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軍事

2014年4月21日 (月)

THALES BUSHMASTERを防衛省が導入へ

1280pxdutch_bushmaster_with_remote_
(上の写真はWikipedia英語版からブッシュマスター、クリックで拡大、ISAF撮影配布自由)

1.はじめに 

 2013年度補正予算で導入が決まりました輸送防護車にオーストラリア製のブッシュマスターが選定されたとの報道がありました。

政府、「輸送防護車」にオーストラリア製の装甲車を選定(2014年04月05日(金) 07:34 FNN)

 防衛省からは2014年4月21日段階で公式の発表を見つけることは出来ませんでしたが、ブッシュマスターの製造元であるタレス社のプレスリリースには掲載されています。

JAPAN BUYS THALES BUSHMASTERS (「日本がタレス製ブッシュマスターを導入」2014年4月7日)

 今回は導入までの経緯とブッシュマスターの仕様に関しまして記事を執筆することとしました。

2.導入までの経緯

(1).アルジェリア人質拘束事件
 現地時間の2013年1月16日の早朝未明に発生しましたイスラム武装勢力によるアルジェリア人質拘束事件が、日本がブッシュマスターを導入する大きな契機となりました。

国際テロの脅威~1 在アルジェリア邦人に対するテロ事件~ (公安調査庁公式HP魚拓)

(下の画像はWikipediaの「アルジェリア人質拘束事件」より施設周辺の図。左側の「Tigantourine gas complex」が天然ガス施設と居住区、右側の「In Amenas」がイナメナス市街地。クリックで画像拡大、Al MacDonald氏作成)

In_amenas_hostage_crisis_map

(2).自衛隊法改正
 この事件を受けて政府内部で「アルジェリア政府が採った被害邦人及び遺体の輸送措置と同様の対応が派遣先 国政府から期待できない場合、陸上輸送を含む派遣先国における様々なニーズに対応できるよう現行法制の検討」する方向となり、「自衛隊による派遣先国における陸上輸送を可能とすること、我が国政府職員、企業関係者、医師等を輸送対象者に加えること等を主な内容とする自衛隊法改正案を衆議院に提出し」、「第 185 回国会において 11 月1日に衆議院本会議で可決(多数)の上、参議院に送付され、11 月 15 日に参議院本会議において可決・成立」することとなったのです(「」部分は自衛隊による在外邦人等の陸上輸送― 自衛隊法の一部を改正する法律案 ―外交防衛委員会調査室 沓脱 和人 )。

 この改正により自衛隊法に下記の規定が加えられることとなりました。

第八十四条の三「防衛大臣は、外務大臣から外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する邦人の輸送の依頼があつた場合において、当該輸送において予想される危険及びこれを避けるための方策について外務大臣と協議し、当該輸送を安全に実施することができると認めるときは、当該邦人の輸送を行うことができる。この場合において、防衛大臣は、外務大臣から当該緊急事態に際して生命若しくは身体の保護を要する外国人として同乗させることを依頼された者、当該外国との連絡調整その他の当該輸送の実施に伴い必要となる措置をとらせるため当該輸送の職務に従事する自衛官に同行させる必要があると認められる者又は当該邦人若しくは当該外国人の家族その他の関係者で当該邦人若しくは当該外国人に早期に面会させ、若しくは同行させることが適当であると認められる者を同乗させることができる。」

3  第一項の輸送は、前項に規定する航空機又は船舶のほか、特に必要があると認められるときは、当該輸送に適する車両(当該輸送のために借り受けて使用するものを含む。第九十四条の五において同じ。)により行うことができる

(3).平成25年度補正予算案に「輸送防護車の整備」が明記
 前述の改正に伴い、政情不安定な国に於いての活動を前提とした装備が必要となってくるのは自明の理です。平成25年度補正予算案(防衛省所管)の概要(PDF:260KB 平成25年12月12日掲載)には「輸送防護車の整備」が明記され、それは各マスコミでも報じられました。

「邦人保護に輸送防護車=防衛省」(2013年12月12日 19:57 時事通信)
「『輸送防護車』4両の購入費7億円など、総額1197億円を計上した。」

(下は平成25年度補正予算案(防衛省所管)の概要(PDF:260KB 平成25年12月12日掲載)に掲載された「輸送防護車」のイメージ図)

Transport_protected_vehicle

 これを受けて私を含めて一部には米軍がアフガニスタンで使用した中古のMRAPを導入するのではないかとの見方も散見されました。実際に米国はアフガニスタンで使用したMRAPを海外に輸出する方向性です。

US Looking to Sell Portion of Afghan MRAP Fleet (2013年12月4日 12:33PM Defense News, 米国はアフガンのMRAPの一部の売却を模索)

 しかしそれ以降の続報では興味を示している国の中には日本が列挙されることはありませんでした。

Pakistan, Afghanistan, India Want Leftover US MRAPs(2014年4月1日 03:45AM Defense News, パキスタン、アフガニスタン、インドは米国MRAPの残りを要望)

 上記のDefense Newsの記事に於きましても、列挙されているのはパキスタン、アフガニスタン、インドであり日本の名前はありません。そうした中でオーストラリア製のブッシュマスターが選定されたとの報道があり、米国製の中古ではなかったことが判明しました。

3.ブッシュマスターの仕様

この動画はTHALES公式アカウントによりYouTubeに投稿されたBushmasterの動画

 ブッシュマスターには複数の種類があり(どの種類でも車体は高い共通仕様を有する)、日本が導入するタイプがどのタイプに該当するのかが不明ではありますが、Thales社の公式サイトからここでは兵員輸送タイプを見てみることとします。

全長:7,180 mm
幅:2,480 mm
全高:2,650 mm
輪距:2,100 mm
ホイールベース:3,900 mm
フロントオーバハング:1,340 mm
リアオーバハング:1,950 mm
乗員10名(運転手を含む)、構造:常時4x4
重量:15,000 kg(総重量)、12,400 kg(装備重量)
内部容量:11.2 m³
速度:100 km/h
総重量時の最大航続距離(路面走行時):800 km
渡河:1200 mm(準備なしで)
勾配:60%迄
垂直障害物:457 mm
武装:銃架3ヶ所、1ヶ所はRWS、12.7mm機関銃ないしは40mmAGLの搭載可
C-130Hによる輸送が可能

 日本がブッシュマスターの導入を決めたのは、北大路機関様が2014年04月17日の記事「豪製ブッシュマスター耐爆車両、防衛省が“輸送防護車”邦人救出用車両として選定」で簡潔に説明していますが、「車幅が2.48mと抑えられており、既存の自衛隊車両のように道路運送車両法の枠内で運用可能」であること、「防弾性能と共に防御力の重要な要素を占める耐地雷性能が評価されたこと」を推測していますが、それ以外にも右ハンドルという要素も検討されたかもしれません。

*追記:タレス社のプレスリリースには"The vehicles, all troop carrier variants, will be manufactured at the company’s facility in Bendigo, Victoria in Australia, for delivery in late 2014."(同車輛は全て兵員輸送仕様であり、オーストラリア連邦ビクトリア州ベンディゴの施設で製造され、2014年後半に納入される)との記述がありました。

4.さいごに

 今回の豪州製の装甲車導入は豪州との安全保障面での連携強化の一環と言えるでしょう。実際に日豪両国に於きましては首相交代や政権交代が相次ぎましたが、その方向性は全く変わっていません。

過去関連記事

豪首相が日本との安保関係強化を希望 (2011年4月25日 (月))

豪州ダーウィンに米国海兵隊駐留へ(2011年11月13日 (日))

豪が日本の「そうりゅう」をベースに新型潜水艦の開発を希望(2012年7月14日 (土))

 4月5日(土)~8日(火)のトニー・アボット・豪首相の訪日に於きましても、日豪間の安全保障協力を一層強化することで両首脳が同意しており、今後もこういった新たな動きがあるかもしれません。

2014年4月14日 (月)

日本国武器輸出三原則の変遷

1.はじめに

 政府の武器輸出三原則が再び緩和されました。

「防衛装備移転三原則について」(平成26年4月1日*防衛省)

武器輸出三原則の緩和は平成23年12月27日に当時の野田内閣が緩和して以来のことです。

「防衛装備品等の海外移転に関する基準」についての内閣官房長官談話」 ( 平成23年12月27日 )

 今回は一連の経緯と相違点に関しまして記事を執筆することとします。

2.「初代」武器輸出三原則

(1).佐藤内閣と三木内閣に於ける武器輸出三原則
 そもそもの武器輸出三原則は以前の記事「日本政府が武器輸出三原則を緩和へ」(2011年12月26日 (月))にて執筆しました通り、「第055回国会 決算委員会 第5号 昭和42年4月21日(金曜日)午前10時16分開議 」にて当時の佐藤栄作首相が国会で表明しましたものが原点となりました。
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「防衛的な武器等については、これは外国が輸出してくれといえば、それを断わるようなことはないのだろうと思います。」

「私は、一切武器を送ってはならぬ、こうきめてしまうのは、産業そのものから申しましても、やや当を得ないのじゃないか。ことに防衛のために必要な、安全確保のために必要な自衛力を整備する、こういう観点に立つと、一がいに何もかも輸出しちゃいかぬ、こういうふうにはいかぬと私は思います。」

「輸出貿易管理令で特に制限をして、こういう場合は送ってはならぬという場合があります。それはいま申し上げましたように、戦争をしている国、あるいはまた共産国向けの場合、あるいは国連決議により武器等の輸出の禁止がされている国向けの場合、それとただいま国際紛争中の当事国またはそのおそれのある国向け、こういうのは輸出してはならない。」

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 つまり佐藤内閣当時の解釈では輸出が原則であり、例外的に輸出しないケースが三原則であるとの見解であると解するのが妥当です。

 この方針を転換したのが三木内閣でした。「第18号 昭和51年2月27日第077回国会 予算委員会 第18号(金曜日) 午前10時02分開議」で、この時に「(一) 三原則対象地域については、武器の輸出を認めない。(二) 三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、武器の輸出を慎むものとする。」とし、これ以降は武器輸出が実質的に禁じられる方向となったのです。

(2).武器輸出三原則の例外
 しかしその一方で外交や国際情勢により武器輸出三原則の例外扱いとなる事案は複数存在しました。その一覧は「防衛生産・技術基盤及び武器輸出三原則等について」(平成21年3月26日 防衛省)の第24枚目の頁に纏められています(下の画像はその頁、クリックで拡大)。

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3.野田内閣当時の武器輸出三原則の運用改定

 日本の武器輸出三原則の方針が大きく転換したのは、平成23年12月27日に当時の野田内閣が緩和した時です。改訂された内容は概ね下記の通りでした。
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平和貢献・国際協力に伴う案件については、防衛装備品等の海外への移転を可能とする(但し我が国政府による事前同意なく、「目的外使用」や「第三国移転」がないことが担保されることを前提として行う)。

国際共同開発・生産に関する案件については、我が国との間で安全保障面での協力関係がありその国との共同開発・生産が我が国の安全保障に資する場合に実施する。参加国による「目的外使用」や「第三国移転」について我が国政府による事前同意を義務付ける。

上記以外の輸出については、引き続きこれに基づき慎重に対処する。

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 これに関し当時の一川保夫防衛大臣は記者会見で下記のように述べています。

大臣会見概要 平成23年12月27日(11時00分~11時16分)

「平和貢献なり国際協力活動という観点からしましても、積極的な貢献が可能になってくるのではないかと評価いたしております。また、先端装備品の共同開発・生産ということも今日、国際的な大きな流れになっております。米国はもちろん、いろいろな面でこれまで対応してきておりますけれども、米国以外の我が国と安全保障上の関係の深い諸国との共同開発・生産ということについては、かねてからの課題であったわけでございますけれども、そういうことについても、今日、装備品が高性能化してきているということでもございますし、また、コスト高になってきているという課題を抱えている時代でもありますので、我が国の安全保障ということを推進していくためにも、こういった基準の考え方に即して対応するということは、非常に安全保障に資するものであると考えております。」

「平和貢献なり国際協力という一つのPKO活動等の流れというのが一方でありますから、そういう中で携行した装備品等が被災地なり、あるいは国造りにとって非常にプラスになるというケースも最近いくつか現実あったと聞いております。今回の緩和によっては、そういう国々に対する貢献というのは出てくるのではないかと思っております。」

 この原則に則りますと災害派遣の際に現地に重機を譲渡する場合や、共同で装備品を外国と開発する場合は海外へ装備品を移転することが可能となりました。その一方で国産の小銃、戦車、戦闘機、護衛艦等はこの改定後の運用でも輸出は出来ません。

4.安倍内閣に於ける武器輸出三原則改定

(1).原則と運用指針の概要

 平成26年4月1日の国家安全保障会議決定/閣議決定の防衛装備移転三原則によりますと新三原則は下記のとおりです。またその運用指針も併せて公開されていますので、同時に纏めます。

第1原則:移転を禁止する場合の明確化(該当する場合は移転が認められない)

①当該移転が我が国の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合
②当該移転が国連安保理の決議に基づく義務に違反する場合
③紛争当事国(武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国をいう。)への移転となる場合

第2原則:移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開

(1)移転を認め得る場合
①平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合
 (i)移転先が外国政府である場合
 (ii)移転先が国際連合若しくはその関連機関又は国連決議に基づいて活動を行う機関

②同盟国等との国際共同開発・生産の実施

③同盟国等との安全保障・防衛分野における協力の強化
 (i)物品役務相互提供協定(ACSA)に基づく物品又は役務の提供に含まれる防衛装備の海外移転
 (ii)米国との相互技術交流の一環としての武器技術の提供
 (iii)米国からのライセンス生産品に係る部品や役務の提供、米軍への修理等の役務提供
 (iv)我が国との間で安全保障面での協力関係がある国に対する救難、輸送、警戒、監視及び掃海に係る協力に関する防衛装備の海外移転

④装備品の維持を含む自衛隊の活動及び邦人の安全確保の観点から我が国の安全保障に資する場合

(2)厳格審査及び情報公開
①、仕向先及び最終需要者の適切性並びに当該防衛装備の移転が 我が国の安全保障上及ぼす懸念の程度を厳格に審査
②特に慎重な検討を要する重要な案件につい ては、国家安全保障会議において審議するものとする。
③国家安全保障会議で審議された案件については、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」を踏まえ政府として情報の公開を図る。
④経済産業大臣は、防衛装備の海外移転の許可の状況につき、年次報告書を作成し、国家安全保障会議において報告の上、公表するものとする。

第3原則:目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保

①目的外使用及び第三国移転について我が国の事前同意を相手国政府に義務付ける
②但し下記の場合等は仕向先の管理体制の確認をもって適正な管理を確保することも可能とする
 (i)平和貢献・国際協力の積極的な推進のため適切と判断される場合(緊急性・人道性が高い場合、移転先が国際連合若しくはその関連機関又は国連決議に基づいて活動を行う機関である場合)
 (ii)部品等を融通し合う国際的なシステムに参加する場合
 (iii)部品等をライセンス元に納入する場合
 (iv)自衛隊等の活動又は邦人の安全確保に必要な海外移転である場合

(2).武器輸出三原則緩和をめぐる具体的な動向

 野田政権と安倍政権に於ける緩和により複数の注目すべき案件が動き出しました。平成26年4月5日(土曜日)~8日(火曜日),トニー・アボット・オーストラリア首相が公賓として来日し、その首脳会談の合意事項に「流体力学に関する共同研究」との文言があります。その文言は外務省が公式ホームページで公表している「日豪首脳会談に関する共同プレス発表(日本語) (PDF) 」の第11項目目でも閲覧が可能です。

「11. 両首脳は,防衛装備・技術協力における両国の相互補完的な長所及び共通の利益に留意し,同分野における枠組みの合意に向けて交渉を開始することを決定した。両首脳は,双方の外務・防衛閣僚に対し,最初の科学技術協力として,船舶の流体力学分野に関する共同研究を進めるように指示した。 」

 豪州がコリンズ級潜水艦の後継選定で日本から「そうりゅう」級技術提供を受けて開発しようとしていることは以前にも当ブログで記事を執筆したことがありました。これはその続報となります。

「豪が日本の「そうりゅう」をベースに新型潜水艦の開発を希望」(2012年7月14日 (土))

こういった動向以外にも2014年4月13日(日)の日経新聞の報道「(変わる日本の「守り」武器輸出新原則(下))武器開発、海外から秋波」によりますと、英国防省がMeteor空対空ミサイルの共同開発の参加を三菱電機に打診しているとのことです(ネットでは有料会員のみが閲覧可能)。

(下の写真はWikipediaからMeteorの写真、クリックで拡大、Stahlkocher氏がアップロード)

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 また時事通信も以前に「F35ミサイル共同開発へ=武器三原則緩和受け-日英」(2014年01月25日05:41 時事通信)と報じており、こういった構想は産業界では水面下では進んでいたことを裏付けます。但し平成26年1月28日(10時47分~10時59分)の防衛大臣記者会見では「日英では防衛装備品についての共同研究について合意がなされており、例えば化学防護服については具体的に進んでおります。今後どのような装備について共同で研究開発していくかということについては、当然いろんな議論が行われているということであります。ただ具体的に何かがすでに決まったというわけではありません。」と肯定も否定もしていませんでした。ただ以前にも執筆しましたが日英では6分野で共同開発が検討されている模様です。

「日英武器共同開発で英が六分野を日本側に提案へ」(2013年2月14日 (木))

 日英の空対空ミサイル共同開発に関連すると思われる情報は以前から一部のネットで散見はされていました。ただソースも信憑性が低く、論調も感情的で、そして関連する情報が全くなかった為に私個人としましては読み流していました。

米国、韓国に輸出するF35の性能を下げたことが判明 「韓国F35は日本F35に勝てない仕様だ」「対等に戦えば私たちが負ける」(大艦巨砲主義 2014年1月2日)

 今でも内容に関しては疑問点が多いと私個人は考えますが、恐らくこういった動向が韓国の軍事知識の低い記者に伝わり、誤った認識で記事を執筆したと思われます。

 また三菱とトルコが戦車のエンジンの共同開発をするとの一部報道もありましたが、第三国移転がないことが担保されなかった為に見送りとなった模様です。

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Talks with Japan for an engine for the Altay broke down because of Turkish intentions to export the indigenous tank and Japan’s reluctance to license the joint engine, a senior Turkish procurement official said.
トルコのアルタイ戦車を輸出する意図と、共同開発エンジンのライセンスに対する日本の消極姿勢により輸出アルタイ戦車のエンジンに関する日本との会談はなくなったとトルコの調達政府関係者は述べた。

(Defense News 2014年3月5日記事 "Japan Deal Scrapped, Turkey Looking for Tank Engine"より引用翻訳 )
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5.さいごに

 以前から何度か執筆していますが、日本の防衛産業は欧米と比較しましても規模が小さく、競争力は高くないと思われますし、またメンテナンスやエンドユーザーの訓練などの体制構築の課題は多いと思われます。しかし2014年4月12日(土)の日経新聞の報道「(変わる日本の「守り」武器輸出新原則(上))安保協力、新たなカード 対中国、友好国と連携」によりますと「三原則の例外を官房長官がいちいち発表する旧方式より機動性が増した」(首相周辺)模様です。

 また武器輸出三原則ほど注目はされていませんが、下記の動向も興味深いと言えるでしょう。

「ODA、軍事利用の解禁検討 政権、民生支援から転換」(2014年4月1日(火)10時2分配信 朝日新聞)

 こういった日本政府の動きは日本政府の焦りの裏返しでもあります。即ち緊迫するアジアの情勢は日米同盟のみで安定を維持できるものではなくなりつつあり、武器共同開発や武器輸出緩和により少しでも諸外国との軍事的な利害関係を深めようとの狙いも背景にあると言えるでしょう。

(下の画像はJA2012会場の新明和のブースに展示されていた筆者が撮影のUS-2の模型 クリックで拡大、『マンモハン・シン・インド首相の訪日-概要と評価-平成25年5月30日 日本国外務省』では「インドによる救難飛行艇US-2の導入に向け、合同作業部会を立ち上げること等につき一致した。」と明記されている)

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2014年3月31日 (月)

米軍サイバー防衛要員が3倍に

1.はじめに

 2015年度米国防予算案ではサイバー空間に於ける作戦向けに51億ドルの予算が計上されていました。

Overview - FY2015 Defense Budget(概要-2015年度国防予算)の6-5に関連記述があります(翻訳部分は筆者にて)。

The FY 2015 President’s Budget request of $5.1 billion continues to fully support defensive and offensive cyberspace operations capabilities and to develop the Cyber Mission Forces initiated in FY 2013.
防御と攻撃のサイバー作戦能力及び2013年度に開始されたサイバー作戦軍を完全に支援をする為に2015年度の大統領予算は51億ドルを要求する。

2.ヘーゲル国防長官によるフォート・ミード基地に於ける演説

 ヘーゲル米国防長官が再来年までにサイバー軍の要員を現在の3倍以上の6000人規模に増強する方針を打ち出したと複数のマスコミにより報じられました。

「米軍 サイバー防衛要員3倍に」 (2014年3月29日 11時08分 NHK)

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(上の写真は国防総省サイトよりその演説時のヘーゲル長官、クリックで写真拡大、国防総省の方針により配布自由)

その演説の全文は米国防総省の公式サイトにも掲載されています。演説はフォート・ミード基地(米サイバー軍の本拠地であり、NSA本部も敷地内にある)にてキース・B・アレクサンダー陸軍大将/NSA長官退任式で行われました。

(下の写真は国防総省サイトよりその退任式の際のキース・B・アレクサンダー陸軍大将/NSA長官、クリックで写真拡大、国防総省の方針により配布自由)

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Retirement Ceremony for General Keith Alexander (「キース・B・アレクサンダー陸軍大将退任式」 2014年3月28日 フォート・ミード基地にて)

 下記にその一部を抜粋し、翻訳します。
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Today more than 40 trillion emails are sent each year. There are 60 trillion web pages. The internet accounts for one-fifth of GDP growth among developed countries, and it continues to connect, improve, and transform the lives of billions of people all over the world.
今日では毎年40兆以上のEメールが送られる。60兆のWebページがある。インターネットが先進国のGDPの1/5を占め、接続し、向上し、世界中の数十億の人々の生活を変革し続けている。

But our nation's reliance on cyberspace outpaces our cybersecurity. During the course of my remarks today, DOD's systems will have been scanned by adversaries around 50,000 times.  Our nation confronts the proliferation of destructive malware and a new reality of steady, ongoing and aggressive efforts to probe, access or disrupt public and private networks, and the industrial control systems that manage our water and our energy and our food supplies.
しかしわが国のサイバー空間への依存は我々のサイバーセキュリティを凌いでいる。私の今日のこのコメントの最中にも、国防総省のシステムは約50,000回に亘り敵によりスキャンされたであろう。破壊的なマルウェアの拡散と、官民のネットワークと我々の水道、エネルギー、食糧供給を管理する産業コントロールシステムを探索しアクセスしあるいは中断させようとの確実で現在進行中で攻撃的な努力の新たな現実にわが国は立ち向かう。

The United States Government and the private sector grasp cyber threats far better than we did just a few years ago.
米国政府と民間部門はサイバー脅威を数年前よりも遥かに良く把握する。

General Alexander has helped leaders across DOD recognize that cyberspace will be a part of all future conflicts. And if we don't adapt to that reality, our national security will be at great risk.
アレクサンダー大将はサイバー空間が将来の紛争の一部となるであろうことを国防総省の幹部に認識させることを助けた。そして我々がその現実に適合しなくては、我々の国家安全保障が重大な危険に晒される。

The United States does not seek to militarize cyberspace.
米国はサイバー空間を軍事化することを探求しない。

Consistent with these efforts, DOD will maintain an approach of restraint to any cyber operations outside the U.S. Government networks.
これらの努力と首尾一貫し、国防総省は米国政府ネットワーク外の如何なるサイバー作戦に対して抑制的なアプローチを維持する。

DOD's initiatives in cyberspace are managed by the professionals that General Alexander has been recruiting and training here at Cyber Command. In 2016, that force should number over 6,000 professionals who, with the close support of NSA, will be integrated with our combatant commands around the world, and defend the United States against major cyber attacks. Continuing General Alexander's work to build this cyber force will remain one of DOD's top priorities.
国防総省のサイバー空間に於ける率先はアレクサンダー大将がリクルートし訓練したプロによりこのサイバー軍で管理される。2016年には、その人員は6,000人以上のプロとなり、NSAの密接な支援と供に、世界中の戦闘司令部に統合され、主要なサイバー攻撃に対して米国を守る。このサイバー軍を構築するアレクサンダー大将の仕事を継続することは米国防総省の最優先の一つとなる。

To accomplish this goal, we are recruiting talent from everywhere.  But we're also encouraging people already here in the military, in DOD, to develop...cyber skills.
このゴールを達成する為に、我々は才能を有する人材を全ての方面からリクルートしている。しかし既に軍や国防総省に所属している人員にも、サイバー技術を向上させるよう推奨している。

Our military must enable our people to reinvent themselves for life and beyond their service.
人生と彼らの任期終了後の為に、わが軍は我々の人員に彼ら自身を再任可能なようにしなくてはならない。

(引用及び翻訳終了)
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 規模はともかくとしまして、米国がサイバー攻撃が深刻な脅威と考えており、最優先課題と考えていることが表れていると言えるでしょう。また興味深いのは各方面から人員をリクルートしており、適性があるとなれば軍の任期を終了した人員をサイバー方面に再任用出来るようにするとしていることです。

 その一方で「米国政府ネットワーク外の如何なるサイバー作戦に対して抑制的なアプローチを維持する」と述べており、民間のネットワークが攻撃を受けた際は関与するか否かに関しては明らかではありません。これは昨今の盗聴疑惑や個人情報収集疑惑が尾を引いていると思われます。

 因みに余談ではありますがこの演説でヘーゲル国防長官は"your West Point classmate, Marty Dempsey"と述べており、アレクサンダー大将がデンプシー統合参謀本部議長とアメリカ合衆国陸軍士官学校ではクラスメートであったことが分かります。

3.日本の防衛省サイバー防衛隊

 日本に於きましてもサイバー防衛隊が正式に発足しました。

「防衛省「サイバー防衛隊」発足」(2014年3月26日15時14分*NHK)

「サイバー防衛隊の新編について」(平成26年3月25日*防衛省)
「サイバー防衛隊は、防衛省・自衛隊のネットワークの監視及びサイバー攻撃発生時の対処を24時間体制で実施するとともに、サイバー攻撃に関する脅威情報の収集、分析、調査研究等を一元的に行います。」

 人数も90人で米国のサイバー軍と比較しましても非常にささやかではあります。また防衛省・自衛隊のネットワークに限られており、民間のネットワークをどう防護するかの課題が残されたままです。

 サイバー関連予算に関しましては平成26年度予算で205億円(17頁~18頁)、平成25年度予算で141億円(11頁~12頁)、平成24年度予算で2.2億円(7頁)、平成23年度予算で12億円(8頁)、平成22年に関しましては金額の明示がない(17頁)との推移で増額傾向となっています。

 施策に関しましては、防衛省の公式サイトに纏められたものを見つけることが出来ました。

自衛隊のサイバー攻撃への対応について」(日付不明、但し平成25年度予算に関する言及があり、「平成25年5月16日には、統合幕僚監部にサイバー防衛隊準備室を立ち上げました。」との記述がある)

 しかし米中等と比較しますと組織的にも体制的にもまだまだ小さいと言えます。そういった中で前述のヘーゲル長官の発言の中にある「軍の任期を終了した人員をサイバー方面に再任用」というのも一つの検討課題かもしれません。

「米国Mandiant社が中国の61398部隊をサイバー攻撃の中核と暴露」(2013年2月26日 (火))
「61398部隊が数百人、恐らく数千人により運営されている」

4.さいごに

 日本もサイバー攻撃に関しましては無関係ではありません。今までも日本が被害を受けたことが何度かあり、過去にも何度か記事を執筆しました。

「日本国警察庁に対するサイバー攻撃に思うこと」(2011年7月18日 (月))

三菱重工に対するサイバー攻撃に思うこと(2011年9月22日 (木))

衆議院にサイバー攻撃(2011年10月31日 (月))

 またこの前後にこういった報道があったことも覚えています。

16省庁でサイバー攻撃判明(2011年10月26日19時18分 NHK )

 そして今年に入りこういったニュースも報じられました。

「中国の顧客に日本に不正接続させたか」(2014年2月13日 18時40分*NHK)
「東京・池袋のサーバー管理会社の社長(劉傳聞容疑者(34))ら2人が、不正に入手した他人のIDやパスワードを使って、中国国内の顧客に日本のインターネットに不正に接続させていたとして逮捕されました。この会社のサーバーは、国内で起きた不正アクセス事件やサイバー攻撃に使われていて、警視庁で実態の解明を進めています。」、「中国国内で顧客を募り、プロキシサーバーと呼ばれるインターネットへの接続を仲介するサーバーを通じて日本のインターネットに接続させるサービスを提供していますが、これまでに、ネットバンキングの預金が不正に送金される事件やサイバー攻撃などに使われていたということです。」

「中継サーバー運営の中国人ら逮捕=発信元隠し不正アクセス容疑-警視庁」(2014年02月13日20:35*時事通信)
「政党職員や新聞記者を装い、官庁や企業を狙ってウイルスなどを添付した標的型メールの送信などに利用されていた。」

 日本に対するサイバー攻撃の一部の背後に中国国内の勢力が関与している可能性が高い具体的な証拠が入手出来たという意味に於いて、この事件の意味合いは大きいでしょう。

(下の画像はGoogleArbor Networksが運用するDigital attack Mapからで、このサイトでは世界のDDoS攻撃を世界地図上に可視化したもの。過去に遡ることも可能で、3月中は欧州・ロシア方面で非常に興味深い動向が散見される。国際情勢にて大きな動きがあった際は基本的に関係諸国で活発な動向が散見される。注:攻撃の発信国と表示されている国が実際に攻撃の発信国であるとは限りません。むしろそうではないケースが大半であると思われます)

2014年3月22日 (土)

2015年度米国防予算案が日本の防衛政策に与える影響

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(上の写真は米国防総省公式サイトより2015年度国防予算に関し2014年2月24日に演説するチャック・ヘーゲル国防長官とデンプシー統合参謀本部議長、クリックで写真拡大、国防総省の方針で配布自由

1.はじめに

 2015年度米国防予算案が公開となりました。

2015年度米国防予算要求

 オバマ大統領は2014年3月4日(月)に議会に予算を提出しており、総額は4956億ドルで前年度比4億ドルの減額です。

(下の画像はBudget Briefing-予算概要-から、 クリックで画像拡大、国防総省の方針で配布自由

Budget_totals_in_presidents_fy_2015

 またチャック・ヘーゲル国防長官が2014年2月24日(日)に記者会見を行っています。

Secretary of Defense Speech-FY15 Budget Preview-(国防長官演説-15年度予算展望-)

 その演説の中で幾つか日本の防衛政策にも少なくない影響を及ぼす可能性がある方針が二点ほど表明されました。

 まず一点目はU-2の退役とGlobal Hawkの使用継続の方針表明であり、また二点目はLCSに対して懐疑的な見解を示すとともに調達数を52隻から最大でも32隻までに減らす方向性を打ち出したことです。

2.U-2の退役とGlobal Hawkの使用継続

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(上の写真は米国空軍公式サイトからGlobal Hawk, クリックで拡大、米国空軍の方針により配布自由)

 以前から当ブログの記事でもGlobal Hawk Block30の調達及び運用のコストがU-2偵察機のそれを大幅に超過することから、Global Hawk Block30の将来性が不透明であり、日本のGlobal Hawk調達と運用に悪影響を及ぼしかねない旨を執筆しました。

「2013年度米国防予算が日本に与える影響」(2012年1月29日 (日))

「産経新聞が防衛大綱改定の概要を報じる」(2013年1月 5日 (土))

 U-2の退役とGlobal Hawkの使用継続に関し、チャック・ヘーゲル国防長官はこの様に述べています(下記は発言の抜粋と翻訳)。
-------------------------------------------------------------------
In addition to the A-10, the Air Force will also retire the 50-year-old U-2 in favor of the unmanned Global Hawk system. This decision was a close call, as DoD had previously recommended retaining the U-2 over the Global Hawk because of cost issues. But over the last several years, DoD has been able to reduce the Global Hawk’s operating costs. With its greater range and endurance, the Global Hawk makes a better high-altitude reconnaissance platform for the future.
A-10に加え、50年に亘り運用をしてきたU-2をGlobal Hawk無人機の為に退役することとする。コストの問題により、以前は国防総省はGlobal HawkよりもU-2の運用継続を推奨した為に、この決定は難しい選択であった。しかしこの数年間に亘り国防総省はGlobal Hawkの運用コストを節減することが出来た。航続距離と飛行時間がより優れており、将来に向かってGlobal Hawkはより優れた高高度偵察基盤となる。

(引用及び翻訳終了)
-------------------------------------------------------------------
 それでは具体的な予算措置はどういったものなのでしょう。Overview - FY2015 Defense Budget(2015年度防衛予算概観)の7-18(PDF第96枚目)には下記の記述がありますので抜粋し翻訳します。
-------------------------------------------------------------------Investment funds are added to RQ-4 Block 30 to ensure platform viability beyond 2023, improve reliability, and improve sensor performance to close the gaps with the U-2.

信頼性向上、U-2との能力差を埋める為のセンサー性能向上、そして2023年を超えて基盤の生存性を確実にする為の投資資金がRQ-4 Block 30に投じられる。

(引用及び翻訳終了)
-------------------------------------------------------------------
 結果としましてU-2の退役とRQ-4 Block 30の運用継続・能力向上により、少なくとも米軍が運用を中止した機種を日本が導入することになってしまう最悪の事態は回避出来る見込みとなりました。これは日本のRQ-4 Block 30の導入にプラスの要因となるでしょう。

3.LCS

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(上の写真はWikipediaよりLCSの2タイプ、クリックで拡大、著作権はPublic Domain)

(1).チャック・ヘーゲル国防長官のLCSに関する認識

 その一方でチャック・ヘーゲル国防長官はLCSに関し、下記の様に言及しています(下記は発言の抜粋と翻訳)。
-------------------------------------------------------------------
Regarding the Navy’s Littoral Combat Ship, I am concerned that the Navy is relying too heavily on the LCS to achieve its long-term goals for ship numbers.  Therefore, no new contract negotiations beyond 32 ships will go forward.
海軍の沿海域戦闘艦に関しては、長期的な隻数の目標を達成する為に海軍がLCSに重度に頼りすぎていることを私は憂慮する。従って32隻を超える新規契約交渉が進展することはない。

The LCS was designed to perform certain missions – such as mine sweeping and anti-submarine warfare – in a relatively permissive environment.  But we need to closely examine whether the LCS has the independent protection and firepower to operate and survive against a more advanced military adversary and emerging new technologies, especially in the Asia Pacific.  If we were to build out the LCS program to 52 ships, as previously planned, it would represent one-sixth of our future 300-ship Navy.  Given continued fiscal restraints, we must direct future shipbuilding resources toward platforms that can operate in every region and along the full spectrum of conflict.
LCSは比較的脅威度の低い環境で特定の任務-掃海と対潜の様な-を行うように設計された。しかし特にアジア太平洋地域でのより先進的な軍事上の敵と誕生しつつある新技術に対して任務を遂行し生存するだけの個艦防御と火力をLCSが有するか否かを、我々は厳格に検討する必要がある。以前に計画した通りにもし52隻のLCSを建造するとなると、将来の海軍の300隻の1/6を構成することとなる。財政的な制約の中では、全ての地域で紛争の全局面に於いて任務遂行が可能な基盤に我々は将来の艦船建造能力を向けなくてはならない。

Additionally, at my direction, the Navy will submit alternative proposals to procure a capable and lethal small surface combatant, generally consistent with the capabilities of a frigate.  I’ve directed the Navy to consider a completely new design, existing ship designs, and a modified LCS.  These proposals are due to me later this year in time to inform next year’s budget submission.
それに加えて、私の指示により、概ねフリゲートの能力に相当する能力と攻撃力が高い小型戦闘艦を発注する代替案を海軍は提出するであろう。私は海軍に全く新しいデザイン、現存の艦船のデザイン、LCSの改造型を検討するように指示した。これらの提案は来年度の予算提出を報告する時である今年の後半までに私に提出される。

(引用及び翻訳終了)
-------------------------------------------------------------------
 これは非常に重大な認識と言えるでしょう。チャック・ヘーゲル国防長官はLCSは低脅威度の地域に於ける限られた任務でのみの艦船であり、アジア・太平洋地域に於けるより高度な技術を有する脅威には対処出来ない可能性があると考えている模様です。そしてLCSで海軍の隻数の頭数を揃える為に使ってはならないとしています。

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(上の画像二つはそれぞれGeneral Dynamics社のカタログ(上)とLockheed Martinのカタログ(下)より、クリックで画像拡大、通常の固定武装は57mm砲x1、12.7mm機関銃x4、SeaRAM程度であることが判る。短魚雷発射管はなく、任務によっては小型の短距離対艦誘導弾も搭載するがこれは小型船舶による自爆テロや不審船対処程度であろうし先行き不透明。日本語Wikipediaには「Independence級が前甲板のMk.110 57ミリ単装速射砲は、必要に応じて、Mk.41 VLSと交換可能である。」との記述があるが、公的ソースでは確認出来ない。また英語版WikipediaにもMk.41 VLSと交換可能との記述はない。)

(2).日本版LCS 
 「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」(PDF:609KB)の第20頁及び「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)について」(PDF:517KB)の第5頁に「多様な任務への対応能力の向上と船体のコンパクト化を両立させた新たな護衛艦」との記述があります。「日本版LCS」と言われているものです。

 この「多様な任務への対応能力の向上と船体のコンパクト化を両立させた新たな護衛艦」に関しましては「世界の艦船」4月号(2014年 No.795)に仮称「多機能護衛艦(DEX)」としてイメージ図(巻頭カラーイメージ図)と記事(第81~第87頁)があり、それに関しますブログもネット上で散見されます。

「多機能護衛艦(DEX)について」( 2014年3月2日 21:47*希典のひとりごとのブログ)

上記ブログに掲載されたイメージ図

「世界の艦船」4月号(2014年 No.795)の記事にも「VLS及びSSMと思われる装備がなく、対空戦、対水上戦は近接戦闘機能のみに割り切り、その分電子戦能力を高め、高速性、ステルス性などの発揮により敵威力圏下での生存性を高める」と予測しておりコンセプトとしましてはLCSに類似しています。またこの記事によりますと短魚雷発射管の装備も不明です。

 その一方で「世界の艦船」4月号(2014年 No.795)の記事では「水陸両用戦能力の向上が新大綱の大きな要素であることから、備砲の対地攻撃能力は必要となろう」とし、候補としてVulcano弾も運用が可能なOTOメララ社の127mm/64口径軽量砲を挙げています。

 当ブログ過去参考記事:「オート・メラーラ社が射程を大幅に延伸した127mm艦砲弾を生産開始へ」(2012年11月 1日 (木)) (CEP(平均誤差半径)は20m以下で120Kmの最大射程が達成可能)

 しかしあくまで個人的な見解ですが、チャック・ヘーゲル米国防長官がアジア・太平洋地域に於けるLCSの生存性や有効性に疑問を呈したことを考慮に入れますと、この構想も何らかの影響を受けるかもしれません。

 その一方でこういった報道も散見されました。日本版LCSと関連性があるか否かは現段階では不明です。しかし念頭にあるのはLCS的な性格の艦船であると思われます。

「ヘリ搭載艦の研究で合意=日米」(2014年3月4日(火)21時13分配信*時事通信)

「特殊な艦艇「三胴船」 米と共同研究へ」(2014年3月10日 5時37分)

 ただ時事通信の記事は「排水量千数百トンクラス」としており、米国のLCSや「世界の艦船」4月号(2014年 No.795)の記事のDEXよりは一回り小型の模様です。

4.さいごに

 こうして見ますと日米ともにアジア・太平洋地域の軍事バランスの均衡が崩れつつある現実に直面しながらも、深刻な財政状況から選択と集中を余儀なくされつつあることが分かります。しかしヘーゲル米国防長官が述べたとおり、頭数を揃える為に仕様面や性能面で妥協することは避けるべきではないでしょうか。

2014年1月25日 (土)

RQ-21を海自が導入検討との報道に関して

1.はじめに

 前回の記事でも述べましたが、中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)の第5頁に「哨戒機能を有する艦載型無人機について検討の上、必要な措置を講ずる」との記述があり、また第24頁には「哨戒機能を有する艦載型無人機については、上記の哨戒ヘリコプター(SH-60K)の機数の範囲内で、追加的な整備を行い得るものとする」との注釈が見受けられます。

 防衛省の「平成26年度予算概算要求の概要」の第6頁(PDFファイル10枚目)と「平成26年度予算の概要」第4頁(PDFファイル8枚目)には下記の記述とイメージ図があり、このことからMQ-8の導入を検討していることを強く示唆するものでした。

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 当ブログの過去記事でもこの動きに関して記事を執筆しています。

「防衛省がMQ-8の導入を検討」(2013年11月 4日 (月))

 しかしここに来まして全く異なる情報を一部マスコミが報じました。護衛艦に発着が可能な固定翼機型の無人機の導入を海自が検討しているというのです。

「護衛艦発着の飛行機配備へ=海自初、無人偵察機で」(2014年01月11日(金)22:48*時事通信=リンク先はWebCiteによる魚拓)

 時事通信のこの報道によりますとこの無人機とはRQ21で、Insitu社製Scan Eagleの発展型になります。「今後5年間で19機を上限に購入する見通し」と報じています。

下の写真はWikipediaからRQ-21A, 著作権はPublic Domain, クリックで写真拡大)

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この動画はYouTubeに投稿されたScan Eagleの説明, 特徴がよくわかる, RQ21はScan Eagleと同じ発射装置と回収装置を使用する)

2.時事通信の記事の検証

 2014年1月20日現在の時点に於きまして、時事通信のこの記事以外のマスコミは報じていません。また2014年1月24日現在の時点で、防衛大臣の記者会見に於きましてもこの件に関する発表や質疑応答はないのが現状です。

 また中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)の第24頁の「哨戒機能を有する艦載型無人機については、上記の哨戒ヘリコプター(SH-60K)の機数の範囲内で、追加的な整備を行い得るものとする」との注釈から、「艦載型無人機」とは回転翼型を指していると考えるのが自然と思われます。そして「平成26年度予算概算要求の概要」の第6頁(PDFファイル10枚目)と「平成26年度予算の概要」第4頁(PDFファイル8枚目)に掲載されていますイメージからも回転翼機型を想定していると考えるのが妥当でしょう。

 その一方で防衛省はScan Eagleを導入しています。従いまして海自がその発展型であるRQ21を導入しましても、何ら不思議ではありません。

参考過去記事:「防衛省、無人機とロボット購入へ 震災教訓、有事投入も」(2011年9月17日 (土))

ボーイング社公式プレスリリース:「ボーイングの子会社であるインシツ・パシフィック社 陸上自衛隊向けのスキャンイーグルをデリバリー」(2013年5月14日)

3.RQ-21とは

 前述の時事通信の報道の写真下にもありますが、RQ-21はボーイング子会社であるインシツ社(Insitu)の製品です。厳密にはRQ-21A Blackjackは米海軍/米海兵隊向けのIntegratorとなります。

Integrator

RQ-21A Blackjack

(下の図はIntegratorのカタログから、クリックで拡大)

Integrator

同社のIntegratorのホームページには下記の記述があり、拡張性に富む機体であることも特徴の一つです。

"The aircraft’s six payload spaces can be customized with cameras, communication capabilities and other payloads to suit your operational needs."
機体の6か所のペイロードスペースはカメラ、通信能力、及びその他のペイロードにより、任務の必要性に合わせてカスタマイズすることが可能である。

(下の図はIntegratorのカタログから、Nose Bayには旋回式のセンサーと追加の15ポンドのペイロード、胴体下のCenter of Gravity (CG) Bayはサイズが40 x 10 x 5インチで35ポンドのペイロード、Wing/Winglet Baysをそれぞれの主翼に2か所のぺイロードスペースで3ポンドのペイロード、Wing Hardpointsはそれぞれ15ポンドまで、1ポンドは0.4536 kg、クリックで拡大)

Integrator_bay_hardpoints

ターレットの標準搭載センサー類は光学式撮像素子、中波赤外線撮像素子、赤外線マーカー、レーザー距離測定機となります。

4.Scan EagleとIntegrator/Blackjackの比較

インシツ社(Insitu)の公式ホームページからScan EagleIntegratorとそしてRQ-21A Blackjackのページを参考にして、筆者にてExcelで下記の表を作成しました(クリックで拡大)。

Scan_eagle_integrator_blackjack

こうしてみますとRQ-21はScan Eagleより大型化しており、また水平尾翼を持たないScan Eagleに対しRQ-21は2枚の垂直尾翼を結ぶ形で水平尾翼が設けられています(下の写真はWikipediaからScan Eagle)。

Scaneagle_uav_catapult_launcher_200

5.さいごに

 前述の時事通信の報道は「将来的に研究が進めば、戦闘機が発着艦する空母の保有につながる可能性もある」としていますが、圧搾空気式のランチャーで発射されてフックシステムで着艦する無人機と、有人の戦闘機では大きく差があり、私は特に関係がないと考えます。また米海軍でも低率初期生産に入ったばかりの機体を海自が導入するか否かは分かりません。しかし、新中期防と新大綱により様々な新たな試みが検討されていることは事実であり、今後の動向を注視していきます。

この動画はYouTubeに投稿されたRQ-21の発射と飛行の様子

2014年1月 2日 (木)

新防衛大綱と新中期防が発表

1.はじめに

 既にご存じと思いますが、2013年12月17日(火)付で新防衛大綱と新中期防が公開となっています。大変遅くなりましたが今回はその件に関して記事を執筆しました。

平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」(PDF:609KB)

中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)について」(PDF:517KB)

2.マスコミによる事前の概要報道 

 複数のマスコミが事前に「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画(中期防)」に関して概要を報じていました。

「新防衛大綱、中国念頭“離島を守る”に重点」(2013年12月11日(水)20時36分配信 NNN)

「防衛予算23兆9700億円で最終調整へ」(2013年12月13日 4時18分 NHK)

「中期防衛力整備計画 離島防衛強化のためオスプレイ17機取得へ」(2013年12月13日(金) 21時8分 FNN)

「<中期防>オスプレイ17機、18年度までに導入」(2013年12月13日(金) 22時3分 毎日新聞)

 それぞれの報道に微妙な差異はありますが、概ね下記の点で報道は一致しており、また大きな誤りはありませんでした。

中期防では、14年度から5年間の防衛力整備の所要経費を約24兆6700億円とする

日本版海兵隊の創設

水陸両用車52両の取得

オスプレイ17機の取得

陸上自衛隊の定員は現員を維持して15万9000人とする

戦車を約300両に大幅削減し北海道と九州に集中させ、機動戦闘車99両を導入

海上自衛隊の護衛艦は6隻増の54隻とする

イージス艦を2隻増やして8隻態勢、潜水艦も5隻を新たに建造

高速で航行する小型の護衛艦を新たに導入

戦闘機部隊に偵察機部隊1個飛行隊を編入して13飛行隊に

戦闘機部隊を新たに那覇基地に増やす

F-35Aを28機導入

早期警戒機か早期警戒管制機4機を導入

空中給油機3機を導入

PAC-3 MSEの導入

「弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方についても検討の上、必要な措置を講ずる」と敵基地攻撃能力の保有も検討する方向

陸海空共通の部隊に、滞空型無人機3機を配備する

3.具体的内容の検証

 私が新防衛大綱と新中期防を読み、特に注目したのは下記の点です。

(1).防衛大綱

(a)我が国を取り巻く情勢認識と構築を目指す海外諸国との提携

 ・まず今回の防衛大綱は中国を更に強く意識したものと言えます。

「海洋においては、(中略)沿岸国が海洋に関する国際法についての独自の主張に基づいて自国の権利の権利を一方的に主張し、又は行動する事例が見られるようになっており、公海の自由が不当に侵害されるような状況が生じている。」(1頁~2頁)

「また、中国は、東シナ海や南シナ海を始めとする海空域等における活動を急速に拡大・活発化させている。特に、海洋における利害が対立する問題をめぐっては、力を背景とした現状変更の試み等、高圧的とも言える対応を示しており、我が国周辺海空域において、我が国領海への断続的な侵入や我が国領空の侵犯等を行うとともに、独自の主張に基づく「東シナ海防空識別区」の設定といった公海上空の飛行の自由を妨げるような動きを含む、不測の事態を招きかねない危険な行為を引き起こしている。」(3頁)

 ・そして今回の防衛大綱では「統合機動防衛力」との新たな概念を打ち出しました。

常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動(以下「常続監視」という。)を行うとともに、(中略)安全保障環境に即した部隊配置と部隊の機動展開を含む対処態勢の構築を迅速に行う」(6頁)

多様な活動を統合運用によりシームレスかつ状況に臨機に対応して機動的に行い得る実効的なものとしていくことが必要である。このため(中略)、高度な技術力と情報・指揮通信能力に支えられ、ハード及びソフト両面における即応性、持続性、強靱性及び連接性も重視した統合機動防衛力を構築する。」(7頁)

 ・日米同盟の強化に関しましても引き続き記載があります。日米の一体化が施設面でも、人的にも、情報面でもさらに一体化が進むかもしれません。

「共同訓練・演習、共同の情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動及び米軍・自衛隊の施設・区域の共同使用の拡大を引き続き推進するとともに、弾道ミサイル防衛、計画検討作業、拡大抑止協議等、事態対処や中長期的な戦略を含め、各種の運用協力及び政策調整を一層緊密に推進する。」(8頁)

「情報協力及び情報保全の取組、装備・技術面での協力等の幅広い分野での協力関係を不断に強化・拡大し、安定的かつ効果的な同盟関係を構築する。」(8~9頁)

 ・米国以外との国の安全保障協力も記載があり、明記されている国は下記の通りです。

韓国との緊密な連携を推進し、情報保護協定や物品役務相互提供協定(ACSA)の締結等、今後の連携の基盤の確立に努める。」、「また、安全保障上の利益を共有し我が国との安全保障協力が進展しているオーストラリアとの関係を一層深化させ、国際平和協力活動等の分野での協力を強化するとともに、共同訓練等を積極的に行い、相互運用性の向上を図る。」、「さらに、日米韓・日米豪の三国間の枠組みによる協力関係を強化し、この地域における米国の同盟国相互の連携を推進する。」(9頁)

ロシアに関しては、その軍の活動の意図に関する理解を深め、信頼関係の増進を図るため、外務・防衛閣僚協議(「2+2」)を始めとする安全保障対話、ハイレベル交流及び幅広い部隊間交流を推進するとともに、地域の安定に資するべく、共同訓練・演習を深化させる。」、「また、東南アジア諸国等の域内パートナー国との関係をより一層強化し、共同訓練・演習や能力構築支援等を積極的に推進するほか、この地域における災害の多発化・巨大化を踏まえ、防災面の協力を強化する。インドとは、海洋安全保障分野を始めとする幅広い分野において、共同訓練・演習、国際平和協力活動等の共同実施等を通じて関係の強化を図る。」(10頁)

(b)我が国が整備していく防衛力
 
・その上で我が国が整備していく独自の防衛力に関しましては下記の項目が記載されました。

「領空を確実に守り抜くため、平素から諸外国の軍事動向等を把握するとともに、各種兆候を早期に察知するため、我が国周辺を広域にわたり常続監視することで、情報優越を確保する。」(12頁)

島嶼部に対する攻撃に対しては、安全保障環境に即して配置された部隊に加え、侵攻阻止に必要な部隊を速やかに機動展開し、海上優勢及び航空優勢を確保しつつ、侵略を阻止・排除し、島嶼への侵攻があった場合には、これを奪回する。その際、弾道ミサイル、巡航ミサイル等による攻撃に対して的確に対応する。」(12~13頁, 中国が島嶼部に対する攻撃と同時に、弾道ミサイルや巡航ミサイルで攻撃してくることが念頭にあると思われます。)

「また、弾道ミサイル攻撃に併せ、同時並行的にゲリラ・特殊部隊による攻撃が発生した場合には、原子力発電所等の重要施設の防護並びに侵入した部隊の捜索及び撃破を行う。」(13頁, 北朝鮮が念頭にあると思われます。)

無人装備も活用しつつ、我が国周辺海空域において航空機や艦艇等の目標に対する常続監視を広域にわたって実施する」(16頁)、「人的情報、公開情報、電波情報、画像情報等に関する収集機能及び無人機による常続監視機能の拡充を図るほか、画像・地図上において各種情報を融合して高度に活用するための地理空間情報機能の統合的強化、能力の高い情報収集・分析要員の統合的かつ体系的な確保・育成のための体制の確立等を図る」(16頁~17頁)

「各自衛隊の主要司令部に所要の陸・海・空の自衛官を相互に配置し、それぞれの知識及び経験の活用を可能とするとともに、陸上自衛隊の各方面隊を束ねる統一司令部の新設と各方面総監部の指揮・管理機能の効率化・合理化等により、陸上自衛隊の作戦基本部隊(師団・旅団)等の迅速・柔軟な全国的運用を可能とする。」(17頁)

「島嶼部への攻撃に対して実効的に対応するための前提となる海上優勢及び航空優勢を確実に維持するため、航空機や艦艇、ミサイル等による攻撃への対処能力を強化する。」、「また、島嶼部に対する侵攻を可能な限り洋上において阻止するための統合的な能力を強化するとともに、島嶼への侵攻があった場合に速やかに上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力を新たに整備する。」(17頁)

「北朝鮮の弾道ミサイル能力の向上を踏まえ、我が国の弾道ミサイル対処能力の総合的な向上を図る。」、「弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方についても検討の上、必要な措置を講ずる。」(18頁)

衛星の抗たん性を高め、各種事態が発生した際にも継続的に能力を発揮できるよう、効果的かつ安定的な宇宙空間の利用を確保する。」(18頁、下の図は「我が国の防衛と予算(案)-平成26年度予算の概要」-(PDF:4.0MB) の16頁より、クリックで拡大)

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「海賊対処のために自衛隊がジブチに有する拠点を一層活用するための方策を検討する。」(19頁、2013年11月7日(木)7時55分にも「海自ジブチ拠点拡充 邦人輸送視野、政府交渉へ」との産経新聞による報道がありました。またジブチ拠点に関しては、当ブログの2011年7月23日 (土)の記事「ジブチに建設された自衛隊初の海外基地から見えるもの」も併せてご参照ください)

陸上自衛隊:「各種事態に即応し、実効的かつ機動的に対処し得るよう、高い機動力や警戒監視能力を備え、機動運用を基本とする作戦基本部隊(機動師団、機動旅団及び機甲師団)を保持するほか、空挺、水陸両用作戦、特殊作戦、航空輸送、特殊武器防護及び国際平和協力活動等を有効に実施し得るよう、専門的機能を備えた機動運用部隊を保持する。」(19頁、ここは分かりにくい部分であると思われますので、28頁にある別表を参照しますと分かりやすいです。下はその別表、クリックで拡大、「戦車及び火砲の現状(平成25 年度末定数)の規模はそれぞれ約700 両、約600 両/門であるが、将来の規模はそれぞれ約300 両、約300 両/門とする」との注釈有。)

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海上自衛隊:「多様な任務への対応能力の向上と船体のコンパクト化を両立させた新たな護衛艦等により増強された護衛艦部隊及び艦載回転翼哨戒機部隊を保持する。」(20頁)。

航空自衛隊:「増強された警戒航空部隊」、「増強された戦闘機部隊」、「増強された空中給油・輸送部隊を保持する」(21頁)

(下の表は28頁の別表 クリックで拡大、航空偵察部隊が戦闘機部隊に編入され戦闘機部隊が12飛行隊から13機飛行隊となっているのも非常に興味深い点です。)

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駐屯地・基地等の復旧能力を含めた抗たん性を高める。」(22頁)

「武器等の海外移転に関し、新たな安全保障環境に適合する明確な原則を定めることとする。」(24頁)

(c).新大綱に関する私的まとめ
 前述しました通り新大綱は全般的に中国を非常に強く念頭に置いたものと言えます。中国による海洋進出が活発化しており、また「海洋に関する国際法についての独自の主張に基づいて自国の権利の権利を一方的に主張し、又は行動する事例が見られるようになっており」、それに伴い領海・領空・離島の主権が脅かされており、そういった活動の監視を強める為にまずISR(情報収集・警戒監視・偵察)能力の向上が新大綱では唱われていると言って良いでしょう。

 「本格的な水陸両用作戦能力を新たに整備」はその一環ですが、人工衛星や駐屯地と基地の抗堪性の向上も興味深い項目です。島嶼防衛ないしは奪還の際に、我が国に対して弾道ミサイルや巡航ミサイルによる攻撃が同時に行われる事態も想定している事を考えますと、やはり懸念されている接近阻止・領域拒否、人工衛星に対する攻撃が念頭にあると考えて良いと思われます。

 「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」の「動的防衛力」と今回の「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」の「統合機動防衛力」の違いは何でしょう。キーワード的には「迅速かつシームレスに対応するためには、即応性を始めとする総合的な部隊運用能力が重要性を増してきている」、「平素から情報収集・警戒監視・偵察活動を含む適時・適切な運用を行い(中略)重要な要素となってきている。」と共通するものが散見されます。しかし新大綱では前大綱と比較し、その手段がより具体化され統合運用の手法も明確化されている違いがあるのではと個人的には考えます。

(2).中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)

(a).構築を目指す体制

「多様な活動を統合運用によりシームレスかつ状況に臨機に対応して機動的に行い得る実効的な防衛力として統合機動防衛力を構築する。」(1頁)

「警戒監視能力、情報機能、輸送能力及び指揮統制・情報通信能力のほか、島嶼部に対する攻撃への対応、弾道ミサイル攻撃への対応、宇宙空間及びサイバー空間における対応、大規模災害等への対応並びに国際平和協力活動等への対応のための機能・能力を重視する。」(1頁~2頁)

・陸自:「各方面総監部の指揮・管理機能を効率化・合理化するとともに、一部の方面総監部の機能を見直し、陸上総隊を新編する。その際、中央即応集団を廃止し、その隷下部隊を陸上総隊に編入する。」、「2個師団及び2個旅団について、高い機動力や警戒監視能力を備え、機動運用を基本とする2個機動師団及び2個機動旅団に改編」、「沿岸監視部隊や初動を担任する警備部隊の新編」、「連隊規模の複数の水陸両用作戦専門部隊等から構成される水陸機動団を新編する」(3頁)

・海自:「1隻のヘリコプター搭載護衛艦(DDH)と2隻のイージス・システム搭載護衛艦(DDG)を中心として構成される4個の護衛隊群に加え、その他の護衛艦から構成される5個の護衛隊を保持する。また、潜水艦増勢のために必要な措置を引き続き講ずる。」(4頁)

・空自:「航空自衛隊については、南西地域における防空態勢の充実のため、那覇基地に戦闘機部隊1個飛行隊を移動させる。また、警戒航空部隊に1個飛行隊を新編し、那覇基地に配備する。」(4頁)

(b).主要事業

「イージス・システム搭載護衛艦(DDG)、汎用護衛艦(DD)、潜水艦、固定翼哨戒機(P-1)及び哨戒ヘリコプター(SH-60K)の整備並びに既存の護衛艦、潜水艦、固定翼哨戒機(P-3C)及び哨戒ヘリコプター(SH-60J)の延命を行うほか、哨戒機能を有する艦載型無人機について検討の上、必要な措置を講ずる。また、護衛艦部隊の増勢に向け、多様な任務への対応能力の向上と船体のコンパクト化を両立させた新たな護衛艦を導入する。さらに、新たな早期警戒管制機又は早期警戒機のほか、固定式警戒管制レーダーを整備するとともに、引き続き、現有の早期警戒管制機(E-767)の改善を行う。加えて、広域における常続監視能力の強化のための共同の部隊の新編に向け、滞空型無人機を新たに導入する。このほか、海上自衛隊及び航空自衛隊が担う陸上配備の航空救難機能の航空自衛隊への一元化に向けた体制整備に着手する。」(4頁~5頁、「哨戒機能を有する艦載型無人機」とは2013年11月 4日 (月)の記事でも執筆しましたMQ-8であると思われます。また滞空型無人機を運用するのが「(陸海空)共同の部隊」としているのは興味深いところです)

「「与那国島に陸上自衛隊の沿岸監視部隊を配備する。」、「移動式警戒管制レーダーの展開基盤を南西地域の島嶼部に整備する」(5頁)

「戦闘機(F-35A)の整備、戦闘機(F-15)の近代化改修、戦闘機(F-2)の空対空能力及びネットワーク機能の向上を引き続き推進するとともに、近代化改修に適さない戦闘機(F-15)について、能力の高い戦闘機に代替するための検討を行い、必要な措置を講ずる。」、「新たな能力向上型迎撃ミサイル(PAC-3MSE)を搭載するため、地対空誘導弾ペトリオットの更なる能力向上を図る。さらに、新たな空中給油・輸送機を整備するとともに、輸送機(C-130H)への空中給油機能の付加及び救難ヘリコプター(UH-60J)の整備を引き続き進める。」(5頁~6頁、この「能力の高い戦闘機に代替」とは2013年12月18日 4時37分のNHKの報道「『F35』旧型の主力機の代替に検討」によりますとF35Aであり、「将来的に100機を上回るF35を保有することで、軍事力の増強を続ける中国に対し、航空戦力を優位に保ちたい」とのことです。下の写真二枚は筆者がJA2012会場で撮影の、上からPAC-3、PAC-3MSE、THAAD クリックで写真拡大))

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「護衛艦部隊が事態に応じた活動を持続的に行うために必要な多用途ヘリコプター(艦載型)を新たに導入する」(6頁)

ティルト・ローター機を新たに導入する。さらに、現有の多用途ヘリコプター(UH-1J)の後継となる新たな多用途ヘリコプターの在り方について検討の上、必要な措置を講ずる。」(6~7頁、オスプレイよりもUH-1Jの後継が私個人としましては興味深いです。UH-X問題が解決する時が来るのでしょうか?)

「海上から島嶼等に部隊を上陸させるための水陸両用車の整備や現有の輸送艦の改修等により、輸送・展開能力等を強化する。また、水陸両用作戦等における指揮統制・大規模輸送・航空運用能力を兼ね備えた多機能艦艇の在り方について検討の上、結論を得る。」(7頁、これも非常に興味深いです。)

「全国的運用を支えるための前提となる情報通信能力について、島嶼部における基盤通信網を強化するため、自衛隊専用回線を与那国島まで延伸するとともに、那覇基地に移動式多重通信装置を新たに配備する。また、各自衛隊間のデータリンク機能の充実や野外通信システムの能力向上を図るほか、引き続き、防衛分野での宇宙利用を促進し、高機能なXバンド衛星通信網を整備する」(7頁~8頁)

「弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方についても検討の上、必要な措置を講ずる。」(8頁)

「原子力発電所が多数立地する地域等において、関係機関と連携して訓練を実施し、連携要領を検証するとともに、原子力発電所の近傍における展開基盤の在り方について検討の上、必要な措置を講ずる。」(9頁、また2013年12月22日1:03 日経新聞が「政府、原発周囲にヘリ施設検討 自衛隊の防護迅速に」と報じました。 )

「宇宙状況監視に係る取組や人工衛星の防護に係る研究を積極的に推進し、人工衛星の抗たん性の向上に努める。」(9頁)

相手方によるサイバー空間の利用を妨げる能力の保有の可能性についても視野に入れる」(9頁)

「駐屯地・基地等の抗たん性を高める。特に、滑走路や情報通信基盤の維持、燃料の安定的供給の確保を始めとして、駐屯地・基地等の各種支援機能を迅速に復旧させる能力を強化する。」(14頁)

(c).研究開発関連

「国際競争力を強化するとの観点から、我が国として強みを有する技術分野を活かした、米国や英国を始めとする諸外国との国際共同開発・生産等の防衛装備・技術協力を積極的に進める。また、関係府省と連携の上、防衛省・自衛隊が開発した航空機を始めとする装備品の民間転用を進める。」(17~18頁)

「防空能力の向上のため、陸上自衛隊の中距離地対空誘導弾と航空自衛隊の地対空誘導弾ペトリオットの能力を代替することも視野に入れ、将来地対空誘導弾の技術的検討を進めるほか、将来戦闘機に関し、国際共同開発の可能性も含め、戦闘機(F-2)の退役時期までに開発を選択肢として考慮できるよう、国内において戦闘機関連技術の蓄積・高度化を図るため、実証研究を含む戦略的な検討を推進し、必要な措置を講ずる。」(19頁)

「大学や研究機関との連携の充実等により、防衛にも応用可能な民生技術(デュアルユース技術)の積極的な活用に努めるとともに民生分野への防衛技術の展開を図る。」

(下の図は24頁に掲載された別表 クリックで拡大、「哨戒機能を有する艦載型無人機については、上記の哨戒ヘリコプター(SH-60K)の機数の範囲内で、追加的な整備を行い得るものとする」との注釈有 )

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(d).新中期防に関する私的まとめ

 F-15Jの非MSIPをF-35Aで代替することを検討することや、PAC-3MSE、新早期警戒(管制)機、空中給油機の導入などは非常に興味深いのですが、UH-X問題などは問題の根が深く簡単には解決が難しい問題です。その一方で喫緊の課題でもあります。

4.さいごに

 こうしてみますと防衛政策は中国からの考えられるほぼ全ての脅威に対して全力を振り当てていますが、予算面で限界も見られます。防衛予算を増強するのも当然ですが、やはり景気回復に全力を挙げるのが妥当と言えるでしょう。

 *あけましておめでとうございます。本年もアシナガバチを宜しくお願い申し上げます。

2013年11月25日 (月)

F-15JをF-15MJへ改修検討報道の謎

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(上の写真二枚は筆者がJA2012会場で撮影のF-15J改良構想模型 クリックで写真拡大)

1.はじめに

 航空自衛隊の関係者が航空自衛隊のF-15Jをさらに改良し、F-15MJ仕様に改修するとの一部報道がありました。

"Japan mulls F-15MJ upgrade for Eagle fighters(「イーグル戦闘機のF-15MJ改修を日本は熟考」)"(2013年11月12日 IHS Jane's*リンク先はwebciteによる魚拓)

 今回はその記事を検証することとしました。

2.記事の内容とその検証
(1)記事の内容

 下にIHS Jane'sのその記事の一部抜粋と翻訳を行います。
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The Japanese Air Self-Defense Force (JASDF) is to decide whether to upgrade its Boeing- Mitsubishi F-15J Eagle fighter aircraft to the improved F-15MJ standard, a service official said on 13 November.
航空自衛隊(JASDF)はF-15Jイーグル戦闘機を能力向上型のF-15MJ基準に改修するかどうかを決める方針であると隊員が11月13日に述べた。

Speaking at the IQPC Fighter Conference in London, JASDF spokesperson Colonel Koji Imaki disclosed that the decision will be reached "in the coming months".
ロンドンに於けるIQPC戦闘機会議での発言で、航空自衛隊の報道官であるイマキ コオジ一佐は決定が「数か月以内に」行われることを発表した。

Separate to the ongoing F-15J Mid-Life Upgrade (MLU) programme that includes improvements to the aircraft's central computer, radar improvements, an electronic counter-measures system, an Integrated Electronic Warfare System (IEWS), and new weapon systems, the F-15MJ enhancement includes a new M-Scan radar and a Link 16 datalink. While Col Imaki did not say which company would provide these systems, he did say they would be sourced from abroad rather than be domestically produced.
機体の中央コンピュータ改修、レーダー向上、電子妨害システム、統合電子戦システム(IEWS)、新武器システムを含む現在進行中のF-15J中間寿命改修(MLU)とは別に、F-15MJ改修は新型MスキャンレーダーとLink16データリンクを含む。イマキ一佐はどの業者がこれらのシステムを納入するかは述べなかったが、国内生産よりも海外から供給されると述べた。

The colonel did not divulge how many of the JASDF's 156 F-15Js are being considered for this F-15MJ improvement, nor did he provide timelines.
一佐は航空自衛隊の156機のF-15Jのうち何機をF-15MJとすることを検討しているか、そして具体的なスケジュールに関して公表しなかった。

Col Imaki's revelations on the F-15J upgrade chime with comments by Jim Armington, vice-president of business development for the East Asia-Pacific Region at Boeing Defense, Space, and Security, who told IHS Jane's in late October that Boeing was "very involved" in the JASDF's F-15 upgrade programmes.
イマキ一佐のF-15J改修に関する公表は、ボーイング防衛・宇宙・安全保障部門のビジネス発展 東アジア-太平洋地域担当Jim Armington副社長による航空自衛隊によるF-15改修プログラムに「深く関わっている」との10月下旬のコメントと合致している。

"Now we are talking about a major upgrade involving some of the new technologies that are coming into the F-15 Advanced [the latest F-15 concept shown at the Seoul International Aerospace and Defense Exhibition]: the AESA [active electronically scanned array] radar, the new mission computer, the cockpit display," Armington said.
先進版F-15(ソウル国際航空機・防衛展示会で展示された最新式F-15概念)に組み込まれた新技術を含んだ大規模な改修に関して現在協議中である。 :AESA[能動電子走査配列]レーダー、新作戦コンピュータ、コックピットディスプレイ」であるとArmington氏は述べた。

(引用及び翻訳終了)
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(2)内容の検証
(a)IQPCとは

 このIQPC戦闘機会議とは何でしょう。彼らはIQPC(International Quality & Productivity Center:国際生産性本部)の一部であり、公式ホームページを持っています。

Internatinal Fighter

 このホームページによりますと、スポンサーはRaytheonBoeing、DISCOVERY AIR Defense services、Eurofighter TyphoonSAABです。このホームページの議事日程の項目のMain Conference Day 1にイマキ コオジ一佐によるプレゼンスケジュールが掲載されていました。概要のみであり具体的な内容は記載されていませんが、航空自衛隊のイマキ コオジ一佐がこの会議でプレゼンを実施したことはこれにより確認できます。

(b)F-15MJ改修内容は
 
F-15MJとは厳密には恐らくF-15 Modernized Japanの略称であり、単純にF-15J改修の英訳ではないかとする説が一部にあります。F-15J改修に関しましては以前にもこのブログで執筆したことがありました。

「米空軍のF-15改良計画に思うこと」(2011年11月25日 (金))
「ボーイングによる試験は(米空軍の)F-15C/Dの寿命が9,000時間から18,000時間に延ばすことが出来る。」

「JA2012国際航空宇宙展に於ける各メーカー表明事項-前半-ボーイング社編」(2012年10月20日 (土))
「機体のセンサー、電子機器、武器に相当な追加の改善を視野に入れる。」(またこの過去記事から上のJane'sの記事に登場したボーイング防衛・宇宙・安全保障部門のビジネス発展 東アジア-太平洋地域担当Jim Armington副社長が元F-15パイロットであることが分かります)

 上のJane'sの記事でも分かりますが、現在実施されています形態Ⅰ型、形態Ⅱ型を更に改修した機体である様です。
(下の画像は防衛省「平成20年度予算の概要」(PDF)より クリックで拡大)

F15

 この形態Ⅰ型では既にAPG-63(V)1へ換装されていますが、レーダーをさらに改修するとなりますと、このM-Scan radarを如何に解釈するかが問題となります。 Mechanically scan radar:機械式走査方式レーダーを指しているのか、それともMulti-Scan radarつまりAESAレーダーを指すのかです。形態Ⅰ型にてAPG-63(V)1に交換されており、F-15Jに搭載可能なこの次のレーダーとなりますとAPG-63(V)3のみとなりますので、ここはやはり後者のAESAレーダーと考えるのが自然と言えます。またJim Armington副社長はAESAであると明言していますので、まず間違いがないと言えるでしょう。

(下の画像はWikipedia日本語版からAPG-63(V)3の図解、そもそもはRaytheon社の配布物からの模様であるが、今はリンク切れとなっている)

Anapg63v3

 Jim Armington副社長は日本側と協議中のF-15J改修に関しましては、上のJane'sの記事に掲載されていたコメントでソウル国際航空機・防衛展示会で展示された最新式F-15概念と述べており、F-15SEがイメージ的に近いと予想することが可能でしょう。

F-15SE Silent Eagle Cockpit Mock-up

(上の写真はFlickerに投稿されたF-15SEのコクピットモックアップの埋め込み画像)

 実際のところは予算面からどの程度まで実現化されるかは分かりません。イマキ コオジ一佐が述べた通りにAPG-63(V)3とLink 16にとどまると考えるのが恐らくは妥当でしょう。またAPG-63(V)3とLink 16を加えるとするならば、レーダーがAPG-63(V)1に交換されてデータリンクを搭載したJ-MSIP機体で形態Ⅰ型以上の機体を対象とするのが現実的です。

3.今回の報道の意味合い
 この報道が事実だとしますと、航空自衛隊の今後の最終的なF-35A調達数にも若干の影響を及ぼすかもしれません。またF-15Jを予算面から長期に亘り運用するということが前提にあり、そうだとしますとやはり厳しい財政状況に影響を受けたことによるものであり、余り喜ばしいことと言えないのかもしれません。

2013年11月 4日 (月)

防衛省がMQ-8の導入を検討

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(上の写真はWikipediaからMQ-8B、 クリックで写真を拡大、著作権はPublic Domain)

1.はじめに

 防衛省の「平成26年度予算概算要求の概要」の第6頁(PDFファイル10枚目)に下記画像の記述がありました(クリックで画像拡大)。

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 予算総額的には200万円と少額です。しかしここに来まして防衛省がMQ-8の導入を検討している旨をNHKが報じました。

「尖閣監視 無人ヘリ導入も視野に」(2013年10月28日 4時57分 NHK*リンク先はWebCiteによる魚拓)

 艦載型無人航空機を調査する理由に関しましては、NHKの報道では

(1). 尖閣諸島など南西地域にて有人の艦載ヘリコプターによる監視活動を行っているが、飛行できる時間が3時間程度であることから、長時間の監視が必要になる場合は給油のため着艦を繰り返す必要があり、パイロットの負担が課題となっている。

(2). 米海軍が配備を進めているMQ-8は偵察活動をおよそ8時間に亘り連続して行うことが可能であり、自衛隊の護衛艦でも使うことで飛行時間を延ばし、監視能力を向上することが可能か調査を実施する。

 としています。今回の記事ではMQ-8に関しまして調べることとしました。

このYouTube動画Northrop Grummanの公式アカウントにより投稿されたMQ-8BがLCS-1から発着艦試験を行う様子)

2. MQ-8の特徴と仕様

 Northrop Grummanの公式サイトにMQ8Bの簡単なカタログがあります(PDF注意)。下記にその本文の一部抜粋と翻訳を行います。
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With a total endurance of eight+ hours, the Fire Scout can provide more than six hours time on station with a standard payload at 110 nm (200 km) from the launch site. A system of two Fire Scouts can provide continuous coverage at 110 nm. Utilizing a payload that includes electro-optical/infrared sensor with laser rangefinder/illuminator and a maritime radar, the Fire Scout can find and identify tactical targets, track and illuminate targets, accurately provide targeting data to strike platforms and perform battle damage assessment.

八時間以上の航続時間により、ファイアスカウトは離陸地点から110nm(200km)の距離にて標準的なペイロードで六時間以上の滞空をすることが出来る。二式のファイアスカウトにより切れ目のない監視を110nmの距離で実施することが可能となる。電子光学/レーザー距離計/と組み合わさった赤外線センサー/照明器と海洋レーダーを含むペイロードを活用することにより、ファイアスカウトは戦術ターゲットを発見・識別し、ターゲットを追跡し照射し、攻撃プラットフォームにターゲットデータを正確に提供して戦闘損害評価を実施する。

Fuselage Length  (with Dual Payload Nose)
胴体全長(機種にデュアルペイロード有時)...............23.95 ft (7.3 m)

Fuselage Width
胴体幅...........................................6.20 ft (1.9 m)

Length (with Blades Folded Forward)
全長(回転翼を前方に折り畳み時) ..... 30.03 ft (9.2 m)

Rotor Diameter
回転翼直径...................................... 27.50 ft (8.4 m)

Height (Top of Tail Antenna)
全高(尾部アンテナの頂上まで).................. 9.71ft (2.9 m)

Gross Weight
総重量................................ 3,150 lbs (1428.8 kg)

Engine
エンジン.. Rolls Royce 250-C20Wターボシャフトエンジン

Speed
最高速度 ................................................................... 115ノット(213km/h)以上

Ceiling
上昇限度................................................... 20,000 ft (6.1 km)

Endurance(航続距離)
Total Flight Time with Baseline Payload
基準ペイロードでの総飛行時間.......... 8時間以上

Total Flight Time with EO/IR + Radar
EO/IR+レーダー搭載時の総飛行時間 .................7時間以上

Total Flight Time with Maximum Payload
最大ペイロード時の総飛行時間 ........5時間以上

Payloads
ペイロード
EO/IR/LRF/機雷探知機/通信中継/海洋レーダー

(引用及び翻訳終了)
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2013年11月05日(火)00:00追記:RQ-8Bカタログ詳細版 (下の画像は詳細版カタログから図面、 クリックで画像拡大)

Rq8bdrawing

(2013年11月05日(火)00:00追記:下の画像はRQ-8Bカタログ詳細版から寸法図面と搭載可能なセンサー類、クリックで拡大)

Rq8b_dimension

Rq8b_sensors

 こうしてみますとNHKの報道にありました「偵察活動をおよそ8時間、連続して行うことができる」との報道は厳密には正確ではなく、基準ペイロードのみでの最大航続時間あることが判ります。EO/IR+レーダー搭載時の総飛行時間はカタログにもあるとおりに7時間以上であり、また離陸地点から110nm(200km)の距離にて警戒監視活動を行うとなりますと、その地点まで最大速度で向かったとしまして片道約1時間弱程度でしょうか。

(このYouTube動画Northrop Grummanの公式アカウントにより投稿されたMQ-8BのEOと赤外線カメラの撮影画像、下部に高度、飛行速度、ターゲットとの距離が表示されている)

3.おわりに

 NHKの報道にもありますが、「有人のヘリコプターとの任務をどのように仕分けるのか」との課題や、また検証の結果として採用が決定した場合は何機を導入するのか、どの護衛艦に搭載するのか、も興味深いところではあります。

 RQ-4グローバルホークの導入も確定しており、また2013年5月にはBoeing社がScanEagleを陸上自衛隊に2機納入(あくまで運用研究目的ではありますが)しており、無人機によるISR能力の向上が高まっていくこととなるでしょう。

過去関連記事

「産経新聞が防衛大綱改定の概要を報じる」(2013年1月 5日 (土))

「防衛省、無人機とロボット購入へ 震災教訓、有事投入も」(2011年9月17日 (土))

2013年10月19日 (土)

米国防総省が空自AWACSの近代化改修計画の概要を発表

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(上の写真は筆者の友人である「三菱F-2B@横須賀鎮守府所属」氏から提供を受けたE-767の写真、クリックで写真拡大)

1.はじめに

 時事通信が先月27日に米国防総省が「航空自衛隊の早期警戒管制機AWACS4機の近代化改修に必要な装備を計9億5000万ドル(約940億円)で日本に売却する用意があると米議会に通知した」旨を報じました。

「空自の早期警戒機、改修へ=電子支援装置など売却-米」(2013年09月27日(金)10:15*時事通信 リンク先はWebCiteによる魚拓)

 この早期警戒機改修は急に決まった話ではなく、平成25年度予算平成26年度予算の概算要求には盛り込まれています。

(下の画像は防衛省平成25年度予算から主要な航空機関連予算の一覧表、赤の下線と楕円は筆者によるもの、クリックで画像拡大)

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(下の画像は防衛省平成26年度予の算概算要求から主要な航空機関連予算の一覧表、赤の下線と楕円は筆者によるもの、クリックで画像拡大)

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2.早期警戒管制機改修の具体的内容

 改修に関しましては以前にも当ブログにて若干触れたことがあります。

「防衛省平成25年度予算概算要求が公表される」(2012年9月16日 (日))

 早期警戒管制機(E-767)の能力向上に関します「平成24年度政策評価書(事前の事業評価)」(PDF)には「中央計算装置等の換装、電子戦支援装置の搭載等を実施し、情報処理能力等を向上させる。」、「島嶼部等の狭い範囲に多数の航空機、艦艇等の混在が予想される事態等において、現有のE-767では脅威情報の判別等に必要な各種能力が十分ではないため、本事業による能力向上が必要である。」、「電子戦支援装置の搭載により、各種脅威の探知及び判別が可能となり、自機への脅威対処及び味方航空機への脅威情報の提供が可能となり、事態対処時の優位性が確保できる。」、「航跡処理能力の向上により、多数の航空機、艦艇等の混在が予想される狭い範囲に おいても適切な対処が可能となる。」との説明があります。また同資料の参考「早期警戒管制機(E-767)の情報処理能力等の向上概要」(PDF)では図解を見つけることが出来ました(クリックで図解拡大)。

E767_upgrade

 しかしこの「中央計算装置等の換装、電子戦支援装置の搭載等」が具体的に何であるかは不明でした。その詳細の一部が米国で公開されました。

3.DSCAによる議会への通知

 時事通信の報じる米国防総省による議会への通知とはDSCA(米国防安全保障協力局)による通知を指していると思われ、主要な武器輸出に関する事柄はDSCAの公式ホームページの「武器販売通知」のページで確認をする事が可能です。その中で確かに2013年9月26日(木)付けで日本にE-767の電子機器改修の関連機材を売却する可能性を議会に通知した旨の発表を見けることが出来ました。

Japan-Airborne Warning and Control System (AWACS) Mission Computing Upgrade (MCU) (「日本向け早期警戒管制機ミッション・コンピュータ改修」(PDF注意)

 下記にその本文の一部抜粋と翻訳を行います

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The Government of Japan has requested a possible sale of an E-767 Airborne Warning and Control System (AWACS) Mission Computing Upgrade (MCU) that includes 4 Electronic Support Measure (ESM) Systems, 8 AN/UPX-40 Next Generation Identify Friend or Foe (NGIFF), 8 AN/APX-119 IFF Transponder, and 4 KIV-77 Cryptographic Computers. Also included are design and kit production, support and test equipment, provisioning, spare and repair parts, personnel training and training equipment, publications and technical documentation, U.S. Government and contractor engineering and technical support, installation and checkout, and other related elements of program support. The estimated cost is $950 million.

日本政府は、4式の電子支援対策(ESM)システム、8式のAN/UPX-40次世代敵味方識別装置、8式のAN/APX-119 敵味方識別トランスポンダ、4式のKIV-77暗号化コンピュータを含むE-767早期警戒管制機(AWACS)の検討されているミッション・コンピュータ改修の販売を要請した。設計と道具生産、支援と試験装置、プロビジョニング、スペアと修理部品、要員訓練と訓練装置、出版物と技術文書、米国政府と受注業者による技術的支援、インストールと確認、及びその他の計画支援要素もまた含まれる。予想される金額は9億5000万ドルである。

This upgrade will allow Japan’s AWACS fleet to be more compatible with the U.S. Air Force AWACS fleet baseline and provide for greater interoperability.
この改修により日本のAWACS編隊は米空軍のものとより同等となり、さらなる相互運用性をもたらすであろう。

The principal contractor will be Boeing Integrated Defense Systems in Seattle, Washington.
元請業者はワシントン州シアトルのボーイング統合防衛システム社となるであろう。

Implementation of this proposed sale will require multiple trips to Japan involving U.S. Government and contractor representatives for modification kit installations, testing, technical reviews/support, and training over a period of eight years.
この販売提案の実施は8年間に亘る改修キットインストール、試験、技術的見直し/支援、そして訓練の為に米国政府要員と業者による複数回の日本への出張を要するであろう。

(引用及び翻訳終了)
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4.AN/UPX-40、AN/APX-119、KIV-77とは

 この米国防総省による公開により改修内容の概要が判明しましたので、具体的に名称が公開された器具に関しまして調べてみました。

(1).AN/UPX-40次世代敵味方識別装置
 これに関しましては比較的詳しい資料を見つけることが出来ました。メーカーのカタログであると思われます。

AN/UPX40V(PDF)

 このカタログからメーカーはニューヨークにあるTelephonics Corporationです。下記のような特徴を列挙しています。

・2000 target capacity(2,000ターゲットの容量)

・Probability of Detection(探知可能性): 99.9%以上

・False Target Reports(偽目標報告): 0.04%以下

・ Overall Multiple SSR Target Report(全般的複数航空用二次監視レーダ目標報告): 0.3%以下

・コード利用可能範囲: 98.5%以上

・コード正確性: 99.9%以上

・Positional Accuracy, Systematic Errors (位置正確性、系統エラー)

- Slant range bias(スラントレンジバイアス): 15メートル以下

- Azimuth bias(方位角バイアス): 0.022°以下

- Slant range gain error(スラントレンジゲインエラー): 1 m/nm以下

(2)AN/APX-119敵味方識別トランスポンダ

 これに関しましては詳細な情報は得られませんでした。しかしレイセオン製であることは分かりました。

APX-119 IFF Digital Transponder

(3)KIV-77暗号化コンピュータ

 こちらに関しましては残念ながら全く資料を得ることは出来ませんでした。

5.おわりに

 電子機器に関する情報が公になるのは極めて珍しいことと言えますので、今回の米国防総省の発表は極めて貴重なものと言えるでしょう。金額的には計9億5000万ドル(約940億円)であり、単純計算で一機あたり235億円の改修費用となり極めて高額です。そもそものE-767の単価は約550億円前後でしたので、そのことを考えますと日本政府が如何に早期警戒管制機の能力向上を重視しているかが分かります。その一方で平成25年度予算平成26年度予算の概算要求ではそれぞれ101億円と136億円の予算計上となっており、この差額はやや気になるところではあります。そうしますと日本政府は平成25年度予算平成26年度予算の概算要求以外の更なる改修を検討しているのでしょうか。

 また2013年10月 7日 (月)の当ブログ記事「防衛省平成26年度予算概算要求を読んで」でも触れましたが、「新たな早期警戒機の導入に向けた性能・運用方法等に関する検討を実施」し、「平成27年度予算に、新たな早期警戒機の導入に係る経費を計上することを目指して検討作業を本格化」すると防衛省平成26年度予算概算要求はしています。これとのバランスも注目されるところです。

(下の写真は筆者の友人である「三菱F-2B@横須賀鎮守府所属」氏から提供を受けたE-767の写真、クリックで写真拡大)

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2013年10月14日 (月)

機動戦闘車(試作車)が公開される

1.はじめに 

平成25年10月9日(水)、防衛省技術研究本部・陸上装備研究所(神奈川県相模原市で機動戦闘車(試作車)が公開されました。

(これは陸上自衛隊の公式公式アカウントにより投稿された機動戦闘車のYouTube動画

(これはdragoner JP氏により投稿された「防衛省技術研究本部陸上装備研究所にて公開された、機動戦闘車­の動作デモと記者会見の様子」のYouTube動画

この記者会見で私個人として興味深く感じたのは下記の二点です。

dragoner JP氏により投稿された動画の約2:45~2:50の前後で、開発が平成20年度から四段階に分けて実施され、先月末に最終形態の試作車輌が完成したこと。

dragoner JP氏により投稿された動画の約4:59~5:10の前後で、現時点で世界に於いて最高水準の105mm級の砲塔を搭載した装輪戦闘車輌であること

 この「現時点で世界に於いて最高水準の105mm級の砲塔を搭載した装輪戦闘車輌」とはどの観点を指して述べたものであるかは不明です(砲の威力、情報収集能力、生存性、機動性)。またその根拠も分かりません。

2.公式資料から分かる機動戦闘車の特色

 「平成19年度 事前の事業評価」の機動戦闘車に関する「本文」(PDF注意)では、下記のことが分かります。

(1)開発目的が「ゲリラや特殊部隊による攻撃、島嶼部に対する侵略事態などの多様な事態への対処にお いて、空輸性、路上機動性等に優れた機動力をもって迅速に展開するとともに、中距離域での直接照準射撃に より軽戦車を含む敵装甲戦闘車両等を撃破するために使用する」ものであること

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(上の画像は「平成19年度 事前の事業評価」の機動戦闘車に関する「参考」から、クリックで画像拡大)

(2)敵徒歩兵等が携行する主な火器等に抗たんできる防護力を有する

(3)「現有弾薬の適合性」がある(機動戦闘車の主砲は105mmであるから、74式戦車と弾薬を共有することが出来ることが分かる)

(4)「火砲の低反動化、射撃反動抑制、走行振動抑制」も重視されていること。(前述の陸上自衛隊の公式公式アカウントにより投稿された機動戦闘車のYouTube動画のラストの射撃場面でも非常に安定していることが分かる)

(5)「将来装輪戦闘車両」の研究成果の反映の可能性」、「将来装輪戦闘車両の研究試作、新戦車の開発等の技術・成果を活用」との文言がある。また機動戦闘車に関する「平成24年行政事業レビューシート」によると、「民生品の活用が可能な部分については部品レベル等まで既に活用しており、また過去の技術的成果を積極的に取り入れ、設計、製造を実施している」との文言があり、過去の装備品の技術や部品が活用されていると思われる。新戦車(10式)とはセンサーが酷似しているとの指摘がある。

参考:dragoner.ねっと様 「機動戦闘車のファーストインプレッション」(2013年10月10日木曜日) 「砲塔左に車長用パノラマサイト。10式のに似ている」、「10式にも見られたミサイル検知用と思しきセンサが砲塔左右正面にある」、「砲塔右には砲手用の固定サイト。これも10式と逆配置で、より小さい気がする」、「環境センサー。(中略)10式と同じタレス製のセンサー。」

3.機動戦闘車は戦車を代替し得るか

 機動戦闘車は防衛大綱に於ける戦車の定数枠内に含まれるか否かが一つの論点としましてありますが、私は含むべきではないとの立場です。その根拠は前項目の(1)の「軽戦車を含む敵装甲戦闘車両等を撃破」すること」を目的としているのであり主力戦車の撃破は想定していないこと、(2)の「敵徒歩兵等が携行する主な火器等に抗たんできる防護力」程度であり敵主力戦車の主砲に耐え得る防護力までは有していないと考えられることです。また海外ではBattle tank(戦車)とは"an enclosed armored military vehicle; has a cannon and moves on caterpillar treads."(装甲で囲まれた軍用車輌で、主砲があり装軌式で走行するもの)との定義が最も一般的な模様ですが、但しこの定義が誰によりいつどこで提唱されたかは不明でした。

 但し財政上や政治力学的な要素から、実際は最終的にどの様な扱いとなるかは現時点では不明です。

 因みに今回の発表会の機動戦闘車の乗員は偵察教導隊であったとのことでした。 (参考:dragoner.ねっと様 「機動戦闘車のファーストインプレッション」(2013年10月10日木曜日)

4.その他の装輪式装甲車輌との関係

 若干気になるのが現在計画中/開発中のその他の装輪式装甲車輌との関係です。可能であれば車体そのものを再活用したいところですが、必要とされる車体の規模もあり、またメーカーも異なることもあり(各メーカーのノウハウの部分もあり)困難でしょう。機動戦闘車は三菱重工製です。それに対して一般的に装輪式装甲車輌はわが国に於きましては小松製作所がプライムとなる傾向があります。

 相互のフィードバックがあり得るものとしましては、NBC偵察車(将来装輪戦闘車両の研究との部品及び構造の共通化等を実施)、今回の機動戦闘車、近接戦闘車、装輪装甲車(改)高射機関砲システム等を列挙することが可能でしょう。

 「平成19年度 事前の事業評価」の機動戦闘車に関する「本文」では「『将来装輪戦闘車両』の研究成果の反映」、「開発の途上で得られた設計成果を逐次に他の装輪戦闘車両へ適 応させる」との記述がありました。今回の発表会の機動戦闘車の乗員が偵察教導隊であったことを考慮しますと87式偵察警戒車の後継として検討されている可能性もあり、そうだとしますと近接戦闘車との関連が不明です。

 また防衛省平成26年度予算概算要求では装輪装甲車(改)の研究開発の予算も47億円が計上されており、近接戦闘車の位置付けがより不明確となってきています。

(下の画像は防衛省「平成22年度 事後の事業評価 評価書一覧」から近接戦闘車に関する「資料」の「運用構想図」、 クリックで画像拡大)

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5.さいごに

 今回の記事はtwitter上に於ける「1053式二脚走行型戦車男@最早末期」様との意見交換と資料提供により執筆しました。ここに感謝の意を表し、今回の記事を締めくくらせていただきます。

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