FPS-7レーダーの探知能力は430km以上?
Defense Newsの2012年11月12日(月)付けの記事"In Asia, C4ISR Market Is Growing ( アジアにてC4ISR市場が成長中 )"で非常に興味深い記述があります。それは下記の文脈です。
-------------------------------------------------------------------
In terms of its island radar chains, the military is asking for 4.5 billion yen to upgrade its FPS-20 general surveillance radar in Kyushu Island, southern Japan, to an FPS-7. The upgraded version has a search altitude of 100,000 feet and a range of 270 miles, while the existing version has a range of 200 miles.
列島のレーダー網に関しては、自衛隊は日本南部にある九州のFPS-20監視レーダーをFPS-7に改修する為に45億円を要求している。現行のレーダー(FPS-20)は200マイルの探知能力であるのに対し、改良型(FPS-7)は100,000フィートの高度と270マイルの探知能力がある。
(引用及び翻訳終了)
-------------------------------------------------------------------
確かに防衛省「平成25年度概算要求の概要」の1「 実効的な抑止及び対処」(第3頁6枚目から)の(1)「周辺海空域の安全確保」で「警戒監視能力の強化」の項目の中で、高畑山のFPS-20レーダーをFPS-7レーダーに換装する計画が掲載されています。承認された場合の予算は45億円です。高畑山分屯基地(たかはたやまぶんとんきち)とは、宮崎県串間市大字本城4に所在しています。下の画像はGoogle Mapから宮崎県串間市大字本城4です。
(下の画像は防衛省「平成25年度概算要求の概要」より クリックで画像拡大)
(下の画像は高畑山より半径270マイル=432kmの円を描いたもの 地図は「地図に円を描く」のサイトで制作 クリックで画像拡大)
また平成24年度の防衛予算では鹿児島県の沖永良部島分屯基地(おきのえらぶじまぶんとんきち)のレーダーをFPS-7に換装する為の予算が計上されており、この記事の記述が正確であるとするならば、換装された後の探知能力は下の地図の通りとなります(同じく「地図に円を描く」のサイトで制作 クリックで画像拡大)。
そしてこの下の地図は二つの地図を重ねたものです(同じく「地図に円を描く」のサイトで制作 クリックで画像拡大)。
この記事のFPS-7の性能に関する記述は非常に興味深いものではありますが、一般公開されている資料ではFPS-7の性能に言及したものは無い筈です。それではFPS-7の探知能力が高度100,000フィート、270マイルとしているのは何が根拠なのでしょうか。そしてこの数値はあくまで公開しても差し支えない範囲であり、これよりも更に性能が優れている可能性も当然あります。
このDefense Newsの記事を執筆したのはDefense News紙のWENDELL MINNICK氏です。この記者に関しまして調べてみましたところ、2006年よりDefense News紙アジア支局の責任者と紹介ページでは記述されています。
Wendell Minnick, Asia Bureau Chief, Defense News
また2000年から2006年の間はJane's Defence Weekly紙の台湾特派員だったとも紹介ページに書かれていました。アジアの軍事情勢を20年間に亘り専門にしており、900の記事を執筆したとのことです。
この紹介ページの一番下にメールフォームがあります。そこで私はFPS-7の性能をどこで知ったのか聞いてみることにしました。私は返信があることは期待をしていませんでした。無名の何処の誰とも分からない私でしたし、またニュースソースの秘匿も当然重要であるからです。
しかし驚いたことに、日本時間の2012年11月19日(月)11:42分に返信がありました。しかしやはりこの件に関しては具体的な回答はありませんでした。しかし「プレゼント」があり、日本のレーダーに関する歴史、予算、政策などの論文をPDFで頂きました。
今後も南西諸島の防衛力構築は進んでいくものと思われ、その動向を注視していきたいと思います。
« ソフトイーサー株式会社が遠隔操作ウイルスの通信記録・プロセス起動記録ソフトを開発し無償リリース | トップページ | 日本の防空網はステルス機を防げるか、F-35Aを活用出来るか »
「軍事」カテゴリの記事
- THALES BUSHMASTERを防衛省が導入へ(2014.04.21)
- 日本国武器輸出三原則の変遷(2014.04.14)
- 米軍サイバー防衛要員が3倍に(2014.03.31)
- 2015年度米国防予算案が日本の防衛政策に与える影響(2014.03.22)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
« ソフトイーサー株式会社が遠隔操作ウイルスの通信記録・プロセス起動記録ソフトを開発し無償リリース | トップページ | 日本の防空網はステルス機を防げるか、F-35Aを活用出来るか »
良いですね!
レーダーの探知能力は何を探知するかでも探知距離が大きく変わるでしょうから、毎回この探知能力を一般公開する際にどのように距離に換算しているのか大変興味を持っておりました。
断面積Aの探知確立X%距離とかって書くならわかるんですが、Aもわからないですし、どの程度の検出でOKと言っているのかもわからないですし。。。
情報元もわからない上に、どのように算出しているのか確かに不可解ですよね。
投稿: sub. | 2012年11月20日 (火) 11時46分
前から思っていたんだけどガメラレーダーなどこの手のレーダーサイトで弾道ミサイルのような低RCSの小型目標を探知できるならステルス機なんて簡単に探知できるんじゃないでしょうか?
投稿: イーグル | 2012年11月20日 (火) 21時55分
>イーグルさん
横槍で申し訳ないです。
映るでしょうね。
居るのはわかっても、兵器側が簡単にロックオン出来ないので脅威であることには変わりないということなのでしょう。
ガメラレーダーとデータを共有してどこから誰が撃っても当たるというなら最高の防衛が出来るでしょうけど、今のところi3ファイターの概念図でもクラウドシューティングの中にガメラレーダーは描かれていません。
投稿: sub. | 2012年11月21日 (水) 15時39分
地球はRがついています。半径270マイル以内であってもレーダー地平線の下を掻い潜ってくる飛翔体には電波は届きません。実際にはχ1フィートでこの覆域、χ2フィートでこの覆域というように天気図の等圧線と同じような表しになります。レーダー覆域に穴を生じさせないためには、艦船・航空機・衛星レーダーでカバーする必要があります。そしてこれらを統合するデーターリンク。日本が最も弱いのは衛星レーダーです。お金が掛かります。水門(中国)・ウラジオストック(露)・東倉里(トウチャンリ/北朝鮮)etc からの突然のお客様は少しばかりの心くばりとおもてなしが必要です。そうしないと国土の防衛は叶いません。
戦争は、決して望むものではありませんが掛かる火の粉は払わなくてなりません。どちらが先制攻撃を仕掛けたのか、時と場合によってはその真偽を国際社会に知らしめる英断が私たちには必要でしょう。
数年後、実証機が飛んで、「ママのスクリーンに映る?映らない?」から始めて、仏で知見した静的RCSと実際の動的RCSを検証するはずです。お尻が見えやすいと、それでは機体のある部位に「ある物」を取り付けて「映る?映らない?何デシベル下がった」とやるのでしょうか。そのうち「X」との併用でいくとか・・という事も有るか無いのか。・・それは「神」のみぞ知る明日の「心」だ! 皆さま 暖かく見守ってあげましょう。
投稿: 清十郎 | 2012年11月22日 (木) 12時34分
>清十郎さん
航空機レーダーって降雨レーダーみたいにエコー強度で表記するんですね…
心神の測定の時に、虫か鳥ぐらいの大きさって言っていたので分解能表記かと思ってました。
投稿: sub. | 2012年11月22日 (木) 14時40分
RCSはデシベル表記することがあります。その例示で単純に書きました。レーダーで探知した時の最大距離から逆算してレーダーの性能をもとに計算でRCSを求めることもできます。ただし教えないでしょうが・・。お国はいろいろとRCSのシュミレーションモデルを構築して如何にRCSを小さくするか大車輪で頑張っています。将来、尾翼を無くして「するめイカ」になるかどうかはわかりませんが。
物の例えが適切ではないかもしれませんがお許し下さい。イカ釣りの時の灯光器はハロゲンランプが使われています。海ではランタンが届かぬ深くまで光が届きます。もちろん輝度も波長が関係してきます。そしてイカを採ります。ユーロファイターの話と思った人は残念■○▽。輝度・波長と書きましたがレーダーの出力・波長λと置き換えて読んで下さい。勿論、レーダーの微弱な電波を探知する能力も関係します。ガメラが探知したのはそういう事があるのではないでしょうか。浅学ですのでこの辺が限度です。
投稿: 清十郎 | 2012年11月23日 (金) 12時56分
ステルスは中期的には時代の徒花に終わるかな~と予想してます。
今後も兵器の重要な要素では有り続けるんでしょうけど、他の要素とのバランス・優先順位は今よりずっと後退するのではないかと。
投稿: 冷麺 | 2012年11月24日 (土) 03時01分
>冷麺さん
今後の機体開発は、ステルスであることが前提になるのでしょうね。
今のところ、ガメラレーダーのような高価な高性能レーダーを国内に所せましと並べた国はそうそうありませんので、戦争が頻発しているような国々で自機の生存率をあげるには有効な技術だと言えるでしょう。
レーダーの探知範囲について、オブィエクトさんの古い記事に興味深い考察がありました。
http://obiekt.seesaa.net/article/14789063.html
投稿: sub. | 2012年11月26日 (月) 16時39分
沖縄県糸満市にもJ/FPS-5ガメラレーダーが運用されていますね。
また現在「将来のレーダ方式に関する研究」が実施されており、ステルス機の捕捉も要求されています。
http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/22/jizen/honbun/17_2.pdf
投稿: アシナガバチ | 2012年11月29日 (木) 12時59分
>冷麺さん
F-35が普及すればステルスの実態のようなものが明らかになって、今のステルス神話みたいなものは変わっていきそうですね。外形的なステルス追求の重要性は下がって、レーダーやESM、電子戦技術などアビオニクスの比重が高まりそうだと個人的には見ています。その意味で、日本の投資の方向性は間違ってないなぁなどとホルホルしてみたり(笑)。
投稿: だ | 2012年12月 5日 (水) 17時33分
だ様
ステルス性は今後の戦闘機の一要素となっていく方向性は間違いがないと思われます。しかし万能ではないですし、あくまで一要素に過ぎなくなっていくでしょうね。そしてステルスとカウンターステルスは矛と盾の関係なので、相互に発展し続けていく事になると思われます。
投稿: アシナガバチ | 2012年12月14日 (金) 12時48分
地球は球状だから単純に見通し距離を計算するなら以下の式
送信アンテナ3776m(富士山頂)
受信アンテナ30m(低空飛行の飛行機)
4.12x(√3776 + √30)=275.7km
送信アンテナ3776m(富士山頂)
受信アンテナ50000m(北朝鮮弾道弾最高高度)
4.12x(√3776 + √50000)=1174.4km
フレネルゾーンの関係が有るので実際はこの数値より多少短く成ると思う。
地上設置型のレーダーは地球の丸みの呪縛から逃げられないので、
航空機設置型がその内開発されるのでは?
たとえばP-1哨戒機にSPY-1が搭載されるみたいな。
引用 CATVエキスパート(受信調査)P49
投稿: robocat | 2020年3月19日 (木) 00時00分