THALES BUSHMASTERを防衛省が導入へ
(上の写真はWikipedia英語版からブッシュマスター、クリックで拡大、ISAF撮影配布自由)
1.はじめに
2013年度補正予算で導入が決まりました輸送防護車にオーストラリア製のブッシュマスターが選定されたとの報道がありました。
政府、「輸送防護車」にオーストラリア製の装甲車を選定(2014年04月05日(金) 07:34 FNN)
防衛省からは2014年4月21日段階で公式の発表を見つけることは出来ませんでしたが、ブッシュマスターの製造元であるタレス社のプレスリリースには掲載されています。
JAPAN BUYS THALES BUSHMASTERS (「日本がタレス製ブッシュマスターを導入」2014年4月7日)
今回は導入までの経緯とブッシュマスターの仕様に関しまして記事を執筆することとしました。
2.導入までの経緯
(1).アルジェリア人質拘束事件
現地時間の2013年1月16日の早朝未明に発生しましたイスラム武装勢力によるアルジェリア人質拘束事件が、日本がブッシュマスターを導入する大きな契機となりました。
国際テロの脅威~1 在アルジェリア邦人に対するテロ事件~ (公安調査庁公式HP魚拓)
(下の画像はWikipediaの「アルジェリア人質拘束事件」より施設周辺の図。左側の「Tigantourine gas complex」が天然ガス施設と居住区、右側の「In Amenas」がイナメナス市街地。クリックで画像拡大、Al MacDonald氏作成)
(2).自衛隊法改正
この事件を受けて政府内部で「アルジェリア政府が採った被害邦人及び遺体の輸送措置と同様の対応が派遣先
国政府から期待できない場合、陸上輸送を含む派遣先国における様々なニーズに対応できるよう現行法制の検討」する方向となり、「自衛隊による派遣先国における陸上輸送を可能とすること、我が国政府職員、企業関係者、医師等を輸送対象者に加えること等を主な内容とする自衛隊法改正案を衆議院に提出し」、「第 185 回国会において 11 月1日に衆議院本会議で可決(多数)の上、参議院に送付され、11 月 15 日に参議院本会議において可決・成立」することとなったのです(「」部分は自衛隊による在外邦人等の陸上輸送― 自衛隊法の一部を改正する法律案 ―外交防衛委員会調査室 沓脱 和人 )。
この改正により自衛隊法に下記の規定が加えられることとなりました。
第八十四条の三「防衛大臣は、外務大臣から外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する邦人の輸送の依頼があつた場合において、当該輸送において予想される危険及びこれを避けるための方策について外務大臣と協議し、当該輸送を安全に実施することができると認めるときは、当該邦人の輸送を行うことができる。この場合において、防衛大臣は、外務大臣から当該緊急事態に際して生命若しくは身体の保護を要する外国人として同乗させることを依頼された者、当該外国との連絡調整その他の当該輸送の実施に伴い必要となる措置をとらせるため当該輸送の職務に従事する自衛官に同行させる必要があると認められる者又は当該邦人若しくは当該外国人の家族その他の関係者で当該邦人若しくは当該外国人に早期に面会させ、若しくは同行させることが適当であると認められる者を同乗させることができる。」
3 第一項の輸送は、前項に規定する航空機又は船舶のほか、特に必要があると認められるときは、当該輸送に適する車両(当該輸送のために借り受けて使用するものを含む。第九十四条の五において同じ。)により行うことができる。
(3).平成25年度補正予算案に「輸送防護車の整備」が明記
前述の改正に伴い、政情不安定な国に於いての活動を前提とした装備が必要となってくるのは自明の理です。平成25年度補正予算案(防衛省所管)の概要(PDF:260KB 平成25年12月12日掲載)には「輸送防護車の整備」が明記され、それは各マスコミでも報じられました。
「邦人保護に輸送防護車=防衛省」(2013年12月12日 19:57 時事通信)
「『輸送防護車』4両の購入費7億円など、総額1197億円を計上した。」
(下は平成25年度補正予算案(防衛省所管)の概要(PDF:260KB 平成25年12月12日掲載)に掲載された「輸送防護車」のイメージ図)
これを受けて私を含めて一部には米軍がアフガニスタンで使用した中古のMRAPを導入するのではないかとの見方も散見されました。実際に米国はアフガニスタンで使用したMRAPを海外に輸出する方向性です。
しかしそれ以降の続報では興味を示している国の中には日本が列挙されることはありませんでした。
上記のDefense Newsの記事に於きましても、列挙されているのはパキスタン、アフガニスタン、インドであり日本の名前はありません。そうした中でオーストラリア製のブッシュマスターが選定されたとの報道があり、米国製の中古ではなかったことが判明しました。
3.ブッシュマスターの仕様
この動画はTHALES公式アカウントによりYouTubeに投稿されたBushmasterの動画
ブッシュマスターには複数の種類があり(どの種類でも車体は高い共通仕様を有する)、日本が導入するタイプがどのタイプに該当するのかが不明ではありますが、Thales社の公式サイトからここでは兵員輸送タイプを見てみることとします。
全長:7,180 mm
幅:2,480 mm
全高:2,650 mm
輪距:2,100 mm
ホイールベース:3,900 mm
フロントオーバハング:1,340 mm
リアオーバハング:1,950 mm
乗員10名(運転手を含む)、構造:常時4x4
重量:15,000 kg(総重量)、12,400 kg(装備重量)
内部容量:11.2 m³
速度:100 km/h
総重量時の最大航続距離(路面走行時):800 km
渡河:1200 mm(準備なしで)
勾配:60%迄
垂直障害物:457 mm
武装:銃架3ヶ所、1ヶ所はRWS、12.7mm機関銃ないしは40mmAGLの搭載可
C-130Hによる輸送が可能
日本がブッシュマスターの導入を決めたのは、北大路機関様が2014年04月17日の記事「豪製ブッシュマスター耐爆車両、防衛省が“輸送防護車”邦人救出用車両として選定」で簡潔に説明していますが、「車幅が2.48mと抑えられており、既存の自衛隊車両のように道路運送車両法の枠内で運用可能」であること、「防弾性能と共に防御力の重要な要素を占める耐地雷性能が評価されたこと」を推測していますが、それ以外にも右ハンドルという要素も検討されたかもしれません。
*追記:タレス社のプレスリリースには"The vehicles, all troop carrier variants, will be manufactured at the company’s facility in Bendigo, Victoria in Australia, for delivery in late 2014."(同車輛は全て兵員輸送仕様であり、オーストラリア連邦ビクトリア州ベンディゴの施設で製造され、2014年後半に納入される)との記述がありました。
4.さいごに
今回の豪州製の装甲車導入は豪州との安全保障面での連携強化の一環と言えるでしょう。実際に日豪両国に於きましては首相交代や政権交代が相次ぎましたが、その方向性は全く変わっていません。
過去関連記事
豪首相が日本との安保関係強化を希望 (2011年4月25日 (月))
豪州ダーウィンに米国海兵隊駐留へ(2011年11月13日 (日))
豪が日本の「そうりゅう」をベースに新型潜水艦の開発を希望(2012年7月14日 (土))
4月5日(土)~8日(火)のトニー・アボット・豪首相の訪日に於きましても、日豪間の安全保障協力を一層強化することで両首脳が同意しており、今後もこういった新たな動きがあるかもしれません。
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