防衛省平成26年度予算概算要求を読んで
1.はじめに
8月30日(金)に防衛省の平成26年度予算概算要求がホームページ上に公開となりました。総額は4兆8928億円と昨年度と比較し前年比から3%の増加となっていますが、この増加率は円安により外国からの輸入コストが上昇した為でもあります。私がこの予算に注目するのは、検討中の新防衛大綱の方向性が反映されていると考えられるからです。
今回の概算要求の概要の第1頁(PDFファイルの5枚目)では「『防衛力の在り方検討に関する中間報告』 に、現下の安全保障環境において南西地域をはじめとする我が国の防衛態勢を強化するための重要課題として例示された、警戒監視能力の強化、島嶼部に対する攻撃への対応、弾道ミサイル攻撃及びゲリラ・特殊部隊への対応、サイバー攻撃への対応、大規模災害等への対応、統合の強化、情報機能の強化、宇宙空間の利用の推進等を重視し、防衛力を整備。」とあります。この各項目の概要を述べているのが第3頁(PDFファイルの7枚目)です。
(上の画像は防衛省の平成26年度予算概算要求より クリックで画像拡大 以下の画像は特に言及がない限り防衛省の平成26年度予算概算要求からとさせて頂きます)
今回はこれに関して私が興味深いと感じた各項目に関して論じたいと思います。
2.一部項目の検証
(1).警戒監視能力の強化(第4頁~第7頁、PDFファイル8枚目~11枚目)
まず注目に値すると私が考えますのが、「新たな早期警戒機の導入に向けた性能・運用方法等に関する検討を実施」となっている点です。そして「平成27年度予算に、新たな早期警戒機の導入に係る経費を計上することを目指して検討作業を本格化」するとしています。もしそうだとしますと平成26年度中には新早期警戒機の機種が決定されることとなるでしょう。
(上の写真は米海軍公式サイトからE2D Advanced Hawkeye, 著作権は米国政府の方針によりPublic Domain, クリックで写真拡大 下の写真は筆者が撮影したJA2012会場で撮影のボーイング737ベースのAEW&C機の模型 クリックで写真拡大 この2機種が有力候補であると考えられる)
上記に加えてに「概算要求の概要では「警戒航空隊を改編し、那覇基地に早期警戒機(E-2C)による『第2飛行警戒監視隊(仮称)』を新編」としています(クリックで画像拡大)。
しかしこれは以前から私は予測していました。それは昨年の「概算要求の概要」では第5頁(PDFファイル8枚目)に那覇基地における早期警戒機(E-2C)の整備基盤の整備(0.7億円)との項目があった為り、その項目には「南西地域においてE-2Cを常時継続的に運用し得る態勢を確保するため、那覇基地において使用する整備器材等を取得」と記載があった為です。それは一昨年でも同じでした。
またそれ以外には、「平成27年度予算に、高高度滞空型無人機の取得に係る経費を計上することを目指して検討作業を本格化」と明記し2億円の予算を計上したことも注目に値します。
(2).島嶼部に対する攻撃への対応(第8頁~第13頁、PDFファイル12枚目~17枚目)
ここで疑問に感じましたのは「水陸両用準備隊(仮称)の編成」の項目です。ここで平成26年度予算概算要求のイメージ図を見てみることとしましょう(クリックで画像拡大)。
この運用イメージでは「西方普通科連隊等と連携した運用研究等を実施」と明記されています。即ち現段階では西方普通科連隊とは別の部隊との扱いです。
「艦艇の水陸両用戦能力の向上」では「水陸両用戦に係る輸送能力を強化するため、海上自衛隊の「おおすみ」型輸送艦を改修・26年度は、今後の大規模改修に向けた試設計等のほか、水陸両用車の収納に必要となるすべり止め塗料のLCAC甲板への塗布を実施」、「『いずも』型護衛艦の多目的区画への電子会議装置の整備等を実施」との記述があります。これらに関しましては事前に一部で報道されていました。
「海自輸送艦を大幅改修 4億円要求 離島防衛に本腰」(2013年8月24日 08:14 産経新聞*リンク先はWebCiteによる魚拓)
ただ報道では「垂直離着陸輸送機オスプレイを搭載可能にする」としているのに対し、概算要求の概要ではそういった記述は見受けられませんでした。
オスプレイに関しましては「平成27年度予算に、ティルトローター機の取得に係る経費を計上することを目指して検討作業を本格化」する旨の記述があり、事前の諸々の報道の通りに導入する方向で確定と言えるでしょう。
「島嶼部に対する攻撃への対応」に関しましてはもう一点注目すべき項目がありますが、それに関しましては後述することとします。
(3).弾道ミサイル攻撃及びゲリラ・特殊部隊への対応(第14頁~第15頁、PDFファイル18枚目~19枚目)
この項目は例年と比べましても大きく異なることはありませんが、防衛省敷地内にPAC-3の展開基盤を整備するとしており、それは結果として2020年東京オリンピックでの航空機自爆テロ警戒に役立つことにもなるでしょう。会場の85%は選手村から8km圏内にあります。
(下の地図は「地図に円を描く」から、防衛省から20km範囲内、クリックで画像拡大)
3.主要な装備品等
(1).航空機関連(クリックで表拡大)
先ほど「『島嶼部に対する攻撃への対応』に関しましてはもう一点注目すべき項目がありますが、それに関しましては後述することとします」と述べました。それは「戦闘機(F-2)へのターゲティング・ポッド搭載試改修」との項目です。
(上の写真はJA2012会場のLockheed Martin社のブースにて筆者が撮影のF-2Aの模型 クリックで写真拡大 エアインテーク下の向かって左にスナイパーポッドが搭載されている。 下は運用図イメージ、クリックで画像拡大)
このターゲティング・ポッドとはLockheed Martin社製のスナイパーであり、「地上誘導員等」によるレーザー照射はElbit社製のDIRECTOR-Mではないかと言われています。スナイパーに関しましては2013年8月2日に航空自衛隊のホームページで正式に発表されていました。
(この動画はLockheed Martin社のYouTube公式アカウントよりSniperポッドの動画)
少し前の話ですが防衛省・自衛隊:大臣会見概要 平成25年7月26日(11時21分~11時43分)に「敵基地攻撃能力の保有」に関して大臣と記者の間でやや興味深い質疑応答が行われていますので下記に引用します。
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Q:今回の中間報告の中で、自民党の提言にあった敵基地攻撃能力の保有については、直接的な文言が無いのですけれども、北朝鮮のミサイル対応を念頭にこの課題も今後検討していくということでよろしいのでしょうか。
A:このような策源地に対する打撃力については、憲法上も許される範囲ということが国会でも整理をされております。私どもとしましては、基本的には専守防衛をしっかりしていくということ、そして日本が様々な脅威に晒されたときには、我が国の防衛力を使ってしっかりそれを防ぐということでありますが、例えば、累次にわたる攻撃が繰り返されるような場合、これは自衛のためにその策源地を打撃力をもって攻撃をするということは当然、安全保障を預かる私どもとしては検討すべき内容だと思っております。ただ、これに関しては、特に日米同盟の中で今までも役割分担をしてまいりましたので、今後もやはり政府内、そしてまた日米間での議論が必要だと思っております。
Q:今の打撃力に関してなのですけれども、大臣が現時点で想定している打撃力に関する具体的な装備について、何かご所見があるのかということと、この打撃力についての検討をいつ頃までに結論を出したいというお考えなのかお聞かせ下さい。
A:打撃力の具体的な装備については、これはまずどのような能力を持つべきかという前提から始まりますので、具体的な装備を今のところ念頭に置いているわけではありません。ただ、いずれにしても、この議論というのは大変大きな議論になりますので、我が国がこの打撃力を持つことについては、まず能力の評価、そして周辺国、特に北朝鮮に対しての脅威の問題、そして日米同盟に対しての議論、そして周辺国にしっかりとした理解を得る、こういう様々な努力があっての能力構築だと思っておりますので、一つ一つそのようなことを検討する必要があると思っております。
Q:基本的なところなのですけれども、敵基地攻撃能力についてなのですけれども、専守防衛の概念との整理をどのようにつけられているのかという点と、先制攻撃との線引きについてご説明下さい。
A:私どもとしましては、専守防衛の基本姿勢は何ら変わっておりません。あくまでも我が国に攻撃があった場合、どのような形でしっかりとした防衛態勢がとれるか、そのいくつかの検討項目の中で今言った策源地に対しての打撃力という議論が出てくる内容だと思っています。現在の防衛態勢の中では、日本が言ってみれば防衛力に関しては盾の役割、そして策源地に対しての打撃力は、日米同盟の中の米国の役割ということで今まで整理がついておりますが、今後様々な安全保障環境の変化の中でこれは日米も含めた幅広い議論が必要だと思っております。先制攻撃ということは、これはもちろん私どもとしては想定しておりません。あくまでも我が国に対して明確な攻撃が行われる、そのような状態、すでに我が国に対して脅威となりうる事態が起きている、それをもって初めて私どもとしては策源地に対しての打撃力についての検討を行うということであります。
(引用終了)
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(2).艦船関連(クリックで表拡大)
海自関連に関しましては26年度護衛艦(5,000トン型)も興味深いですが、「たかなみ型護衛艦の短SAMシステムの機能向上(5隻分)」とありますので、「たかなみ型」が全てESSM対応となります。因みに平成24年度予算により「むらさめ」型もESSM搭載改修が9隻全て既に完了となりました。
(3).誘導弾、火器・車両、BMD関連(クリックで表拡大)
60mm迫撃砲(B)との項目が目に付きますが、これは60 mm COMMANDO MORTAR M6C-210ではないかと言われています。
(この動画はYouTubeから60 mm COMMANDO MORTARの射撃動画)
4.主な研究開発
研究開発に関しましても今後の防衛政策の方向性を考える上で興味深い項目が多数あると言えるでしょう(クリックで上の表拡大)。
装輪装甲車(改)の開発や野外指揮・通信システム一体化、ステルス機対抗手段の開発など、方向性を示唆する予算が盛り込まれています。
(上の画像は装輪装甲車(改)の運用構想及び開発構想より、クリックで画像を拡大、装輪装甲車(改)の政策評価書も興味深い)
(この動画はRussia Today公式アカウントがYouTubeに投稿したPAK-FA T-50の編隊飛行)
5.さいごに
今年度中に改定された防衛大綱が策定されます。また安倍政権により集団的自衛権の解禁、日本版NSCの創設、秘密保全法案など日本の安全保障政策は大きく変わることとなるでしょう。冒頭でも述べましたが、この予算概算要求は今後の日本の防衛政策を分析する上で大変興味深いものです。
*筆者の多忙により長期間ブログを更新出来ませんでしたが、今後もこのブログは継続していきたいと考えていますので今後とも宜しくお願い申し上げます。
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コメント
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お体ご自愛くださいませ。
中国の行動には、不安を感じています。
私達の税金が防人の皆様の命をより守れるように使われている
ならば、とても安心です。
投稿: ぷりん | 2013年10月 7日 (月) 10時40分
プリン様
有難うございます。何が有効な抑止力となりえるか熟考を重ねて防衛力を構築していきたいですね。
投稿: アシナガバチ | 2013年10月 7日 (月) 12時50分
お久しぶりです。
オリンピックが決まった以上テロ対策は今まで以上に重視されるでしょうね。
それにサイバー攻撃は一刻も早く対応してほしいものですね。
ディスカウントジャパンなんてのを国ぐるみでやっているのがありますからね。
投稿: みやとん | 2013年10月 7日 (月) 12時56分
江畑さんも言っていたのですが、我が国の防衛力の方向性を、周辺国に理解
願わなければ為らないのか。兵器は全て攻撃的です。
求極、抑止ですね。思い止ませる、戦力の保持。
待っていました。勝手にです。
投稿: 朱鷺池 | 2013年10月 8日 (火) 19時37分
みやとん様
お久しぶりです。オリンピック関連で対テロ対策や重要施設警備は一層充実すると思われます。
現状ではサイバー攻撃への対処は警察が行っており、防衛省や防衛産業に対するサイバー攻撃への対処のみを防衛省が担っているのが現状です。
朱鷺池様
韓国と中国以外で日本の「抑止力強化」に対する憂慮を表明している国はありませんので、理解を求める必要性は余りないと私は考えます。
投稿: アシナガバチ | 2013年10月10日 (木) 00時03分
更新御疲れ様です。
大綱の再改訂を控えての予算要求ではありますが、水陸両用車両の導入や艦載無人機の研究など新装備導入に向けての要求が多く興味深いですね。
今まで訓練や通信システム等のソフト面で進められてきた統合化の流れが、個々の装備調達にも現れてきたように思えました。
個人的には新装備よりも老朽化した護衛艦の円滑な更新や、新早期警戒機や次期多用途ヘリといった既存装備の更新についても、本格的に注力していってもらいたいものです。
投稿: 橘花 | 2013年10月15日 (火) 20時06分
橘花様
次期多用途ヘリに関しましては私は非常に残念に感じています。
もし導入が実現しており、実績を重ねていれば民間型開発や輸出も将来的には考えられました。
しかし後継機は必要であり、米国のKC-Xではボーイング社の相次ぐ不祥事や批判に関わらず、最終的にボーイング社の機体が選定された経緯があります。
もし川崎UH-X案が総合評価で優れているのであれば、是非とも川崎に今一度のチャンスを与えるべきであると私個人は考えます
投稿: アシナガバチ | 2013年10月16日 (水) 20時32分
お久しぶりです。
更新楽しみにしていました。
また情報発進よろしくお願いいたします~
投稿: 軍事オタク | 2013年10月22日 (火) 10時17分
管理人さま、こんにちは。
春先からエンジンの問題で飛行停止になっていたP-1ですが、量産化にあたりエンジンの燃料噴射弁の肉厚を増加したことが原因だったようですね。エンジン制御ソフトウェアの改修で対処し、本日から飛行再開という報道がありました。
これで量産が本格化するでしょう。
投稿: ブリンデン | 2013年10月23日 (水) 21時24分
軍事オタク様
どういたしまして
ブリンデン様
P3Cの改修予算のみが計上されているのはやや予算面から不安ですが、何とかバランスのとれた調達数を継続してほしいですね。
投稿: アシナガバチ | 2013年10月28日 (月) 00時09分