RIMPAC2012で米海軍がレーザーを用いた潜水艦新通信技術を試験へ
(上の写真はある日の某所にて筆者が撮影の海自潜水艦 クリックで画像拡大)
RIMPAC2012がハワイ沖で現地時間の6月29日から開始となりますが、今回のRIMPACでは興味深い潜水艦用新通信技術の実地試験が実施されます。ブルーレーザーによる通信がそれです。その旨は米軍の準機関紙である星条旗新聞(Stars and Stripes)の2012年5月19日の記事"22 nations gear up for RIMPAC exercises in isles(「22ヶ国が諸島でのRIMPAC演習に向け準備を整える」)"にもその旨の言及があり、事実である事は間違いがないと考えられます。下記はその該当箇所の一部抜粋と翻訳です。
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War games also will have tests of a submarine-launched unmanned aerial vehicle and blue-laser underwater communications, and a "green" emphasis with the largest government purchase of biofuel in history.
演習では潜水艦発射の無人航空機とブルーレーザー水中通信の試験が行われ、そして政府による史上最大のバイオ燃料購入によりグリーンさに重きをおく。
(引用及び翻訳終了)
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それではblue-laserを通信とは何でしょうか。この技術に関しましてnaval-technology.comの2012年06月12日の記事"RIMPAC 2012: Great Green Fleet, communications and Yellow Sea security(「RIMPAC 2012:大規模なグリーンな艦隊、通信、黄海安全保障」)に詳しい特徴と経緯が掲載されていますので、下記にこの記事の一部の抜粋と翻訳を行います。
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The current standard of communications relies upon radio waves, which cannot penetrate through sea water. This has led to submarines requiring the use of towed buoys or trailing wires to communicate with warships or aircraft effectively.Blue / green laser wavelengths are, however, capable of penetrating sea water effectively and have been eyed as a potential communication medium for some time.
現在の標準的な通信手段は電波に頼っており、そしてそれは海水を貫通しない。これは戦艦や航空機と効果的に通信する為に、曳航式のブイか背向ワイヤーを潜水艦が使用する必要性に駆り立てている。ブルー/グリーンレーザー波長は、しかしながら、海水を効果的に貫通することが可能であり、暫くの間は潜在的な通信媒体として見られていた。
This prompted DARPA to award a $32m contract in September 2010 to develop a blue-laser system under the Tactical Relay Information Network (TRITON) programme, with a live evaluation of the system scheduled to take place during RIMPAC 2012.
これは戦術中継情報ネットワーク(TRITON)プログラムの一環でブルーレーザーシステムを開発する3200万ドルの契約をするように2012年9月にDARPA(国防高等研究計画局)に促し、RIMPAC 2012の間にシステムの実施評価を行う予定とされた。
QinetiQ's North American subsidiary secured the contract having already started development of a blue-laser communication system dubbed the Submarine-Enabling Airborne Data Exchange and Enhancement Program (SEADEEP).
Submarine潜水艦-Enabling有効Airborne航空機Data Exchangeデータ交換・Enhancement向上Programプログラム(SEADEEP)と称するブルーレーザー通信システムの開発を既に開始していたことからQinetiQ社の北米子会社が契約を確実なものとした。
At the time of the contract award, QinetiQ confirmed that its SEADEEP system had already demonstrated "communications through the air-water interface equivalent to data rates available with wideband Internet communications at home", equivalent to being hundreds of times faster than conventional submarine communications at operational depths.
契約受注時に、QinetiQ社はSEADEEPシステムは「家庭でのワイドバンドインターネット通信で利用可能なデータ率に等しい空海間インターフェース通信」を既に発揮したことを確認したとしており、作戦水深での通常の潜水艦通信の数百倍の速さに等しい。
(引用及び翻訳終了)
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それではこのQinetiQ社とは如何なる企業でしょうか。インターネットにて検索し、同社北米子会社公式ホームページを見つけることが出来ました。QinetiQ社の北米子会社はYouTubeに公式アカウントを有しており、それを見ますとロボットやセンサーを扱っていることが分かります。
同社の公式ホームページに記載されています沿革によりますと、そもそも英国防省のDefense Evaluation and Research Agency (DERA);国防評価研究庁の研究所と試験場が民営化されたことが同社の発祥であるとの事です。
Underwater Blue-Green LaserはQinetiQ社の公式サイトに下記の通り紹介されています。
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Blue-green optical laser communications systems, with their ability to penetrate seawater to operationally significant depths, stealth characteristics and resistance to jamming, along with the lack of tethers, cables and speed and maneuverability restrictions, represent the most promising technology available today to truly connect the undersea environment.
ブルーグリーン光学レーザー通信システムは、海水を作戦上の重要な深度まで貫通する能力を有し、ステルス性とジャミング耐性とともに、テザーやケーブルとスピード・機動性制限が不要であり、海中環境で接続する為に今日で最も将来性のある技術を象徴する。
QinetiQ North America’s underwater blue-green optical laser communications portfolio provides on-demand one and two-way communications, command and control of undersea systems, and data exfiltration needs for current and future manned and unmanned systems, vehicles, fixed and mobile sensors, and underwater distributed sensor networks.
QinetiQ北米の水中ブルーグリーン光学レーザー通信ポートフォリオは一方向か二方向のオンデマンド通信、海中システムの指令コントロールシステム、現在と将来の有人及び無人システム、乗り物、固定及び移動式センサー、そして水中分配センサーネットワークのデータ発信需要を提供する。
(引用及び翻訳終了)
-------------------------------------------------------------------(上の写真はQinetiQ社の公式ホームページよりブルーグリーン光学レーザー通信システム 出典明記で商業目的以外の掲載可 クリックで拡大)
もしRIMPAC202でその有効性や信頼性が確認された場合は、大変興味深い新技術ではあるとは思われます。しかしこのレーザーはどの程度の高度/深度まで到達することが可能なのか、また受信はどの程度の角度まで可能なのかまだ不明な点が多いと言えます。特に潜水艦が航空機からレーザーを受信する際に一定の角度、方向、距離にいなくてはならないとなると、位置秘匿と矛盾する事になるとも言えるのです。
それでもブイが不要になり、小型のUAVをコントロールすることが可能となるのであれば、魅力的な新技術ではあり、潜水艦を増強中の海自も着目していいかもしれません。
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コメント
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てっきりお蔵入りになっていたと思ったら、実験はやっていたんですね。
投稿: キンタ | 2012年6月23日 (土) 17時02分
おはようございます。
たとえば航空機や衛星からの通信中継ブイを放出しておき、潜水艦は十分に離れた位置からブイとレーザーで交信すればある程度位置秘匿はできるのでは・・・大出力大型になって使い捨てするにはもったいないですかねぇ。
SF的であるようでないような想像力を掻き立てる記事で、なんとも興味が尽きません。
投稿: まりゅー | 2012年6月24日 (日) 07時13分
キンタ様
新通信方式が普及するか否かは今回の試験結果次第となるでしょうね。
まりゅー様
ということになりますと、航空機はその域内に潜水艦がいることを把握する必要があります。またそのブイから受信可能な範囲内で行動していることが露呈する虞があります。具体的に今回の新通信方式がどの様なドクトリンであるのか興味深いところです。
投稿: アシナガバチ | 2012年6月27日 (水) 12時37分
水深100m以深では、プランクトンなどの浮遊物が無く、レーザービームはほとんど減衰しないとされています。なので深海に固定基地局を設けておき、艦~局間をレーザー通信するなら、かなり遠方まで届くようですよ。
投稿: しょーちゃん | 2012年8月23日 (木) 09時08分
しょーちゃん様
夢のある話ですが、深海の固定基地局建設の費用とそのメンテナンス料とのバランスも一つの課題かもしれませんね。
投稿: アシナガバチ | 2012年8月28日 (火) 21時55分