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2014年4月14日 (月)

日本国武器輸出三原則の変遷

1.はじめに

 政府の武器輸出三原則が再び緩和されました。

「防衛装備移転三原則について」(平成26年4月1日*防衛省)

武器輸出三原則の緩和は平成23年12月27日に当時の野田内閣が緩和して以来のことです。

「防衛装備品等の海外移転に関する基準」についての内閣官房長官談話」 ( 平成23年12月27日 )

 今回は一連の経緯と相違点に関しまして記事を執筆することとします。

2.「初代」武器輸出三原則

(1).佐藤内閣と三木内閣に於ける武器輸出三原則
 そもそもの武器輸出三原則は以前の記事「日本政府が武器輸出三原則を緩和へ」(2011年12月26日 (月))にて執筆しました通り、「第055回国会 決算委員会 第5号 昭和42年4月21日(金曜日)午前10時16分開議 」にて当時の佐藤栄作首相が国会で表明しましたものが原点となりました。
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「防衛的な武器等については、これは外国が輸出してくれといえば、それを断わるようなことはないのだろうと思います。」

「私は、一切武器を送ってはならぬ、こうきめてしまうのは、産業そのものから申しましても、やや当を得ないのじゃないか。ことに防衛のために必要な、安全確保のために必要な自衛力を整備する、こういう観点に立つと、一がいに何もかも輸出しちゃいかぬ、こういうふうにはいかぬと私は思います。」

「輸出貿易管理令で特に制限をして、こういう場合は送ってはならぬという場合があります。それはいま申し上げましたように、戦争をしている国、あるいはまた共産国向けの場合、あるいは国連決議により武器等の輸出の禁止がされている国向けの場合、それとただいま国際紛争中の当事国またはそのおそれのある国向け、こういうのは輸出してはならない。」

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 つまり佐藤内閣当時の解釈では輸出が原則であり、例外的に輸出しないケースが三原則であるとの見解であると解するのが妥当です。

 この方針を転換したのが三木内閣でした。「第18号 昭和51年2月27日第077回国会 予算委員会 第18号(金曜日) 午前10時02分開議」で、この時に「(一) 三原則対象地域については、武器の輸出を認めない。(二) 三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、武器の輸出を慎むものとする。」とし、これ以降は武器輸出が実質的に禁じられる方向となったのです。

(2).武器輸出三原則の例外
 しかしその一方で外交や国際情勢により武器輸出三原則の例外扱いとなる事案は複数存在しました。その一覧は「防衛生産・技術基盤及び武器輸出三原則等について」(平成21年3月26日 防衛省)の第24枚目の頁に纏められています(下の画像はその頁、クリックで拡大)。

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3.野田内閣当時の武器輸出三原則の運用改定

 日本の武器輸出三原則の方針が大きく転換したのは、平成23年12月27日に当時の野田内閣が緩和した時です。改訂された内容は概ね下記の通りでした。
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平和貢献・国際協力に伴う案件については、防衛装備品等の海外への移転を可能とする(但し我が国政府による事前同意なく、「目的外使用」や「第三国移転」がないことが担保されることを前提として行う)。

国際共同開発・生産に関する案件については、我が国との間で安全保障面での協力関係がありその国との共同開発・生産が我が国の安全保障に資する場合に実施する。参加国による「目的外使用」や「第三国移転」について我が国政府による事前同意を義務付ける。

上記以外の輸出については、引き続きこれに基づき慎重に対処する。

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 これに関し当時の一川保夫防衛大臣は記者会見で下記のように述べています。

大臣会見概要 平成23年12月27日(11時00分~11時16分)

「平和貢献なり国際協力活動という観点からしましても、積極的な貢献が可能になってくるのではないかと評価いたしております。また、先端装備品の共同開発・生産ということも今日、国際的な大きな流れになっております。米国はもちろん、いろいろな面でこれまで対応してきておりますけれども、米国以外の我が国と安全保障上の関係の深い諸国との共同開発・生産ということについては、かねてからの課題であったわけでございますけれども、そういうことについても、今日、装備品が高性能化してきているということでもございますし、また、コスト高になってきているという課題を抱えている時代でもありますので、我が国の安全保障ということを推進していくためにも、こういった基準の考え方に即して対応するということは、非常に安全保障に資するものであると考えております。」

「平和貢献なり国際協力という一つのPKO活動等の流れというのが一方でありますから、そういう中で携行した装備品等が被災地なり、あるいは国造りにとって非常にプラスになるというケースも最近いくつか現実あったと聞いております。今回の緩和によっては、そういう国々に対する貢献というのは出てくるのではないかと思っております。」

 この原則に則りますと災害派遣の際に現地に重機を譲渡する場合や、共同で装備品を外国と開発する場合は海外へ装備品を移転することが可能となりました。その一方で国産の小銃、戦車、戦闘機、護衛艦等はこの改定後の運用でも輸出は出来ません。

4.安倍内閣に於ける武器輸出三原則改定

(1).原則と運用指針の概要

 平成26年4月1日の国家安全保障会議決定/閣議決定の防衛装備移転三原則によりますと新三原則は下記のとおりです。またその運用指針も併せて公開されていますので、同時に纏めます。

第1原則:移転を禁止する場合の明確化(該当する場合は移転が認められない)

①当該移転が我が国の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合
②当該移転が国連安保理の決議に基づく義務に違反する場合
③紛争当事国(武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国をいう。)への移転となる場合

第2原則:移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開

(1)移転を認め得る場合
①平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合
 (i)移転先が外国政府である場合
 (ii)移転先が国際連合若しくはその関連機関又は国連決議に基づいて活動を行う機関

②同盟国等との国際共同開発・生産の実施

③同盟国等との安全保障・防衛分野における協力の強化
 (i)物品役務相互提供協定(ACSA)に基づく物品又は役務の提供に含まれる防衛装備の海外移転
 (ii)米国との相互技術交流の一環としての武器技術の提供
 (iii)米国からのライセンス生産品に係る部品や役務の提供、米軍への修理等の役務提供
 (iv)我が国との間で安全保障面での協力関係がある国に対する救難、輸送、警戒、監視及び掃海に係る協力に関する防衛装備の海外移転

④装備品の維持を含む自衛隊の活動及び邦人の安全確保の観点から我が国の安全保障に資する場合

(2)厳格審査及び情報公開
①、仕向先及び最終需要者の適切性並びに当該防衛装備の移転が 我が国の安全保障上及ぼす懸念の程度を厳格に審査
②特に慎重な検討を要する重要な案件につい ては、国家安全保障会議において審議するものとする。
③国家安全保障会議で審議された案件については、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」を踏まえ政府として情報の公開を図る。
④経済産業大臣は、防衛装備の海外移転の許可の状況につき、年次報告書を作成し、国家安全保障会議において報告の上、公表するものとする。

第3原則:目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保

①目的外使用及び第三国移転について我が国の事前同意を相手国政府に義務付ける
②但し下記の場合等は仕向先の管理体制の確認をもって適正な管理を確保することも可能とする
 (i)平和貢献・国際協力の積極的な推進のため適切と判断される場合(緊急性・人道性が高い場合、移転先が国際連合若しくはその関連機関又は国連決議に基づいて活動を行う機関である場合)
 (ii)部品等を融通し合う国際的なシステムに参加する場合
 (iii)部品等をライセンス元に納入する場合
 (iv)自衛隊等の活動又は邦人の安全確保に必要な海外移転である場合

(2).武器輸出三原則緩和をめぐる具体的な動向

 野田政権と安倍政権に於ける緩和により複数の注目すべき案件が動き出しました。平成26年4月5日(土曜日)~8日(火曜日),トニー・アボット・オーストラリア首相が公賓として来日し、その首脳会談の合意事項に「流体力学に関する共同研究」との文言があります。その文言は外務省が公式ホームページで公表している「日豪首脳会談に関する共同プレス発表(日本語) (PDF) 」の第11項目目でも閲覧が可能です。

「11. 両首脳は,防衛装備・技術協力における両国の相互補完的な長所及び共通の利益に留意し,同分野における枠組みの合意に向けて交渉を開始することを決定した。両首脳は,双方の外務・防衛閣僚に対し,最初の科学技術協力として,船舶の流体力学分野に関する共同研究を進めるように指示した。 」

 豪州がコリンズ級潜水艦の後継選定で日本から「そうりゅう」級技術提供を受けて開発しようとしていることは以前にも当ブログで記事を執筆したことがありました。これはその続報となります。

「豪が日本の「そうりゅう」をベースに新型潜水艦の開発を希望」(2012年7月14日 (土))

こういった動向以外にも2014年4月13日(日)の日経新聞の報道「(変わる日本の「守り」武器輸出新原則(下))武器開発、海外から秋波」によりますと、英国防省がMeteor空対空ミサイルの共同開発の参加を三菱電機に打診しているとのことです(ネットでは有料会員のみが閲覧可能)。

(下の写真はWikipediaからMeteorの写真、クリックで拡大、Stahlkocher氏がアップロード)

1024pxmeteor_luftluftrakete

 また時事通信も以前に「F35ミサイル共同開発へ=武器三原則緩和受け-日英」(2014年01月25日05:41 時事通信)と報じており、こういった構想は産業界では水面下では進んでいたことを裏付けます。但し平成26年1月28日(10時47分~10時59分)の防衛大臣記者会見では「日英では防衛装備品についての共同研究について合意がなされており、例えば化学防護服については具体的に進んでおります。今後どのような装備について共同で研究開発していくかということについては、当然いろんな議論が行われているということであります。ただ具体的に何かがすでに決まったというわけではありません。」と肯定も否定もしていませんでした。ただ以前にも執筆しましたが日英では6分野で共同開発が検討されている模様です。

「日英武器共同開発で英が六分野を日本側に提案へ」(2013年2月14日 (木))

 日英の空対空ミサイル共同開発に関連すると思われる情報は以前から一部のネットで散見はされていました。ただソースも信憑性が低く、論調も感情的で、そして関連する情報が全くなかった為に私個人としましては読み流していました。

米国、韓国に輸出するF35の性能を下げたことが判明 「韓国F35は日本F35に勝てない仕様だ」「対等に戦えば私たちが負ける」(大艦巨砲主義 2014年1月2日)

 今でも内容に関しては疑問点が多いと私個人は考えますが、恐らくこういった動向が韓国の軍事知識の低い記者に伝わり、誤った認識で記事を執筆したと思われます。

 また三菱とトルコが戦車のエンジンの共同開発をするとの一部報道もありましたが、第三国移転がないことが担保されなかった為に見送りとなった模様です。

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Talks with Japan for an engine for the Altay broke down because of Turkish intentions to export the indigenous tank and Japan’s reluctance to license the joint engine, a senior Turkish procurement official said.
トルコのアルタイ戦車を輸出する意図と、共同開発エンジンのライセンスに対する日本の消極姿勢により輸出アルタイ戦車のエンジンに関する日本との会談はなくなったとトルコの調達政府関係者は述べた。

(Defense News 2014年3月5日記事 "Japan Deal Scrapped, Turkey Looking for Tank Engine"より引用翻訳 )
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5.さいごに

 以前から何度か執筆していますが、日本の防衛産業は欧米と比較しましても規模が小さく、競争力は高くないと思われますし、またメンテナンスやエンドユーザーの訓練などの体制構築の課題は多いと思われます。しかし2014年4月12日(土)の日経新聞の報道「(変わる日本の「守り」武器輸出新原則(上))安保協力、新たなカード 対中国、友好国と連携」によりますと「三原則の例外を官房長官がいちいち発表する旧方式より機動性が増した」(首相周辺)模様です。

 また武器輸出三原則ほど注目はされていませんが、下記の動向も興味深いと言えるでしょう。

「ODA、軍事利用の解禁検討 政権、民生支援から転換」(2014年4月1日(火)10時2分配信 朝日新聞)

 こういった日本政府の動きは日本政府の焦りの裏返しでもあります。即ち緊迫するアジアの情勢は日米同盟のみで安定を維持できるものではなくなりつつあり、武器共同開発や武器輸出緩和により少しでも諸外国との軍事的な利害関係を深めようとの狙いも背景にあると言えるでしょう。

(下の画像はJA2012会場の新明和のブースに展示されていた筆者が撮影のUS-2の模型 クリックで拡大、『マンモハン・シン・インド首相の訪日-概要と評価-平成25年5月30日 日本国外務省』では「インドによる救難飛行艇US-2の導入に向け、合同作業部会を立ち上げること等につき一致した。」と明記されている)

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コメント

これからは、欧米との国際共同開発が当たりまえのようになってくるのでしょうか。兵器類も高性能化に合わせて、開発費も高額になってきていますから、仕様などで揉めさえしなければ、当然の事とは思います。

キンタ様
多国籍共同開発は一方で各国のドクトリンの違いが表面化し、開発費の高騰や納期遅延を招く虞もあります。実施するとしましても、二国間程度が最も懸命な選択かもしれません。

我が国の防衛産業の規模が小さいのは輸出が原則禁止だったこともあるのではないでしょうか。
原則解禁となれば、機密レベルの低い輸送機や輸送車なら完成品輸出でもライセンス供与でも良いでしょう。戦車や潜水艦もパワーユニットや基幹部材単体なら、ブラックボックス化しての輸出も可能になるでしょう。
生産数量が増えれば自衛隊の調達価格も下がるでしょうし、国内雇用確保や経済対策としても効果があると思われますし、非常時の抗堪性も増すでしょう、輸出相手国からも感謝されるし、こんな佳い事づくめのことをなぜ禁止していたのでしょうね。日本だけ自粛しても、需要がある限り誰かが作って売るんですから(笑)。

しょーちゃん様
実務的な問題としましては日本の防衛産業の国際市場に於ける競争力不足が大きな問題点として挙げられます。欧米の軍需産業と比較しましても、その差は規模面でもノウハウでも雲泥の差です。メンテナンスやユーザーの研修体制も課題と言えます。
また第三国に装備そのものや技術が流出し、結果としましてわが国の安全保障を脅かす結果とならないかも課題です。
しかしガラパゴス的な装備、日本にしかない装備は競争力はありますし、また共同で極めて高性能の戦闘機を開発することも将来的には可能となるかもしれません。

ご回答ありがとうございます。

しょーちゃん様
どういたしまして。

いつも勉強させて頂いております。

軍事技術提供と武器輸出三原則の変革とは、時代の流れを感じる
ニュースですね。
かつての「武器商人」的なイメージからの武器輸出三原則から、
兵器開発が単国だけでは難しく複雑・大プロジェクト化してきた現代では、
「軍事技術要素」の提供そのものがより重要な外交戦略になってきた
のでしょうね。
戦後のかつては、日本の軍事技術開発に否定的だった諸国が、現在の
日本の技術要素の高さと侵略的危険性の低さは魅力的なはずで、
日本との共同開発は今後さまざまな外交カードと成り得るでしょうね。
ATD-X等もまさにその外交展開をアピールする良い機会であり、また
AAM・対潜技術などは友好国には直近の交渉材料となるでしょう。


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