接続水域に於ける潜水したままの潜水艦の法的位置づけに関して
1.問題の概要
皆様も各報道でご存知のことと思いますが、国籍不明の潜水艦が接続水域を潜水したままで航行しました。
久米島沖の接続水域に国籍不明潜水艦(2013年5月13日 11時45分 NHK)
外国の潜水艦 また接続水域に(2013年5月19日 19時13分 NHK)
そしてこれらは防衛省の公式発表でも確認可能です。
国籍不明潜没潜水艦の動向について(平成25年5月13日 防衛省)
また産経新聞は5/13付けの潜水艦の潜航コースを地図上に描いています。
「潜水艦の潜航コース」(2013年5月14日(火)7時55分配信産経新聞)
2.領海・接続水域とは
それでは領海・接続水域とは一体どのようなものでしょう。それは海洋法に関する国際連合条約 (国連海洋法条約)にて定められています。領海に関しましては同条約第3条で「いずれの国も、この条約の定めるところにより決定される基線から測定して十二海里を超えない範囲でその領海の幅を定める権利を有する」としており、また接続水域に関しましては同条約第33条第2項で「接続水域は、領海の幅を測定するための基線から二十四海里を超えて拡張することができない」と規定しており、下の図はそれを判り易く図解化したものです(出典はWikipediaより、クリックで図拡大)。
3.日本は国際法に照らしてどの様な対応が可能であるか
(1)「北大路機関」はるな様の問題提起
「北大路機関」はるな様がこの件に関しまして対応策を提案していました。
「接続水域への外国潜水艦潜航侵入問題について 国連海洋法条約・公海条約・領海条約」(2013年05月18日)
「領海での沿岸国に認められている主権行使を行うことはできないのですが、領海へ影響が及ぶ脅威や危険に対し、必要な予防措置を執ることは認められています。即ち、接続水域に入ったことを理由として攻撃を行うことはできません、しかし、威嚇射撃などは予防措置にあたるため沿岸国に認められる。 」
「沿岸国は領海だけではなく接続水域においても発生した不法行為に対し、継続追跡権を有すると示されています。継続追跡権は、接続水域の外側に設定されている排他的経済水域においても域内で生起した不法行為に対し行うことが認められているのですが、これは言いかえれば、接続水域において生じた不法行為にたいし、沿岸国が管轄権を有することが認められているということを改めて確認できるところ。 」
(2)国連海洋法条約上の規定
国連海洋法条約第33条第1項では「沿岸国は、自国の領海に接続する水域で接続水域といわれるものにおいて、次のことに必要な規制を行うことができる。 」、「(a) 自国の領土又は領海内における通関上、財政上、出入国管理士又は衛生上の法令の違反を防止すること。 」、「(b) 自国の領土又は領海内で行われた(a)の法令の違反を処罰すること。 」と規程しています。従いまして安全保障上の問題に関しましては明文での規定がないのが現状です。
領海内の潜水艦の航行に関しましては国連海洋法条約第20条で「潜水船その他の水中航行機器は、領海においては、海面上を航行し、かつ、その旗を掲げなければならない。 」と明記されています。
(3)わが国の法規
わが国の法律では「領海及び接続水域に関する法律」が制定されており、同法第四条では「我が国が国連海洋法条約第三十三条1に定めるところにより我が国の領域における通関、財政、出入国管理及び衛生に関する法令に違反する行為の防止及び処罰のために必要な措置を執る水域として、接続水域を設ける。」としており、文言的には国連海洋法条約第33条第1項と全く同じです。即ち密輸や密入国に関しましては処罰が可能となりますが、それ以外には規定がありません。
通常は国際条約を締結した後は、立法府で承認を得て、そして条約内容に基づいた国内法を制定するというプロセスを踏みます。
(4)どう解釈するべきか
国連海洋法条約第20条では潜水艦は領海内では浮上しなくてはならないと明文化されており、その一方で接続水域に関しましてはそういった規定がないことを考えますと、接続水域では潜水艦には浮上する義務はないと反対解釈をすることが出来ると考えます。その一方で領海内で国籍不明の潜水艦が領海に侵入した場合は強制力を伴う措置を講じるとすることが国際法上は妥当です。
「質問なるほドリ:接続水域、外国船は通れない?=回答・鈴木泰広」(2012年10月27日 毎日新聞)
「接続水域は公海と同じように、外国の船でも自由に通れるんです。ただし、密輸や密入国などを防ぐため、疑わしい船を立ち入り検査し、外に出すことなどができます。海上保安庁が取り締まっていて、日本の法律に違反した疑いがある船は接続水域の外まで追いかけることも可能です。でも、こうした対応は軍艦(ぐんかん)や公船(こうせん)(各国政府の船)にはできません。」
防衛大臣会見概要(平成25年5月21日(08時17分~08時24分))
「接続水域を航行することに関しては、特に国際法上、違反というわけではありません。私どもが注視をしているのは、領海に入ってくるということであります。今回の状況も領海に入るような状況ではなかったということですから、これは、警戒・警告、このようなことについて、有効に機能していると思っています。」
(5)わが国の対応
安倍総理は国会で名指しを避けながらも、けん制する発言をしました。
「接続水域潜航「重大な行為」=安倍首相がけん制、中国艦の公算-参院予算委」(2013年05月14日 18:20時事通信)
「「領海に近い距離まで来たことは重大な行為だ。国籍は申し上げないが、当該国には二度と行わないよう認識していただかなければならない」、「「ある種の意図を感じざるを得ないので、事実関係を公表するという判断をした」
従いましてあくまで政策的な判断として政府は公開したということが出来ます。国際法上は強制力を伴う有効な措置はありません。
その一方でもし領海に侵犯した場合は1996年12月安全保障会議及び閣議で決定された「我が国の領海及び内水で潜没航行する外国潜水艦への対処について」の方針や、「(2004年11月10日に発生した)中国原子力潜水艦による領海内潜没航行事案を踏まえての措置」に基づき海上警備行動が発令されることになります。
海上警備行動を発令した実績が2004年の事案ではあり、またその方針は不変であることが一種の抑止力となっていると言えるでしょう。
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