2015年度米国防予算案が日本の防衛政策に与える影響
(上の写真は米国防総省公式サイトより2015年度国防予算に関し2014年2月24日に演説するチャック・ヘーゲル国防長官とデンプシー統合参謀本部議長、クリックで写真拡大、国防総省の方針で配布自由)
1.はじめに
2015年度米国防予算案が公開となりました。
オバマ大統領は2014年3月4日(月)に議会に予算を提出しており、総額は4956億ドルで前年度比4億ドルの減額です。
(下の画像はBudget Briefing-予算概要-から、 クリックで画像拡大、国防総省の方針で配布自由)
またチャック・ヘーゲル国防長官が2014年2月24日(日)に記者会見を行っています。
Secretary of Defense Speech-FY15 Budget Preview-(国防長官演説-15年度予算展望-)
その演説の中で幾つか日本の防衛政策にも少なくない影響を及ぼす可能性がある方針が二点ほど表明されました。
まず一点目はU-2の退役とGlobal Hawkの使用継続の方針表明であり、また二点目はLCSに対して懐疑的な見解を示すとともに調達数を52隻から最大でも32隻までに減らす方向性を打ち出したことです。
2.U-2の退役とGlobal Hawkの使用継続
(上の写真は米国空軍公式サイトからGlobal Hawk, クリックで拡大、米国空軍の方針により配布自由)
以前から当ブログの記事でもGlobal Hawk Block30の調達及び運用のコストがU-2偵察機のそれを大幅に超過することから、Global Hawk Block30の将来性が不透明であり、日本のGlobal Hawk調達と運用に悪影響を及ぼしかねない旨を執筆しました。
「2013年度米国防予算が日本に与える影響」(2012年1月29日 (日))
「産経新聞が防衛大綱改定の概要を報じる」(2013年1月 5日 (土))
U-2の退役とGlobal Hawkの使用継続に関し、チャック・ヘーゲル国防長官はこの様に述べています(下記は発言の抜粋と翻訳)。
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In addition to the A-10, the Air Force will also retire the 50-year-old U-2 in favor of the unmanned Global Hawk system. This decision was a close call, as DoD had previously recommended retaining the U-2 over the Global Hawk because of cost issues. But over the last several years, DoD has been able to reduce the Global Hawk’s operating costs. With its greater range and endurance, the Global Hawk makes a better high-altitude reconnaissance platform for the future.
A-10に加え、50年に亘り運用をしてきたU-2をGlobal Hawk無人機の為に退役することとする。コストの問題により、以前は国防総省はGlobal HawkよりもU-2の運用継続を推奨した為に、この決定は難しい選択であった。しかしこの数年間に亘り国防総省はGlobal Hawkの運用コストを節減することが出来た。航続距離と飛行時間がより優れており、将来に向かってGlobal Hawkはより優れた高高度偵察基盤となる。
(引用及び翻訳終了)
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それでは具体的な予算措置はどういったものなのでしょう。Overview - FY2015 Defense Budget(2015年度防衛予算概観)の7-18(PDF第96枚目)には下記の記述がありますので抜粋し翻訳します。
-------------------------------------------------------------------Investment funds are added to RQ-4 Block 30 to ensure platform viability beyond 2023, improve reliability, and improve sensor performance to close the gaps with the U-2.
信頼性向上、U-2との能力差を埋める為のセンサー性能向上、そして2023年を超えて基盤の生存性を確実にする為の投資資金がRQ-4 Block 30に投じられる。
(引用及び翻訳終了)
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結果としましてU-2の退役とRQ-4 Block 30の運用継続・能力向上により、少なくとも米軍が運用を中止した機種を日本が導入することになってしまう最悪の事態は回避出来る見込みとなりました。これは日本のRQ-4 Block 30の導入にプラスの要因となるでしょう。
3.LCS
(上の写真はWikipediaよりLCSの2タイプ、クリックで拡大、著作権はPublic Domain)
(1).チャック・ヘーゲル国防長官のLCSに関する認識
その一方でチャック・ヘーゲル国防長官はLCSに関し、下記の様に言及しています(下記は発言の抜粋と翻訳)。
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Regarding the Navy’s Littoral Combat Ship, I am concerned that the Navy is relying too heavily on the LCS to achieve its long-term goals for ship numbers. Therefore, no new contract negotiations beyond 32 ships will go forward.
海軍の沿海域戦闘艦に関しては、長期的な隻数の目標を達成する為に海軍がLCSに重度に頼りすぎていることを私は憂慮する。従って32隻を超える新規契約交渉が進展することはない。
The LCS was designed to perform certain missions – such as mine sweeping and anti-submarine warfare – in a relatively permissive environment. But we need to closely examine whether the LCS has the independent protection and firepower to operate and survive against a more advanced military adversary and emerging new technologies, especially in the Asia Pacific. If we were to build out the LCS program to 52 ships, as previously planned, it would represent one-sixth of our future 300-ship Navy. Given continued fiscal restraints, we must direct future shipbuilding resources toward platforms that can operate in every region and along the full spectrum of conflict.
LCSは比較的脅威度の低い環境で特定の任務-掃海と対潜の様な-を行うように設計された。しかし特にアジア太平洋地域でのより先進的な軍事上の敵と誕生しつつある新技術に対して任務を遂行し生存するだけの個艦防御と火力をLCSが有するか否かを、我々は厳格に検討する必要がある。以前に計画した通りにもし52隻のLCSを建造するとなると、将来の海軍の300隻の1/6を構成することとなる。財政的な制約の中では、全ての地域で紛争の全局面に於いて任務遂行が可能な基盤に我々は将来の艦船建造能力を向けなくてはならない。
Additionally, at my direction, the Navy will submit alternative proposals to procure a capable and lethal small surface combatant, generally consistent with the capabilities of a frigate. I’ve directed the Navy to consider a completely new design, existing ship designs, and a modified LCS. These proposals are due to me later this year in time to inform next year’s budget submission.
それに加えて、私の指示により、概ねフリゲートの能力に相当する能力と攻撃力が高い小型戦闘艦を発注する代替案を海軍は提出するであろう。私は海軍に全く新しいデザイン、現存の艦船のデザイン、LCSの改造型を検討するように指示した。これらの提案は来年度の予算提出を報告する時である今年の後半までに私に提出される。
(引用及び翻訳終了)
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これは非常に重大な認識と言えるでしょう。チャック・ヘーゲル国防長官はLCSは低脅威度の地域に於ける限られた任務でのみの艦船であり、アジア・太平洋地域に於けるより高度な技術を有する脅威には対処出来ない可能性があると考えている模様です。そしてLCSで海軍の隻数の頭数を揃える為に使ってはならないとしています。
(上の画像二つはそれぞれGeneral Dynamics社のカタログ(上)とLockheed Martinのカタログ(下)より、クリックで画像拡大、通常の固定武装は57mm砲x1、12.7mm機関銃x4、SeaRAM程度であることが判る。短魚雷発射管はなく、任務によっては小型の短距離対艦誘導弾も搭載するがこれは小型船舶による自爆テロや不審船対処程度であろうし先行き不透明。日本語Wikipediaには「Independence級が前甲板のMk.110 57ミリ単装速射砲は、必要に応じて、Mk.41 VLSと交換可能である。」との記述があるが、公的ソースでは確認出来ない。また英語版WikipediaにもMk.41 VLSと交換可能との記述はない。)
(2).日本版LCS
「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」(PDF:609KB)の第20頁及び「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)について」(PDF:517KB)の第5頁に「多様な任務への対応能力の向上と船体のコンパクト化を両立させた新たな護衛艦」との記述があります。「日本版LCS」と言われているものです。
この「多様な任務への対応能力の向上と船体のコンパクト化を両立させた新たな護衛艦」に関しましては「世界の艦船」4月号(2014年 No.795)に仮称「多機能護衛艦(DEX)」としてイメージ図(巻頭カラーイメージ図)と記事(第81~第87頁)があり、それに関しますブログもネット上で散見されます。
「多機能護衛艦(DEX)について」( 2014年3月2日 21:47*希典のひとりごとのブログ)
「世界の艦船」4月号(2014年 No.795)の記事にも「VLS及びSSMと思われる装備がなく、対空戦、対水上戦は近接戦闘機能のみに割り切り、その分電子戦能力を高め、高速性、ステルス性などの発揮により敵威力圏下での生存性を高める」と予測しておりコンセプトとしましてはLCSに類似しています。またこの記事によりますと短魚雷発射管の装備も不明です。
その一方で「世界の艦船」4月号(2014年 No.795)の記事では「水陸両用戦能力の向上が新大綱の大きな要素であることから、備砲の対地攻撃能力は必要となろう」とし、候補としてVulcano弾も運用が可能なOTOメララ社の127mm/64口径軽量砲を挙げています。
当ブログ過去参考記事:「オート・メラーラ社が射程を大幅に延伸した127mm艦砲弾を生産開始へ」(2012年11月 1日 (木)) (CEP(平均誤差半径)は20m以下で120Kmの最大射程が達成可能)
しかしあくまで個人的な見解ですが、チャック・ヘーゲル米国防長官がアジア・太平洋地域に於けるLCSの生存性や有効性に疑問を呈したことを考慮に入れますと、この構想も何らかの影響を受けるかもしれません。
その一方でこういった報道も散見されました。日本版LCSと関連性があるか否かは現段階では不明です。しかし念頭にあるのはLCS的な性格の艦船であると思われます。
「ヘリ搭載艦の研究で合意=日米」(2014年3月4日(火)21時13分配信*時事通信)
「特殊な艦艇「三胴船」 米と共同研究へ」(2014年3月10日 5時37分)
ただ時事通信の記事は「排水量千数百トンクラス」としており、米国のLCSや「世界の艦船」4月号(2014年 No.795)の記事のDEXよりは一回り小型の模様です。
4.さいごに
こうして見ますと日米ともにアジア・太平洋地域の軍事バランスの均衡が崩れつつある現実に直面しながらも、深刻な財政状況から選択と集中を余儀なくされつつあることが分かります。しかしヘーゲル米国防長官が述べたとおり、頭数を揃える為に仕様面や性能面で妥協することは避けるべきではないでしょうか。
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