韓国へのF-35A輸出の可能性に関するDSCAによる米議会への通知を巡る一部誤報と通知内容に思うこと
(上の画像はf35.comより韓国向けF-35A広告 PDF file クリックで画像拡大)
1.一部日本のマスコミが「韓国がF-35AとF-15の両方を60機ずつ導入する」と誤報
韓国がF-35AとF-15の両方を60機ずつ導入するとの報道が日本の一部マスコミが報じました。下のリンクはその記事の魚拓です。
「韓国にF35A売却決定 韓国はF15も同数調達へ F35の補てんか」(2013年4月4日(木)00:21 産経新聞)
この記事によりますと米国防総省が3日に連邦議会に報告したとしており、F-35Aは総額108億ドル(約1兆円)となり、それと合わせてF-15戦闘機を計24億ドルで売却するとしています。
この米国防総省による議会への報告とはDSCA(米国防安全保障協力局)による通知を指していると思われ、主要な武器輸出に関する事柄はDSCAの公式ホームページの「武器販売通知」のページで確認をする事が可能です。2013年度の欄で韓国へのこの戦闘機輸出に関する事項を見つけることは確かに出来ました。
Korea – F-35 Joint Strike Fighter Aircraft
The Defense Security Cooperation Agency notified Congress March 29 of a
possible Foreign Military Sale to the Government of Korea for 60 F-35 Joint Strike Fighter Conventional Take
Off and Landing (CTOL) aircraft
(筆者日本語訳:米国防安全保障協力局は3月29日に議会に対して、韓国政府への60機のF-35統合打撃戦闘機通常離着陸機の対外有償軍事援助の可能性を通知した。)
This notice of a potential sale is required by law and does not mean the sale has been concluded.
(筆者日本語訳:この潜在的な販売の通知は法律により要求されており、販売が確定した訳ではない。)
Korea – F-15 Silent Eagle Aircraft Support
The Defense Security Cooperation Agency notified Congress March 29 of a possible Foreign Military Sale to the Government of Korea in support of (60) F-15 Silent Eagle
(筆者日本語訳:米国防安全保障協力局は3月29日に議会に対して、韓国政府への(60機の)F-15サイレントイーグルの対外有償軍事援助の可能性を通知した。)
This notice of a potential sale is required by law and does not mean the sale has been concluded.
(筆者日本語訳:この潜在的な販売の通知は法律により要求されており、販売が確定した訳ではない。)
(この動画はTonkatsu298氏によりYouTubeに投稿されたF-15SE関連動画 F-15SEのコンセプトやコクピットが良く分かる)
即ちこれは販売される可能性を議会に報告したものであって、韓国への輸出が確定した訳ではありません。同じく2013年4月3日(水)のDefense Newsの記事"Details Emerge for S. Korean JSF and Silent Eagle Sales ( 韓国向けのJSFとF-15サイレントイーグル販売の詳細が判明)"でも同じ主旨が記載されています。下記はその記事の一部抜粋と私による翻訳です。
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The notifications are not necessarily a sign that the South Korean military will shortly reach a decision. Instead, it lays out what a potential sale might look like, so if the South Korean armed forces decide to pick one of the American fighters they can quickly sign a contract.
通知は韓国軍がまもなく決定するという兆候では必ずしもない。その代わりに潜在的な取引がどういったものになるかを示すものであり、そうすれば韓国軍が米国製戦闘機のうちの一機種を選定したならば直ぐに契約書に署名が出来る。
“The notification does not pre-suppose that the F-35 has been selected, but is an administrative requirement in order for Korea to consider a US Government Foreign Military Sales offer.
通知はF-35が選定された事を事前に想定しないが、これは韓国が米国の対外有償軍事援助提案を検討する上で行政手続きとして必要である。
(引用及び翻訳終了)
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従いまして一部マスコミの第一報は完全な誤報であったことがわかります。該当新聞社は恐らくそれに気がつき、今は記事内容を全面改定しました。
2.韓国へのF-35A輸出に関するDSCAの議会への通知内容と、昨年に公表された日本に関するそれとの比較
日本への輸出に関しましては2012年4月30日に議会に通知され、2012年5月1日にその旨がDSCAの公式ホームページに掲載されました。
Japan-F-35 Joint Strike Fighter Aircraft(日本-F-35 統合攻撃戦闘機)
当ブログ過去関連記事:「日本のF-35導入に関する米国との交渉状況(2012年5月現在)~一機単価は190億円?~」(2012年5月 4日 (金))
今回の韓国へのF-35A輸出に関するDSCAの議会への通知内容と、昨年の日本に関するそれを比較しますと、下記の様な微妙な差異が何点か見受けられます。
(1)金額
日本:42機で100億ドル
韓国:60機で108億ドル
(2)F-135エンジンのスペア
日本:5基
韓国:9基
(3)訓練装置
日本:Flight Mission Trainer(飛行作戦訓練装置)
韓国:Full Mission Trainer(完全作戦訓練装置)
(4)飛行試験機器
日本:有
韓国:無
(5)通信機器(F-35A本体には日韓共にC4I/CNIが組み込まれているので、この通信機器とは何を指すのかは不明)
日本:無
韓国:有
(6)資料
日本:technical data and publications(技術データと出版物)
韓国:publication and technical document(出版物と技術文書)
(7)米国による日韓への技術・兵站支援
日本:U.S. Government and contractor engineering, technical, and logistics support services(米国政府及び契約業者のエンジニアリング・技術・兵站支援サービス)
韓国:U.S. Government and contractor engineering and logistics personal services(米国政府及び契約業者のエンジニアリング・兵站支援要員サービス)
韓国に関しましてはまだユーロファイタータイフーンを含む機種選定が行われており、それぞれの陣営との交渉で最終的な契約の内容が変わる可能性はあります。しかし今回の通知は予想される契約内容の概要を示しており、大変参考になる資料です。日本がF-35AをF-15J非MSIP型の後継として追加導入する場合の参考資料ともなるかもしれません。
いずれにしましても韓国がF-35Aを選定した場合に、日本のFACOや防衛産業にて部品製造、重整備や修理を行うと思われますので、それは日本の防衛産業にとりメリットが生じることとなるでしょう。
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