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2011年12月29日 (木)

産経新聞による一連のF-35批判記事を検証する

Sdd_f35testa_037_2上の写真はjsf.mil(米国政府公式F-35サイト)よりF-35A 米国政府の方針により配布自由 "Information presented on www.jsf.mil is considered public information and may be distributed or copied."クリックで拡大)

 この記事は以前に私が執筆しました二つの記事の補足のような内容となります。

「NHKによる「FX候補のF35 機体に不具合」との奇妙な報道に思うこと」(2011年12月04日 (日)執筆)

「空自次期主力戦闘機がF35に決定」(2011年12月13日 (火)執筆)

 この後者の記事のコメント欄でF-35の不具合状態に関しまして議論がありました。特に議論のたたき台となったのは産経新聞によるF-35の不具合に関する報道でした。

「F35 開発2年延長 米国防総省方針 日本2016年導入困難」(2011年12月13日02:05)-1頁目-

「F35 開発2年延長 米国防総省方針 日本2016年導入困難」(2011年12月13日02:05)-2頁目-

この産経新聞の記事の要旨は下記の三点です。

1.「F35に多数の亀裂が見つかったのを受け、米国防総省がF35の開発調達計画を2年間遅らせる見通しとなった。」
2.「同省の諮問機関「国防調達委員会(DAB)」が来年1月の会合で延長を決める方針。」
3.「調達費が「3倍近くになる」」

 これら三点の問題ですが、少なくとも私はそのおおもととなる報道を見つける事が出来ませんでした。Defense News, Air Force Times, Flightglobal, Aviation Week、Defense Industry, Defense Techのいずれにも出ていません(2011年12月29日現在)。今のところ、この三点を報じているのは日本の産経新聞のみなのです。

 その一方で、F-35の開発計画に若干の変更が検討されていることは事実の模様です。それに関しましては上記の産経新聞報道より後の日に掲載されましたFlightglobalの2011年12月15日02:30の記事"IN FOCUS: F-35 concurrency reaches turning point"(「焦点:F-35の同時並行が転換点に」)に詳細な内容が掲載されていましたので、下記に一部内容抜粋と翻訳を行います。

-------------------------------------------------------------------
Finding structural cracks in military aircraft is not uncommon during fatigue tests. But the F-35 was supposed to be different. It was the first combat aircraft launched after a revolution in digital design and simulation tools.
疲労試験中に軍用機で構造上の亀裂が露呈するのは珍しいことではない。しかしF-35は異なる筈であった。デジタル設計とシミュレーション機器の革命後に開発される初の戦闘機だった。

So the DoD adopted a strategy that called for Lockheed to deliver hundreds of F-35s concurrently during the flight test phase. Lockheed's workers would shift from assembling flight test aircraft right into early production jets, with no inefficient work stoppage or slowdown between the two phases. Then, production would escalate at a steady clip, rising by 150-200% every year to achieve the most efficient learning curve.
従って国防総省は飛行試験段階で同時並行でLockheed社に数百機のF-35を納入するように要求する戦略を採用した。Lockheed社の従業員は飛行試験の機体から直ちに初期生産の機体の製造に、この二段階の間に非効率な作業停止や減産なしに、移行するものとした。そして生産は堅実な速度で増加し、最も効率的な学習曲線を達成する為に毎年150~200%の間の上昇となる。

But now, with 58 F-35s ordered so far and another 485 planned before testing ends in fiscal year 2017, DoD officials are having second thoughts, according to a leaked "quick look review" (QLR) on the programme's concurrency risks by a five-member panel of acquisition experts.
現段階で58機のF-35が発注済みであり2017年度の試験終了前に485機の発注が計画されているが、しかし今になって、流出した五人の調達専門家委員会による計画の同時並行リスクに関する「簡易見直し」(QLR)によると、国防総省関係者は再考している。

After examining multiple assessment reports over a two-week period in late October and early November, the QLR team recommended that the DoD freeze orders at the 2010 level, excluding foreign sales, of 30 aircraft until Lockheed demonstrates that the F-35's design is mature.
10月下旬から11月上旬にかけて2週間以上に亘り複数の評価報告書を検討した後に、QLRチームは、海外輸出分を除き、Lockheed社がF-35の設計が成熟したことを立証する迄の間は、国防総省が2010年水準の30機の発注を維持するように提言した。

The panel concluded that the F-35 in fact faces no technical issue that would trigger a recommendation to halt all new production. Instead, it recommends that the DoD continue building production aircraft as flight-testing continues, albeit at a reduced level.
F-35は新たな生産を中止するように勧告するようなきっかけとなる技術的問題に実際のところ直面していないと委員会は結論付けた。それどころかそれはたとえ減産してでも飛行試験の継続中に生産型機を製造し続けるように国防総省に勧告した。

So far, none of the structural cracks have required Lockheed to make major design changes that would affect the entire aircraft.
現段階ではどの構造上の亀裂もLockheed社に機体全体に影響を及ぼす大幅な設計変更を強いるものとなっていない。

But no other fighter programme has faced the cost of modifying hundreds of production fighters as flight tests reveal new problems over an 11-year period. Even if the changes are relatively minor, the cumulative cost to make the changes could be prohibitive.
しかし11年間に亘る飛行試験で新たな不具合が発生する度に、数百機の生産型機を改造するという予算に未だかつて他の戦闘機プログラムは直面したことがない。たとえ変更が小さなものだとしても、変更に要する累計コストは法外なものとなるかもしれない。

The programme's internal estimates of this "concurrency cost" for the F-35 have not been revealed.
計画のこのF-35「同時並行コスト」に関する内部推定は公開されていない。

(抜粋及び翻訳終了)
-------------------------------------------------------------------
 この記事を見ますとF-35はむしろ大きな技術的な問題に直面しておらず、納期の問題には言及がなく、むしろやはりコストの問題であると思われるのです。 言及があるのは同時並行時の生産型機の減産だけとなっています。

 上の記事にもあります通りに飛行試験と同時に生産型機を製造してしまった為に、飛行試験中に判明した不具合に対する対策を既に納入済み/生産中の機体にも組み込まなくてはならなくなったのが最大の問題点となっているのです。しかし同時並行方式は継続し、かつ海外輸出分は別枠となっています。

 この内容は産経新聞の前述の報道とやや相容れないものです。産経新聞は「F35の開発調達計画を2年間遅らせる見通し」としています。産経新聞は何を根拠にこの報道をしたのでしょう。どちらの報道が正しいのかは一介のマニアにしか過ぎない私には判断が出来ません。しかしF-35の納期が遅れると報道しているのは私が知る限りは海外には見当たらないのが事実なのです。

 そして「国防総省内には調達費が「3倍近くになる」(関係者)との見方がある。」との産経新聞の報道ですが、 この具体的な根拠も不明です。上記のFlightglobalの記事でも報告書にはコストが明らかにされていない旨の記述があります。またコスト試算も各関係者により異なる旨も言及があります。またこれはあくまで私の素朴な疑問ですが、産経新聞の報道が低率初期生産を指しているのか、本格量産型を言っているのか、日本の防衛産業が製造に一部関与した機体に関してなのかも不明です。それぞれコストが大幅に異なる可能性があります。

 結局のところ「NHKによる「FX候補のF35 機体に不具合」との奇妙な報道に思うこと」(2011年12月04日 (日)執筆)の記事で紹介しましたヴェンレット海軍中将のインタビューにもあります通り、「問題は何機でどの程度のペースかである。私は最終的な保有数を疑問視していない。私は我々とパートナーの生産を増強するペースを考えており、我々がそれを負担出来るかなのである」の一言に尽きる気がします。

 また産経新聞の記事に『F35開発遅延、日本側が懸念 米に納期確証求める』(2011年12月19日 08:35)との報道もありました。「大使館側が米政府に、2016年度とする納期順守の確証を求める内容だ。」、「「提案者の米政府として、FXに関する防衛省の質問に十分な責任を保証するという回答を至急、送り返してほしい」」とこの記事は報じています。これに関しましては防衛省が公開している事実と同一のものかもしれません。

航空自衛隊の次期戦闘機の機種決定について-PDF-(平成23年12月20日 防衛省)

このPDFの経緯説明の第18頁によりますと「選定された提案者に対しては、選定の条件として、選定の通知を受けた後速やかに、提案内容を将来にわたり厳守すること等を確約する誓約書」を岩崎茂航空幕僚長に提出するように求めたとあります。 因みにこの経緯説明には幾つか興味深い点が散見されます。得点配分は不明ですが、航空阻止能力もある程度は重視していることがおぼろげながら窺えるのです。これはKeenedge氏が述べたように「今回のF-X選定では、単純にFIの選定ということではないということですね。」、「空自の任務変化、空自の空(海)軍化というべきか。」との背景があるのかもしれません。
(下の画像はWikipediaよりF-35の爆装 著作権はPublic Domain クリックで画像拡大)

F35ctolstores 恐らくこの記事が今年度最後の記事となるでしょう。本年は大変お世話になりました。来年もアシナガバチを宜しくお願い申し上げます。

2012年01月09日(月)追記:F-35のブロック分類(最新版-配布自由)

F35_master_plan

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軍事」カテゴリの記事

コメント

この産経記事の話、F-35に関しては海外ソースしか見てなかったので、気づいてなかったのですが、やはり飛ばしだったようですね。産経はF-35には露骨にネガティブ報道しているようですが、何でか不思議です。

quolas氏
はじめまして。今後とも宜しくお願い申し上げます。
誤報かどうかは分かりませんが、産経新聞以外にこれを報じているマスコミを私は見つけられませんでした。事実関係は来月に明らかになると思います。
産経新聞がF-35に批判的なのは国産戦闘機を夢見ている為であるとの説や、対米一辺倒であってはならないとしている為であるとの説もあります。
中日新聞が批判的なのは何となく理由が分かるのですが・・・

産経新聞が参考にしたかは解りませんが、開発が2年遅れる件と、DABが1月にありそうな件では、以下を見つけました。

1.開発2年延長
http://armedservices.house.gov/index.cfm/files/serve?File_id=78b3b30c-03ff-4c4d-b6d5-45453a473e8f

これは、空軍参謀次官のカーライル中将が、下院軍事委員会で証言した内容です。10ページにF35に関して、 "the Air Force will reevaluate the IOC estimate, but we currently expect up to a two year delay."と証言してます。5月に国防総省長官府 装備評価局長のマイケル・ギルモア氏が、F35の運用試験は2017年春に開始すると発言している点、更に通常IOCは運用試験が終わらないと軍は承認しないことから、概ね両者の内容は一致していると思います。F35の開発スケジュールに関しては、長官府と空軍省はよく対立するので、11月に空軍参謀次官が初めて議会で2018年になりそうだと発言したことは、それなりに大きな意味があると思います。この部分は、日本では、あまり報道されていません。


2.DAB
http://www.aviationweek.com/aw/blogs/defense/index.jsp?plckController=Blog&plckBlogPage=BlogViewPost&newspaperUserId=27ec4a53-dcc8-42d0-bd3a-01329aef79a7&plckPostId=Blog%3a27ec4a53-dcc8-42d0-bd3a-01329aef79a7Post%3a930c751f-7c52-4615-9f51-277f62bfcfaa&plckScript=blogScript&plckElementId=blogDest

DABに関しては、昨年行われるはずが延び延びになっているので、何れにしても行われる必要があります。1月の開催については、これ以外のソースは見つかりませんでしたが、間もなく行われるのでしょう。これまでの、長官府や参謀次長の証言で米国では、IOCの2年遅れは既に織り込み済みなのでしょう。一方、日本のF35ですが、米軍が納期の2016年度を守ったとして、それが、米軍のIOC前の引き渡しであれば、納期を守ることにどれ程の意味があるのか疑問です。自衛隊は、空軍のお墨付きがなければ、とてもF35を運用することはしないでしょうから、寧ろその場合は、2016年度などに飛行機を受け取らず、開発が終わって、しっかり米空軍がIOCした後の飛行機を受け取るべきかと思います。開発完了が2018年とDABでハッキリした場合、日本は、無理をして2012年度予算で4機の飛行機を買う必要があるのか疑問です。極端に言えば、2014年度予算で12機の予算を一気につけた方が効率的かもしれません。

3.価格が3倍
これは、何の価格を比較しているのかわかりません。ロッキードが一機50億と宣伝していたので、それと比べると確かに今の米軍価格は、最新のLRIP5の価格がhttp://www.silobreaker.com/f35-unit-cost-nears-160m-as-lockheed-wins-4bn-for-lrip-5-lot-5_2265078931293995162 
を参考にすると1機1億6千万ドルになり、50億円のざっと3倍と言われれば、そうなのかもしれません。但し、
http://www.aviationweek.com/aw/blogs/defense/index.jsp?plckController=Blog&plckScript=blogScript&plckElementId=blogDest&plckBlogPage=BlogViewPost&plckPostId=Blog%3A27ec4a53-dcc8-42d0-bd3a-01329aef79a7Post%3Ac711918b-7a3b-45f5-9486-d4047341b1f1
によれば、日本向けの最初の4機はLRIP8だそうです。最近、国防総省とロッキードがLRIP5をやっと合意したことを考えると、LRIP8の価格はまだまだ先の話であり、米軍を差し置いて日本に約束できる価格ではなさそうです。恐らく、現時点での暫定価格で、差額は、米軍とロッキード社が合意して上乗せされると見るべきでしょう。米空軍は、自分たちが買う値段よりも安く海外に売ることは絶対にしません。これは、議会が許さないでしょう。

日本向けF35は、まだまだ色々と目が離せそうにありません。

FXウオッチャー
はじめまして。貴重な情報ありがとうございます。様子を見て今月に新記事をご提供いただきました情報をベースに執筆するかもしれません。

>開発2年延長
確かに断定ではありませんが、それくらいと推測していますね。ただ空自の要求は2016年度引き渡し(日本の場合は2017年3月までが2016年度)です。あくまで引き渡しですから、米国のIOCとはちょっとニュアンスが違ってきますね。
もう1つヒントとなり得るのはイスラエルですね。イスラエルがスケジュール通りにF-35の導入を行えるかどうかも一つのポイントとなります。これも米国のIOC前の引き渡しを要求しています(あくまで引き渡し)。

>DAB
これも今月中に行われるということであれば、これも待てば結果が出ると思います。その時点で恐らく内容をみて新記事を執筆すると思います。

3.価格が3倍
Lockheed社が提示した6500万ドルとの価格は、それ以外にも日本の商社に支払うマージン、パイロット育成費用、その他の整備施設も含めますと当然超過しますから、初めから余り参考にはならないとは思っています。

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