日本のF-35導入に関する米国との交渉状況(2012年5月現在)~一機単価は190億円?~
Flightglobalに2012年05月02日付けで"USA pegs value of Japanese F-35 deal at $10 billion(米国が日本のF-35契約価格を100億ドル見積もる)"との記事が掲載されました。また特に興味深いのはFlightglobal紙への防衛省のメールが掲載されていることです。下記にその記事の一部を抜粋し、翻訳します。
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The USA has assessed the proposed sale of 42 Lockheed Martin F-35A fighter aircraft to Japan at $10 billion.
米国は日本への42機のLockheed Martin社製F-35A戦闘機の提案販売を100億ドルと見積もった。
In a notification to Congress, the US Defense Security Cooperation Agency outlined the details of the proposed Foreign Military Sales (FMS) deal. The package covers an initial four F-35s and an option to purchase 38 additional aircraft.
議会への通知で、米国国防安全保障協力局は提案された対外有償軍事援助(FMS)取引の詳細を概説した。一括提案は最初の4機のF-35と追加の38機の購入選択肢を含むものであった。
The FMS package includes the aircraft, Pratt & Whitney F135 engines - including five spares - electronic warfare systems and other equipment. It also includes logistical support, including software development and integration, spare parts, training and other elements.
FMS包括提案は機体、Pratt & Whitney F135エンジン-スペア5基を含む-、電子戦システムとその他の器具を含む。それはソフトウェア開発とインテグレーション、スペアパーツ、訓練やその他の要素の兵站支援も含む。
At $10 billion, the deal values each aircraft at roughly $238 million, although this number includes a lifetime of support.
100億ドルであれば、この取引では機体単価が約2億3800万ドルとなるが、この数値は永続的サポートを含む。
In an email to Flightglobal, the Japanese ministry of defence outlined Tokyo's current position on price increases. It said that if the cost increases "without valid reasons, there is a possibility that a procurement could be cancelled".
Flightglobal社へのEメールで日本の防衛省は価格上昇に関する日本政府の立場を概説した。それによるともし価格が上昇した場合は「正当な理由がなければ、発注をキャンセルする可能性もあり得る」としている。
The email added: "This message is conveyed to the US side occasionally. [The] MoD will continue to request the US government to deliver the aircraft at the price, in accordance with the content of the proposal by the period requested."
Eメールは「このメッセージは米国側に機会がある度に伝えられた。機体を要求時の提案内容に則った価格で納入するように防衛省は米国政府に引き続き要請していく」と付け加えた。
(引用及び翻訳終了)
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記事にもありますが、42機で100億ドルとなりますと機体単価は約2億3800万ドルであり、この価格を1ドル80円で日本円に換算しますと42機で8000億円であり機体単価は190億円以上となります。しかしこの記事にもあります通り、この価格はパケージ価格です。ソフトウェア開発とインテグレーションも含むとしているのも非常に興味深く、これは日本側が要求している独自の仕様に合致する為のものなのか、それとも単純にBlock3を開発する為の予算であるのかもこの価格が高いと判断するか、安いと判断するか一つの判断基準となります。
また防衛省からのメール内容にも同記事は言及していますが、防衛省の誰がいつFlightglobalに対し送信したのかは分かりません。
また上記のFlightglobalの記事には"In a notification to Congress, the US Defense Security Cooperation Agency outlined the details of the proposed Foreign Military Sales (FMS) deal. "(議会への通知で、米国国防安全保障協力局は提案された対外有償軍事援助(FMS)取引の詳細を概説した)とあり、また2012年05月2日08:19AM (台湾時間)のDefense Newsの記事"U.S. May Sell 4 F-35s to Japan(米国が4機のF-35を日本に売却予定か)"もほぼ同じ内容の記事を掲載していますが、そこには"The announcement was made in a DSCA press release on May 1.(その発表は5月1日のDSCAのプレスリリースで明らかにされた)"との記述があります。これらの記述からDSCAのホームページから公式資料を見つけることが出来ました。
Japan – F-35 Joint Strike Fighter Aircraft(日本-F-35 統合攻撃戦闘機) PDF
そこにより詳しい内容が記載されていましたので、下記に内容の一部抜粋と翻訳を行います。
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All aircraft will be configured with the Pratt and Whitney F-135 engines, and 5 spare Pratt and Whitney F-135 engines.
全ての機体はPratt and Whitney F-135エンジン仕様となり、5基のスペアのPratt and Whitney F-135エンジンも付属する。
Other Aircraft Equipment includes: Electronic Warfare Systems, Command, Control, Communication, Computers and Intelligence/Communication, Navigational and Identifications (C4I/CNI), Autonomic Logistics Global Support System (ALGS), Autonomic Logistics Information System (ALIS), Flight Mission Trainer, Weapons Employment Capability, and other Subsystems, Features, and Capabilities, F-35 unique infrared flares, reprogramming center, and F-35 Performance Based Logistics.
その他の含まれる機体の装置は:電子戦システム、指揮・コントール・通信・コンピュータと情報/通信、航法識別(C4I/CNI)、自律兵站グローバル支援ステム(ALGS)、自律兵站情報システム(ALIS)、飛行作戦訓練装置、武器運用能力、及びその他のサブシステム、機能、そして能力、F-35独自赤外線フレア、再プログラムセンター、PBL。
Also included: software development/integration, flight test instrumentation, aircraft ferry and tanker support, spare and repair parts, support equipment, tools and test equipment, technical data and publications, personnel training and training equipment, U.S. Government and contractor engineering, technical, and logistics support services, and other related elements of logistics support.
それ以外に含まれるものとして:ソフトウェア開発/インテグレーション、飛行試験機器、機体フェリーとタンカー支援、スペア及び修理パーツ、支援器具、工具と試験道具、技術データと出版物、人員教育と教育機器、米国政府及び契約業者のエンジニアリング・技術・兵站支援サービス、そしてその他の関連する兵站支援要素
(引用及び翻訳終了)
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上記に記載されています自律兵站グローバル支援ステム(ALGS)、自律兵站情報システム(ALIS)はF-35の公式ホームページのメンテナンスの項目に詳しい説明が記載されています。F-35は人間が自分の体調を判断する様に、不具合か所を自ら判断します。これらに関しましては以前にも当ブログの2011年7月 2日 (土)の記事「F-35のメンテナンスと国内生産可能性について」でも執筆したことがありました。
(下の画像はF-35パンフレット(PDF)より クリックで拡大)
PBLに関しましては防衛省も導入を検討していまして、下記PDFファイルでその概念に関しまして詳しい資料を見ることが可能です。
防衛省 PBL導入ガイドライン 平成23年7月 防衛省 経理装備局
一連のF-35の最新動向に関連しまして、前述のDefense Newsの記事に興味深い情報がもう一点掲載されていました。それは日本側のF-35生産基盤に関する情報です。下記に引用と翻訳を行います。
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During the Singapore Airshow in February, Lockheed Martin’s Dave Scott, director of F-35 international customer engagement, said that with U.S. government approval, Lockheed offered Japan as an F-35A final assembly and check-out site, “which is where they put the four major structural components of the airplane together, install the engines and all the electronic systems, do the codings, do the test flights.”
「機体の四つの主要構造部材が組みたてられ、エンジンと全ての電子システムが取り付けられ、コーディングが行われ、飛行試験を実施することとなる」F-35Aの最終アセンブリー及び検品拠点となることを、米政府の承認を得た上で、Lockheed社が日本に提案したとLockheed Martin社のF-35海外顧客契約部長であるDave Scott氏はシンガポールでの2月のエアショーの際に述べた。
Lockheed is also offering construction of major structural components and subcomponents, engine assembly, integration and test, and light maintenance and repair, he said.
Lockheedは主要構造部品とサブコンポーネントの製造、エンジンアセンブリー、インテグレーションと試験、そして簡単なメンテナンスと修理も提案していると彼は述べた。
(引用及び翻訳終了)
-------------------------------------------------------------------(上の画像はF-35パンフレット(PDF)より クリックで拡大)
全般的にほぼ日本にとって損のない取引内容となっていると言えるでしょう。
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おはようございます
F-35の板が沢山あるので、どの板で書けばいいのやら…
いつかF-2も本格的に近代改修をする日が来ると思うのですが…F-2にF-35の動力を換装するのは(技術的に)可能でしょうか?
また、技術的問題というハードルをクリアしたとして、ロッキードマーチンは許可するでしょうか?
投稿: 土方 | 2012年5月 5日 (土) 09時01分
>1000億ドルであれば、この取引では機体単価が約2億3800万ドルとなるが、この数値は永続的サポートを含む。
100億ドルです。
投稿: | 2012年5月 6日 (日) 00時47分
アシナガバチさん
ずいぶん深味のある記事で大変興味をそそられます。
一つ気になった点を申しますと、日本が東アジアにおけるF-35の整備拠点となるような記事が散見されますが、こうした施設・設備に関して記述が無い点を考慮すると、そういったものは(米軍基地然り)別途日本持ちですよってことなんでしょうねw
>土方さん
>F-2も本格的に近代改修をする日が来ると思うのですが…F-2にF-35の動力を換装するのは(技術的に)可能でしょうか?
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BC%E3%83%8D%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF_F110
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%82%A4%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%8B%E3%83%BCF135
F35のエンジンの方が大きいのでF2には入りません。
投稿: sub. | 2012年5月 6日 (日) 03時05分
土方様
こんにちは。F-2に関しましてはレーダーや搭載兵装などの改良が行われている段階です。
「動力」にかんしましてはsub .様が仰せの通りです。ベースにするというのであれば、知的財産ですので難しいでしょう。わが国は中国とは異なります。
名無し様
ご指摘有り難うございます。今日の夜には旅行から戻りますので、帰宅しましたら直ちに訂正させて頂きます。
sub .様
Dave Scott氏によりますと日本にassemblyや点検、修理の拠点となることを提案とありますので、それは一つのベースとなるかもしれませんね。
投稿: アシナガバチ | 2012年5月 6日 (日) 12時53分
アシナガバチさん、sub .さんみなさんこんばんは^^
>F-35の整備拠点
ライセンス生産や自衛隊機のメーカ点検など行うのであれば、日本が東アジアにおけるF-35の整備拠点になることは結果的にコストを抑えられて良いように思うのですがどうなんでしょうか?
投稿: RoKo | 2012年5月11日 (金) 22時59分
仕事が増えれば仕事あたりのコストは下がるのが普通です
仕事の増分を自国のみでまかなっている場合総コストは上がりますが、それが他国予算でまかなわれるならば総コストも下がりそうですね
もっとも日本が一方的に得をするような体制を組めるかといえばそれはまた別の話でしょうけど。他人の金でおいしい思いがしたいのはどこの国も同じです。うまくwin-winの関係に持ち込めればいいのですが・・・
整備だけでなく、アセンブリーやコンポーネント生産でも、本当に日本がアジアの拠点になれるとしたら夢のある話です
日本で組み立てた一部コンポーネントが日本製のF-35を韓国やシンガポールに輸出
防需削減に悩む防衛産業界にとって救世主的な新需要となるかもしれません
投稿: 名無し | 2012年5月12日 (土) 10時36分
私も名無しさんと同意見ですね。
整備拠点になるとすれば、上記のコメント通りになる可能性も高いと思っています。
私が危惧した点は、アシナガバチさんが紹介された『パケージ価格』の中に施設等の項目が記載されていない点で、こうした費用を比較的短期的な予算として別途考慮しておかなければならないということですかね。
F-35の生産・整備に当たる企業が『全部持ち』するなら防衛費からの支出は抑えられますけど。
ランニングコストという点では、安くつくと考えられます。
投稿: sub. | 2012年5月15日 (火) 12時55分
アシナガバチさん、sub .さんみなさんこんばんは^^
FMS調達だけならば、メーカーメンテナンスは日本では事実上おこなわれないでしょうね
ライセンス生産を行うならば、ライセンス料にメーカーの利益、設備投資分などがかかってきますから当然調達価格は上昇せざるを得ないでしょう
ただし、AH-64D でのごたごたがありますからメーカー側もライセンス料や、設備投資分に見合った費用は確実に回収できるような価格設定をせざるを得なく少数生産ならば高くつくことになりそうですね
メンテナンス拠点、あるいは生産拠点(Lockheed社への納品の上販売)としての運用が可能ならば少なくとも日本の損失にはならないとは思いますがどうなるのでしょうか
投稿: RoKo | 2012年5月16日 (水) 21時57分
Roko氏
コスト節減だけではなく、関係業界にとり商機となります。日本からの受注のみではなく、極東地域の米軍や韓国、シンガポールからのパーツやメンテナンスを請け負う事となるからです。
名無し様
F-35 parts, systems and expertise reaching any location when they’re needed.というのが重視されていますから、極東・アジア地域でもその拠点が必要となります。日本は現段階ではその最有力候補と言えるでしょう。
sub. 氏
それに関しましてはフィリップ ジョーガリオ副社長が「日本の技術者を当社工場に受け入れて研修をする。一方、日本の工場に技術者を派遣し、設備導入などを支援する。第1期目の4機は当社で組み立てて納める。2期目から日本での最終組み立てに移行したい」と述べてたことがありました。この「設備導入などを支援支援」という表現は、ある程度は日本側が負担するという事であると考えます。
http://paper-wasp.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/lockheed-martin.html
RoKo氏
メンテナンス拠点となるのであれば、業界は潤うことになるでしょうし、防衛省に対する見積提示も割安となるものと思われます。
投稿: アシナガバチ | 2012年5月17日 (木) 12時58分