概要によりますと1979年5月1日設立、本社は神奈川県横浜市磯子区東町6-18、資本金が9800万円の会社となっています。朝日新聞の報道では無人機の名称は「B2」となっていましたが、メーカーの正式名称は「B-Ⅱ型機」です。このB-Ⅱ型機に関してはメーカーの製品紹介ホームページからは詳しい仕様は判りませんでした。写真と寸法図面が掲載されているのみです。寸法は全長2570mm、翼幅3200mm、高さは795mm、水平尾翼幅900mmとなっています。
2011年09月18日追記:コメント欄にSub.氏より情報提供があり、B-II型の航続距離は500kmとの事です。メーカーのホームページの「納入実績」に記載があります。
それに対してScanEagleは米国Boeing社の子会社であるInsitu.Comの製品です。ScanEagleのカタログ(PDF)とScanEagle Dual Bayのカタログ(PDF)がメーカーホームページのScanEagle製品紹介ページよりダウンロード可能となっています。今回の報道にありましたScanEagleがこのうちのどちらかは分かりませんが、報道が「スキャンイーグル」となっていますし、基本型を紹介するのが無難なので、今回のこのブログ記事では基本型のScanEagleを採り上げたいと思います。
このカタログによりますとScan Eagleは下記の様な特徴を備えています。
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Insitu’s pneumatic catapult launcher and unique SkyHook® recovery system. Aircraft launch and recovery are performed safely and autonomously on land and at sea without a net or runway.
Insituの空気圧式カタパルトランチャーと特異なスカイフック®回収システム。機体の発射と回収は安全にそして自動的に陸上と海上でネットも滑走路も必要とせず行われる。
Because of its light weight and small system footprint, the ScanEagle UAS has low personnel requirements—only two operators are necessary.
本製品の軽量と設置面積からScanEagleは最低限のみの運用要員を必要とする-2名のみのオペレーターが必要である。
A standard ScanEagle unmanned aircraft (UA) carries a high-resolution electro-optic (EO) or infrared (IR) camera on a lightweight, inertially stabilized turret system. With communications range of over 55 nautical miles (100 km) and endurance of 24+ hours, the ScanEagle UAS is a versatile platform.Because the aircraft is completely modular, critical components can be swapped quickly in the field to ensure that ScanEagle is mission-ready.
標準的なScanEagle無人機(UA)は軽量の安定した内部搭載回転式システムに高解析電子光学(EO)または赤外線(IR)カメラを搭載している。55海里(100Km)の通信距離と24時間以上の滞空時間により、ScanEagle UASは多用途なプラットフォームである。機体はモジュラー式であるので、ScanEagleが作戦開始可能な様に現場での主要部材の迅速な交換が出来る。
DIMENSIONS(寸法)
Wing Span(翼幅);3.11 m
Length(全長);1.37 m
WEIGHTS(重量)
Empty Structure Weight (空虚重量);13.1 kg
Max Takeoff Weight(最大離陸重量);20.0 kg
PERFORMANCE(性能)
Max Horizontal Speed(最高水平速度);41 m/s
Cruise Speed(巡航速度);25 m/s
Ceiling(最高飛行高度);5,944 m
Endurance(最大滞空時間);24時間以上
SYSTEM FEATURES(システム特性)
Propulsion(推力);1.9hp(1.4 kw), 2ストロークエンジン
Fuel(燃料);ガソリン(100オクタン脱亜鉛非酸化性ガス)または重質燃料(JP5, JP8, Jet-A)
ナビゲーション;GPS/慣性
発射;空気圧式カタパルト
回収;スカイフックによる補翼端足
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これらの特色の中で私が着目したのは2名からの運用が可能ということです。また発射はカタパルト式で回収もフックで行い、海上の小型船舶からの運用であるということも興味深いと思います。(上の写真はメーカーカタログ(PDF)よりScanEagle用カタパルトランチャー)(上の写真は英語版WikipediaよりスカイフックによるScanEagleの回収 著作権はPublic Domain クリックで拡大)
ここにScanEagleの運用方法が分かるメーカーによる動画があります。
固定翼機と回転翼機の違いはありますが、「コンボイ」と揶揄される運用に6台の車両を必要とする陸自のFFOSよりもより容易で柔軟な運用を可能としています。(上の写真はFFOS ある日に某所にて筆者が撮影 クリックで拡大)
なお、2011年9月14日15時0分 朝日新聞の報道ではパックボット導入に関しても報じられていますが、パックボットの詳細に関しましては当ブログの2011年4月21日 (木)執筆の記事「福島第一原発の状況確認に軍用ロボットが投入される」 を参照願います。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
先日無人機や航空技術とJAXAのつながりの話をしましたが、フジ・インバックはJAXAと過去に幾度か共同研究を行っており、無人機開発で深い関係のある会社です。
参考までに
http://www.fuji-imvac.co.jp/uav_jisseki.htm#nounyu
このページから、B-II型の航続距離が500km、製造数は計1機のみであることがわかりますが、これよりB-II型はフジ・インバックのテスト機であるように思われます。
おそらく、仰る通り試験評価の意味合いが強いように感じています。
投稿: sub. | 2011年9月17日 (土) 12時05分
Sub.氏
こんばんは。情報提供有難うございます。記載があることの確認が出来ましたので、記事を早速改定させて頂きました。今後とも宜しくお願いします。
私の様なアマチュアにとり、Sub.氏の様な専門職のコメントは本当にありがたいです。
投稿: アシナガバチ | 2011年9月18日 (日) 00時44分
>三次補正予算
震災関連で様々なアイテムの要求が出ますね(仙台ジャムコで修理中に被災した政府専用ヘリとか海自練習機の購入もあるみたいです)。
無人機は絶好の機会でしょう。国交省とも航空法上の規制緩和の話しもしやすいですし。
また、おそらく原発対応で活躍した各種CBRN器材の購入もあるのではと愚考しております。
投稿: エンリステッド | 2011年9月19日 (月) 01時12分
エンリステッド氏
そう言えば今までの補正予算でも防塵マスクや防護服、今回の震災の犠牲者の方々のご遺体収容用のボディバッグが大量調達されていましたね。
F-2Bの修理予算も計上されるそうですし、かなりの金額となりそうです。来年度予算の概算要求も間もなく発表となるでしょうし、併せて記事を執筆してみようと考えています←こう書いて自分にプレッシャーをかけています。こう書いたら書かざるをえなくなります。
無人機に関しては報道が事実で菅総理(当時)が言及したのならば決定事項ですから、国交省もその方向性で交渉に応じると思われます。
投稿: アシナガバチ | 2011年9月20日 (火) 01時27分
親戚が災害派遣で行っていたのですが、マスコミが報道してくれるまで、5日ほど粗食しか食べられず、風呂やシャワーも程々で、ある意味、士気に関わったと言っていました。これを機に、食事面でも、衛生面でも多少は改善されてもらいたいものです。救援が第一とはいえ、自衛隊員も人の子ですから、心身にも限界がありますからね。個人的には、MQ-9リーパーなども良かったのでは?と思ったりもしていました。不審船や、某国調査船対策には、もってこいだと思うんですけどね。
投稿: キンタ | 2011年9月20日 (火) 01時42分
キンタ氏
ネット上の噂なので実際のところは分かりませんが、自衛官の方が休憩して食事をしていると被災地の方からクレームが付いたとの話がありました。休息があるからこそ良い仕事が出来るものなのですがね。
>MQ-9リーパー
不審船を問答無用で攻撃するのであればリーパーでもいいかもしれませんね。そうでなければグロホでもスキャンイーグルでも良いと思います。
投稿: アシナガバチ | 2011年9月20日 (火) 12時47分
書いて良いのかな?、私の知る限りフジインバックのB-2は最低でも2機は製作されています、細かい機体データーも疑問が残ります全てを信用して良い物か?
投稿: 通りすがり人 | 2011年11月10日 (木) 17時00分
通りすがり様
まずメーカーの主張するスペックがあり、また仕様書もあるわけです。まずそれで防衛省は一時的判断を行います。
メーカーの主張する性能を実際に有するかどうかは、その他の証明書(検査成績書、図面、各種公的機関による試験)提出により検証することとなると思われます。
投稿: アシナガバチ | 2011年11月12日 (土) 09時18分
B-2は最低でも2機と書きましたが4機の間違いです、、各種公的機関が正しくUAVを見る目を持っているか?が問題ですスキャンイーグルの回収システムは素晴らしい方法ですが映像を良く見て下さい誰でも出来るとは思いますか、スペックで見ますと{重量}7kの燃料で24時間の飛行が可能でしょうか?
投稿: 通りすがり様 | 2011年11月12日 (土) 14時41分
通りすがり氏
こんばんは。まず防衛省が要求する性能があると思います。その要求性能に合致することを立証するのはメーカー側です。それは前述の通りに各書類/証明書/試験報告書等の資料です。必要となれば、米軍に運用実績を問い合わせることも可能でしょう。
誠に申し訳ありませんが、メーカーの主張する内容で24時間の滞空が可能かどうかの技術的知識を私は有していません。しかし、その一方で2006年のOregon州Boardman試験場に於けるBoeing社の試験では、22時間8分の滞空を記録しています。
http://www.boeing.com/news/releases/2006/q4/061115b_nr.html
また米軍は勿論のこと、オーストラリア、カナダ等の複数の国で採用/運用実績があります。イラクやアフガニスタンでも投入されています。もしメーカー主張のスペックと著しく異なる場合は当然大きな問題となります。そういったトラブルが発生していないという事であれば、まずメーカーの主張は間違いではないと考えて差し支えがないと思います。
投稿: アシナガバチ | 2011年11月13日 (日) 21時51分