RQ-21を海自が導入検討との報道に関して
1.はじめに
前回の記事でも述べましたが、中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)の第5頁に「哨戒機能を有する艦載型無人機について検討の上、必要な措置を講ずる」との記述があり、また第24頁には「哨戒機能を有する艦載型無人機については、上記の哨戒ヘリコプター(SH-60K)の機数の範囲内で、追加的な整備を行い得るものとする」との注釈が見受けられます。
防衛省の「平成26年度予算概算要求の概要」の第6頁(PDFファイル10枚目)と「平成26年度予算の概要」第4頁(PDFファイル8枚目)には下記の記述とイメージ図があり、このことからMQ-8の導入を検討していることを強く示唆するものでした。
当ブログの過去記事でもこの動きに関して記事を執筆しています。
「防衛省がMQ-8の導入を検討」(2013年11月 4日 (月))
しかしここに来まして全く異なる情報を一部マスコミが報じました。護衛艦に発着が可能な固定翼機型の無人機の導入を海自が検討しているというのです。
「護衛艦発着の飛行機配備へ=海自初、無人偵察機で」(2014年01月11日(金)22:48*時事通信=リンク先はWebCiteによる魚拓)
時事通信のこの報道によりますとこの無人機とはRQ21で、Insitu社製Scan Eagleの発展型になります。「今後5年間で19機を上限に購入する見通し」と報じています。
(下の写真はWikipediaからRQ-21A, 著作権はPublic Domain, クリックで写真拡大)
(この動画はYouTubeに投稿されたScan Eagleの説明, 特徴がよくわかる, RQ21はScan Eagleと同じ発射装置と回収装置を使用する)
2.時事通信の記事の検証
2014年1月20日現在の時点に於きまして、時事通信のこの記事以外のマスコミは報じていません。また2014年1月24日現在の時点で、防衛大臣の記者会見に於きましてもこの件に関する発表や質疑応答はないのが現状です。
また中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)の第24頁の「哨戒機能を有する艦載型無人機については、上記の哨戒ヘリコプター(SH-60K)の機数の範囲内で、追加的な整備を行い得るものとする」との注釈から、「艦載型無人機」とは回転翼型を指していると考えるのが自然と思われます。そして「平成26年度予算概算要求の概要」の第6頁(PDFファイル10枚目)と「平成26年度予算の概要」第4頁(PDFファイル8枚目)に掲載されていますイメージからも回転翼機型を想定していると考えるのが妥当でしょう。
その一方で防衛省はScan Eagleを導入しています。従いまして海自がその発展型であるRQ21を導入しましても、何ら不思議ではありません。
参考過去記事:「防衛省、無人機とロボット購入へ 震災教訓、有事投入も」(2011年9月17日 (土))
ボーイング社公式プレスリリース:「ボーイングの子会社であるインシツ・パシフィック社 陸上自衛隊向けのスキャンイーグルをデリバリー」(2013年5月14日)
3.RQ-21とは
前述の時事通信の報道の写真下にもありますが、RQ-21はボーイング子会社であるインシツ社(Insitu)の製品です。厳密にはRQ-21A Blackjackは米海軍/米海兵隊向けのIntegratorとなります。
(下の図はIntegratorのカタログから、クリックで拡大)
同社のIntegratorのホームページには下記の記述があり、拡張性に富む機体であることも特徴の一つです。
"The aircraft’s six payload spaces can be customized with cameras, communication capabilities and other payloads to suit your operational needs."
機体の6か所のペイロードスペースはカメラ、通信能力、及びその他のペイロードにより、任務の必要性に合わせてカスタマイズすることが可能である。
(下の図はIntegratorのカタログから、Nose Bayには旋回式のセンサーと追加の15ポンドのペイロード、胴体下のCenter of Gravity (CG) Bayはサイズが40 x 10 x 5インチで35ポンドのペイロード、Wing/Winglet Baysをそれぞれの主翼に2か所のぺイロードスペースで3ポンドのペイロード、Wing Hardpointsはそれぞれ15ポンドまで、1ポンドは0.4536 kg、クリックで拡大)
ターレットの標準搭載センサー類は光学式撮像素子、中波赤外線撮像素子、赤外線マーカー、レーザー距離測定機となります。
4.Scan EagleとIntegrator/Blackjackの比較
インシツ社(Insitu)の公式ホームページからScan EagleとIntegratorとそしてRQ-21A Blackjackのページを参考にして、筆者にてExcelで下記の表を作成しました(クリックで拡大)。
こうしてみますとRQ-21はScan Eagleより大型化しており、また水平尾翼を持たないScan Eagleに対しRQ-21は2枚の垂直尾翼を結ぶ形で水平尾翼が設けられています(下の写真はWikipediaからScan Eagle)。
5.さいごに
前述の時事通信の報道は「将来的に研究が進めば、戦闘機が発着艦する空母の保有につながる可能性もある」としていますが、圧搾空気式のランチャーで発射されてフックシステムで着艦する無人機と、有人の戦闘機では大きく差があり、私は特に関係がないと考えます。また米海軍でも低率初期生産に入ったばかりの機体を海自が導入するか否かは分かりません。しかし、新中期防と新大綱により様々な新たな試みが検討されていることは事実であり、今後の動向を注視していきます。
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コメント
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面白いですね。
興味あります。
まったくどうでもよいのですが、Insituを読むとインサイチュー社ですね…動画の紹介でもそのようです。
揚げ足取ったような指摘で申し訳ないです;
投稿: sub. | 2014年1月28日 (火) 13時30分
sub.様
お久しぶりです。この報道は公式にはまだ確認出来ていませんが、事実だとしますと興味深いですね。
>Insituを読むとインサイチュー社
誠に言い訳がましく申し訳ありませんが、時事通信の報道がこの記述であった為、今回はこの記述としました。またボーイングの日本語公式もインシツ(Insitu)社となっています。
投稿: アシナガバチ | 2014年2月 1日 (土) 23時00分
そういうことなら、恐らく日本語公式はインシツ社でしょう。
私の方が間違えてました。
すみません;;
投稿: sub. | 2014年2月 6日 (木) 10時56分
sub.様
どういたしましてm(__)m。
投稿: アシナガバチ | 2014年2月 8日 (土) 06時25分