オート・メラーラ社が射程を大幅に延伸した127mm艦砲弾を生産開始へ
(上の写真はある日に筆者が撮影の海自某護衛艦のオート・メラーラ社127mm砲 クリックで写真拡大)
Defense Newsに"Long-Range Naval Ammo Extended to Smaller Calibers(長距離艦砲弾がのより小さい口径にも)"との興味深い記事が2012年10月25日(木)11:52AMに掲載されました。この記事によりますと、オート・メラーラ社が射程を100Kmまで延長した127mm砲弾を量産化する直前となっているとのことです。下記にその記事の本文の一部抜粋と翻訳を行います。
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Oto Melara, which developed successful 155mm extended-range and guided munitions for the Italian Army, now is on the verge of putting a 127mm round into production and is developing a similar round for 76mm guns.
イタリア陸軍向けに好結果の155mmの射程延長・誘導式の弾薬を開発したオート・メラーラ社は、127mm弾を生産する直前にあり、そして類似の76mm砲弾を開発中である。
The Vulcano technology employs a sub-caliber shell fitted with fins and canards for stabilization and terminal guidance. The munitions come in different versions, including an unguided, extended-range, multirole ammunition with a multifunctional, programmable proximity fuse; and guided, long-range ammunition with an infrared seeker for anti-ship actions.
ヴルカノ技術は安定化と最終誘導の為にフィンとカナードを有するサブカリバー弾を採用する。多機能のプログラム式近接信管の非誘導式射程延伸多目的弾と、対艦戦闘用の赤外線シーカーを有する誘導式長距離弾薬を含めて、弾薬には異なった種類が存在する。
The extended-range rounds bring new shore-support capability to hundreds of ships, Andrea Montobbio, a regional manager for Oto Melara, said here at the Euronaval naval exposition. The Vulcano 127mm, he said, has a maximum range of 100 kilometers.
射程延伸型弾は数百の艦船に新たな沿岸支援能力をもたらすであろうとAndrea Montobbioオート・メラーラ社の地域マネージャーはここEuronaval海洋博覧会で述べた。ヴルカノ127mmは100kmの最大射程を有すると彼は述べた。(上の写真はある日に筆者が撮影の海自某護衛艦のオート・メラーラ社76mm砲 クリックで写真拡大)
“Yes, the 76mm round is small, but the weapon has a very high rate of fire,” Montobbio said, noting that the 76mm gun has a maximum rate of fire of 120 rounds per minute and can maintain 60 rounds per minute for a long period of time.
「確かに76mm弾は小さいですが、しかしこの兵器は高い発射速度を有します」とMontobbio氏は述べ、76mm砲は最大で一分間に付き120発の発射速度があり、そして長時間にわたり一分間に付き60発を維持できることに言及した。
The 76mm extended-range round gives small ships a reach far beyond the 16 kilometers of existing shells. In its unguided, ballistic extended range configuration — suitable for anti-air, anti-surface and naval gunfire support missions — the Vulcano round can reach 30 kilometers.
76mm射程延長弾は現行弾の16kmより遥かに遠距離の射程を小型船に与える。それは非誘導の弾道延伸射程形状であり、対空、対地、海洋火力支援任務に最適であり、ヴルカノ弾は30kmに達する。
The guided long-range (GLR) version, fitted with global positioning satellite technology, can hit a target at 40 kilometers.
誘導式の長距離(GLR)バージョンは、全地球測位システムを有し、40kmの目標を攻撃できる。
Montobbio noted the ballistic munition can be fired from any Oto 76mm gun now in service, although new firing tables would be needed to handle the extended range.
Montobbio氏は射程延長型を扱うには新たな発射台が必要となるが、弾道体は現在配備されているどのOto 76mm砲からも発射が可能であることも注釈した。
The GLR round requires a software upgrade for existing mounts, plus addition of a multi-ammo selection system.
GLR弾は現行の砲塔にソフトウェアの改良とそれに加えて砲弾選択装置が必要である。
Full-scale production of the extended-range 127mm round, Montobbio said, will start in 2013 for the Italian Navy, while full production of the guided round will begin a year later.
イタリア海軍向けの127mm射程延長弾の量産は2013年に開始され、その一方で誘導弾の量産化はその一年後になるとMontobbio氏は述べた。
he company said the Vulcano 76mm will be ready for full-scale production in 2015.
同社はヴルカノ76mmは2015年に量産可能となるであろうと述べた。
(引用及び翻訳終了)
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YouTubeに上記の内容を分かりやすく解説した動画が二つほど投稿されていました。
この動画はヴルカノ155mm砲弾とヴルカノ127mm砲弾による攻撃を解説したものです。
もう一件の動画はヴルカノ76mm砲弾による攻撃を解説したものとなっています。
新型127mm砲弾の100kmの射程は画期的と言えるでしょう。不幸にして実際に有事となった際には、空自は航空優勢の確保に忙殺され、CAS(近接航空支援)への対応が困難となる可能性が高いと考えられます。その旨は一部の識者により指摘されたことがありました。
「CAS(近接航空支援)であります。」(keenedgeの湯治場 2010年6月21日 (月)記事)
その際に護衛艦が強力な火力を有していることは大きなアドバンテージとなり得るのではないでしょうか。砲撃はミサイルよりも安価であり、しかも連続的に且つ多数の攻撃を加える事が可能ですから、今後の我が国の防衛を考える上で検討に値するのではないかと私は考えます。
またイタリア国防省の公式ホームページによりますと、CEP(平均誤差半径)は20m以下との記述との記述があり、そして同省公式ホームページの別のページでは64口径であれば120Kmの最大射程が達成可能との説明がありました。
現在装備化されている127mm砲に改修が必要かどうかは上記記事には言及がありません。しかし76mmに関しましてはハードとソフトの両面で多少の改修が必要となる旨の言及がありましたが、砲塔自体の交換や新規導入は不要の模様です。この新型砲弾に関しましてはオート・メラーラ社の公式ホームページにも概要が掲載されており、127mm砲そのものに改修を要するか否かの回答が記載されていました。(上の写真は同社ヴルカノ砲弾パンフレット(PDF)より)
"VULUCANO" System 127mm Extended Ammunition Family (PDF 119KB)
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All the equipment required to operate VULCANO ammunition is integrated into the 127 mm LW Control Console and no mechanical modification to the 127mm gun is required nor reduction of barrel life is involved.
ヴルカノ弾運用に必要な全ての用具は127 mm LW コントロールコンソールに統合されており、127mm 砲への機械的な改修は不要であり、砲身への寿命短縮はない。
VULCANO is fully compatible with in-service 127mm naval gun by providing a module which is acting twofold:
二つの役割を果たすモジュールを備え付けることによりヴルカノは現用の127mm艦砲と互換性を有する:
・Programmer for ammunition’s fuse and guidance system;
弾薬の信管と誘導システムの為のプログラマ
・Mission Planning and Execution for Naval Fire Support stand alone or interaction with ship’s Network Centric System ( firing solutions, selection of ammunition, definition of trajectories and firing sequences, ballistic computations etc.).
作戦立案とスタンドアローン海洋火力支援実行、または艦艇のネットワーク中枢システムとの交流( 発射ソリューション、弾薬選択、弾道曲線の定義と発射薬系列、弾道計算)
(引用及び翻訳終了)
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上記の記述から判りますが、改良型のLW型であれば改修の必要性がありませんが、それ以外の従来型であれば、多少の改造を必要とする模様です。
その改修の程度(予算面・納期)を総合的に検討するべきではありますが、性能が実証されました場合は離島防衛が喫緊の課題となりつつある今日に於きまして、前向きに検討するべきなのかもしれません。
(下の画像は「地図で円を描く」のサイトで筆者が制作した魚釣島から半径100kmの円 クリックで拡大)
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最近、艦載砲はMk45Modに顧客の奪い合いになっていますから、何らかの新機軸を打ち出さないと駄目って事ですね。海自の護衛艦の艦載砲もあたご型、あきづき型、25DDとMk45Mod4に取って替わられていますからね。とはいえ、はつゆき型、あさぎり型、むらさめ型、こんごう型、たかつき型はOTOの艦載砲を搭載しているので、検討はしてもらいたいですね。抑止力にはなると思います。
投稿: キンタ | 2012年11月 1日 (木) 20時13分
キンタ様
こんにちは。
氏のコメントにタイプミスがあり、「たかつき型」ではなく、「たかなみ」型だと思います。
仰せの通り一部の護衛艦はオート・メラーラ社製127mm砲が搭載されていますので、それらを有効活用することが望ましいですね。
投稿: アシナガバチ | 2012年11月 2日 (金) 12時38分
確かに100㎞といったらちょっとした対艦・対地誘導弾並ですよね?
76㎜砲の映像を見ると破片調整弾ならびに誘導弾でソフトスキンのみならず、場合によっては戦車に対しても有効な火力をはやぶさ級ミサイル艇にすら持たせられる可能性があります。
導入についての問題点は予算と共に2種類となる弾丸の補給体系(otoメララとMk45)を海自が許容できるかどうかでしょうか?
投稿: 渋川雅史 | 2012年11月 6日 (火) 10時48分
渋川雅史様
初めまして。今後とも宜しくお願い申し上げます。
破片調整弾であれば、離島に上陸された場合に敵部隊上空で雨霰と攻撃しますと敵歩兵には大きなダメージを与える事が出来ると考えます。
投稿: アシナガバチ | 2012年11月 7日 (水) 19時56分
ヴルカノで気が付いたのですが、火山の噴火の形式にもヴルカノ噴火というのがあり、イタリアの火山島にヴルカノ島というその代名詞になった島がありますね。ストロンボリ噴火のストロンボリ島とか。
投稿: キンタ | 2012年11月 8日 (木) 13時07分
キンタ様
正に敵にとり火山の噴火ですね。センスの良い名称だと思います
投稿: アシナガバチ | 2012年11月11日 (日) 09時08分
従来の127mm砲の射程距離は確か23㎞前後だったと思いますが、一気に100㎞まで延ばすにはRAP弾のような仕掛けが施されてるんでしょうか?
そうなると炸薬量とのトレードオフになりそうですね・・・
もし我が国に導入された場合、近接信管の対空用と従来型の対艦用、そして対地攻撃用の長射程弾と誘導砲弾・・・と単純に考えても4種類の弾種を使用する事になりますが、54口径型は給弾ドラムが3つなので弾庫での管理に工夫が必要になるかも知れませんね。64口径型では4ドラムだそうですが、ドラム当たりの即応弾の数は少なくなるとか・・・
対地艦砲射撃といえばガダルカナル島のヘンダーソン飛行場攻撃を連想しますが、この新型砲弾の登場で島嶼防衛における砲熕兵器の役割が大きく変わりそうです。
投稿: ハエトリオット | 2012年11月11日 (日) 12時44分
>ハエトリオット様
たかなみ型の一般公開の際に聞いたのですが、砲弾の対空と対艦は信管の設定変更だけで選べるそうです。
となれば給弾ドラムは3つで大丈夫ということですね(^^)!?
投稿: 渋川雅史 | 2012年11月12日 (月) 16時45分
渋川雅史様
127mm砲は同じ信管で対空or対艦を切り替えられるんですか・・・
勉強になりました!
という事は弾体そのものは共通で、対艦用だからといって徹甲弾や成形炸薬弾(対潜魚雷では使われているそうですが)は積まれていないんですね。
考えてみれば現代の戦闘艦には大戦中みたいに分厚いアーマーやバルジを装着したフネは見当たりませんので、昔のような貫徹力は必要無い訳で・・・
ところで既に76mm砲では05式近接信管&狭指向性弾頭のような近接防空に特化した砲弾が装備されてますが、今回紹介された長射程弾と誘導砲弾を海自が新たに採用するとなると、いよいよ弾種の多様化に対応した運用が求められそうです。
投稿: ハエトリオット | 2012年11月13日 (火) 19時37分
米国製だとAGSの他にAGS-Lというのもありますね
100km級の艦砲はいろいろと妄想が進みます
いざとなったらテポドン基地狩りだって可能かもしれません
投稿: 冷麺 | 2012年11月15日 (木) 19時10分
ハエトリオット様、渋川雅史様
こんにちは。返信が遅れまして申し訳ありません。RAP弾ではありません。
イタリア国防省の公式ホームページには下記の通りあります。
These ranges are achieved by means of a very high muzzle velocity and very low aerodynamic coefficients, compared to in-service large calibre munitions.
これらの射程距離は、現行の大口径砲弾と比較し、非常に高速の砲口初速と非常に低い空気力学係数により達成される。
http://www.difesa.it/Segretario-SGD-DNA/DG/NAVARM/Vulcano_en/Pagine/Munizionamento_Vulcano.aspx
形状は戦車のAPFSDS弾に似ています。サブカリバー弾と呼ばれている模様です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Sub-caliber_round
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Obus_501556_fh000022.jpg
イタリア国防省のリンクに形状とコンセプトが掲載されています。
弾薬の種類
同社のカタログでは三種類が掲載されています(当ブログのこの記事、引用元Defense Newsでは二種類に関して触れました)。
1.無誘導方式長距離弾でマルチロール近接信管を有するもの
2.赤外線シーカー搭載の対艦用長距離弾
3.IMU/GPS誘導長距離弾
冷麺様
コメントを頂けるとは思っていませんでした。今後とも宜しくお願い申し上げます。まず情報収集が必要ですし、移動式の場合はリアルタイムでランチャーを追跡しなくてはなりません。また発射機が地下深くのサイロにある場合は、艦砲射撃では対応が難しいと思われます。
投稿: アシナガバチ | 2012年11月16日 (金) 12時55分
>弾薬の種類
なるほど、とするとケーススタディとして尖閣他の南西諸島に着上陸侵攻があった場合を考えるとドラム数からして積載すべきは、
1通常(対空・対地両用榴弾)弾:近接対空・対艦射撃用
2赤外線シーカー搭載の対艦用長距離弾:着上陸船団・護衛艦隊射撃用
3無誘導方式長距離弾ないしIMU/GPS誘導長距離弾:着上陸部隊射撃用
で、3についてはトレードオフが必要となるということになりましょうか?
投稿: 渋川雅史 | 2012年11月16日 (金) 13時41分
>非常に高速の砲口初速と非常に低い空気力学係数・・・
もはや砲身も戦車砲と同様、ライフルよりもスムーズボアの方が発射に適した砲弾ですね・・・
76mm砲の場合、弾庫の搭載数は訓練支援艦の「てんりゅう」クラスでも900発以上だそうですので、今後はそれぞれの弾種に応じてライフル砲身とスムーズボア砲身の砲塔を両方装備するフネが建造されるかも知れませんね。
砲塔のレイアウトは「はるな」型や「しらね」型のようにして、ステルス性に配慮しつつVLSの配置を最適な形態に工夫するとか?
投稿: | 2012年11月17日 (土) 15時15分
↑ 名前を書き忘れてました。大変失礼いたしました・・・
投稿: ハエトリオット | 2012年11月17日 (土) 15時17分
渋川雅史様
こんにちは。IMU/GPS誘導長距離弾はピンポイント攻撃用です。その一方で無誘導弾はプログラム可能な近接信管方式ですのでこれが対空にも使用可能なのかどうかが気になるところです。
ハエトリオット様
こんにちは。従来型の127mm砲でも100kmの射程を有する模様です。そしてそこが利点であると同社はPRしています。
投稿: アシナガバチ | 2012年11月17日 (土) 17時41分