US-2飛行艇をインドはどのように運用するか
1.日印首脳が共同声明に署名し、US-2に関する合同作業部会を立ち上げへ
インドのマンモハン・シン首相が2013年5月27日から30日まで公式実務訪問賓客として訪日し、29日には日印主脳会談で両首脳で共同声明に署名しました。
日印首脳会談 共同声明に署名(2013年5月29日 21時12分 NHK)
マンモハン・シン・インド首相の訪日(概要と評価)(平成25年5月30日 日本国外務省)
その共同声明で「インドによる救難飛行艇US-2の導入に向け、合同作業部会を立ち上げること等につき一致した。」とのことです。具体的な内容は兎も角としまして、ほぼ内定と言って良いでしょう。
インドへのUS-2飛行艇輸出解禁の動向に関する件は以前にも当ブログで執筆したことがありました。
「海自飛行艇を民間転用、インド輸出想定 防衛省承認へ」(2011年7月 6日 (水))
(この記事ではUS-2の主なスペックや輸出展望、そしてメンテナンス等のバックアップ体制が課題になる旨を執筆しました。)
(下の図は平成22年05月20日付けで新明和が防衛省に提出したと思われる資料「救難飛行艇US-2民間転用事業体制(案)と課題について」(防衛省ホームページよりダウンロード可能)の第9頁より クリックで拡大)
「JA2012国際航空宇宙展に於ける各メーカー表明事項-後半-国内メーカー動向編」(2012年10月27日 (土))
(この記事では新明和がインドからの受注に自信を深めていること、2012年1月にインド政府は9機のSAR飛行艇導入の為の情報要請を発令しており、インドの必要数はやがて計18機まで増加する可能性があること等を執筆しました。)
2.合同作業部会で予想される検討内容、及びインドによるUS-2の予想される運用方法
合同作業部会での予想される検討内容や、インドによるUS-2飛行艇の予想される運用に関しまして、2013年5月30日のDefense Newsの記事"India, Japan Discuss Cooperation on Amphibious Aircraft"(インドと日本が飛行艇に関し協力を協議へ」)に興味深い内容が記述されていますので、下記に記事本文の一部抜粋と翻訳を行います。
-------------------------------------------------------------------
India and Japan will establish a joint working group to explore cooperation on the US-2 amphibious aircraft made by Japan’s ShinMaywa.
日本の新明和により製造されたUS-2飛行艇に関する協力を模索する合同作業部会をインドと日本は設立する。
A ShinMaywa executive said the joint working group will decide terms of the cooperation, but said it could possibly include joint production, operation and training on the US-2 amphibious aircraft.
新明和の役員は合同作業部会が協力の条件を決定すると述べ、その上でUS-2飛行艇の共同生産、運用、及び訓練を含んだものになるかもしれないと話した。
The amphibious aircraft will be placed at the Andaman and Nicobar islands in the Indian Ocean, which is the base of India’s Tri-Command and meant to keep vigil on China. The aircraft would spearhead any littoral warfare operations in the Indian Ocean.
飛行艇はインドの三軍統合司令部の基地であり、中国の監視拠点であるインド洋のアンダマン・ニコバル諸島に配備されるであろう。インド洋に於ける如何なる沿岸戦作戦で同機は先鋒となる。
(下はGoogleマップよりインド洋のアンダマン・ニコバル諸島)
The aircraft will be used for maritime patrol, anti-surface warfare, electronic intelligence and search-and-rescue missions.
同機は海洋パトロール、対水上戦、電子情報収集、捜索救難作戦に投入されるであろう。
The Indian Navy requires the amphibious aircraft to be capable of 360-degree coverage so it can detect and track surface vessels, ships, submarine periscopes, and low flying aircraft and missiles.
洋上船舶、潜水艦の潜望鏡、低空飛行の航空機やミサイルを探知及び追跡する為に、インド海軍は飛行艇が全方位能力を有することを必須とする。
A Navy official said the US-2 has already been evaluated by them and the aircraft suits its requirements, as it can take off on a 250-meter strip and operate in rough seas.
US-2は既に彼等により評価され、250mの距離で離陸し荒れた海で運用が可能である為に、同機は要求に合致するとインド海軍関係者は述べた。
(引用及び翻訳終了)
-------------------------------------------------------------------
(下の写真は筆者がJA2012で撮影したUS-2の資料、複数のバリエーションが構想されている、クリックで写真拡大)
このDefense Newsの記事の内容が正しいと仮定した場合は、インドは救難任務よりもむしろより軍事的な任務に投入することとなります。US-2は引き込み式FLIRターレットを装備しており(以前はメーカー公式HPにその旨の記載がありましたが現在は削除されています)、現状でも一定のISR(情報・監視・偵察)能力を有すると考えられますが、インド軍の運用に合致する為には更なる改造が必要であり、そのことからも新明和役員による「共同生産」との発言が出たのかもしれません。
また同記事はUS-2はアンダマン・ニコバル諸島に配備されるであろうとしています。その場合の行動半径を1500km~2000kmとして地図に描いた場合は下記のとおりです(下の地図は「地図に円を描く」で製作、青が1500km、赤が2000km, クリックで拡大)
既に今年の4月の時点でインドがUS-2を導入する目的は救難ではなく、軍事目的が主要ではないかと分析も一部に散見されました。
「インドはUS-2を救難なんかに使わない」(2013年4月 3日 (水) 数多久遠のブログ シミュレーション小説と防衛雑感)
「インドがUS-2を買う本音が、100%海賊対処やPSI(拡散に対する安全保障構想)対処に使うつもりだろうと予想するためです。」、「海自のP-3Cが海賊対処で活躍していることと同様に、空から高速で広範囲を捜索することができます。」、「その上、不審な船舶に対しては、着水して水上艦と同様に臨検を行なう事が可能です。」
こうしてみますと、こういった分析は正しかった可能性が高いかもしれません。
3.インドは何機のUS-2を導入するか
まだ具体的には日印間で公式合意には至っておらず、またこれに関しましては複数の情報があり不明です。
Flightglobalの2012年10月09日(火)10:32の記事"ShinMaywa looks to India for US-2 amphibian sales"(「新明和がUS-2飛行艇販売でインドに注目」)では"In January 2012, New Delhi issued a request for information for nine amphibious SAR aircraft. India's requirement could eventually be expanded to total 18 aircraft."(「2012年1月にインド政府は9機のSAR飛行艇導入の為の情報要請を発令した。インドの必要数はやがて計18機まで増加する可能性がある。」)と報じていました。
一方インド側の一部情報(インドの防衛・航空関係ジャーナリストであるShiv Aroor氏の2013年05月29日22:41:43のつぶやき)によりますと日本は2機のUS-2をインドに販売することに同意したとなっています。
それ以外には2013年5月27日の日経新聞が「インド政府は少なくとも15機調達する意向で、両国政府は年内の合意を目指す。」と報じていました。
4.さいごに
日本の兵器はガラパゴスとの批判が散見されますが、今回のインドへのUS-2輸出は、こういった他国には同等品がほぼ皆無な特殊な国産装備品の開発が世界からも評価されつつあることの証左であると言えます。逆に言えば、こういったマーケットを開拓する事が日本の防衛産業の成功の鍵を握るのかもしれません。今後はどの様にインドによる運用をサポートしていくかが課題となりますが、期待して動向を注視していきたいと考えます。
最近のコメント